昨日はどんなゴミ?

昔は、部屋に物が溢れかえっていた。
足の踏み場もないほど散乱した洗濯物、空き缶、弁当の容器。
なにも、昔から掃除ができないわけじゃない。ただ、忙しい日々の中で掃除をするタイミングを失っただけ。
でも、ただそれだけで、自分の生活がこんなにも圧迫されてしまっていた。

上手くいっていない人間関係。昔に感じた後悔の記憶。
そういったものが全部嫌になって、それから逃げる為に部屋のものをすべて捨てた。
思い切れば、意外となんともなかった。要るもの、要らないものを選別する必要がなく、目の前のもの全てをゴミ袋に押し込んでいくだけだった。

そうして日の目を見たフローリングの床はピカピカで。カーテンの隙間から漏れる光が反射して自分を照らして、なんだか誇らしい気分になった。

でも、だからといって自分の生活が変わるわけではなかった。
これまでと同じように、嫌なことは積み重なっていく。
いつからか溜め息が増えた。
”溜め息をすると幸せが逃げる”なんて言うけれど、こうやって不幸を吐き出さないと、身体がバラバラに壊れてしまう気がした。

しばらくして、部屋が薄っすら暗くなっていることに気がついた。
でもフローリングはピカピカで、ゴミなんてこの部屋には残していない。
ならたぶん、溜め息のせいだ。この部屋にこもった自分の日々の膿が、こんな事を引き起こしているに違いない。
でも、どうやって捨てればいいのか…。
視線を走らせる。目に留まったのは、ゴミ袋だった。
そうだ、ゴミはゴミ袋へ入れるに限るじゃないか。

ゴミ袋を両手で持って空気を含ませる。大きく両手を広げて、部屋を歩き回った。
ちょうど昔遊んだ、大きなシャボン玉を作る時に見えない事もないな。
ちょっと楽しくなってきて、鼻歌交じりに今日をゴミ袋に詰めていった。

ゴミ袋の口を縛ってから重要なことに気がつく。
これは、どのゴミに分別されるんだろう?
今日を捨てた事なんて今まで一度もないし、そもそも概念なんだからゴミの分類にすら当てはまらない。

ふと気になって、空気でパンパンになった袋を眺めると、それは燃えるゴミの袋だった。
燃えるごみは、ゴミ焼却炉で燃やされる……。
そうだ、この袋に詰まっている鬱屈とした感情なんて、爆発してしまえばいい。
大爆発を引き起こして、建物も、従業員も、嫌なこの街の人達だって、みんなみんな自分の溜め息でバラバラになってしまえばいいんだ。
みんなみんな、死んじゃえばいいんだ。

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