見出し画像

稲作創話「棚田物語」乙類04「ブルトラ2号の暴走と田中(でんちゅう)沈没」

 トラクターシリーズ第3弾。最終回の予定です。ただし、今後、今乗っているV3トラクターで何も起こらなければですが。(オレンジ色だからって、V3は、こじつけだろう!)
で、題だけですと、何のことかと思われると思います。
「トラクターって、オートマ車みたいに暴走するの?」 普通は、しません。
「田圃って、沈没するの?」 普通は、しません。
普通は起きないことが、私の意に反して、また、私の腕、操縦能力とは関係なく、私が乗車しているときに起こってしまったのです。このブルトラ(ブルー色のトラクター)2号に乗っていて。
しかし、強運の私は、今回のアクシデントも、一つ間違えば、また2メートル下の田圃か谷底に落ちるところを、本当に無事に乗り切る(乗り切ってない! 落ち切った!)ことができました。めでたし、めでたし!
 
先ず、暴走ですが、おめでたいことに、このブルトラ2号は2回もしでかしてくれました。原因は、ともに同じで、右車輪のみが突如ロックして右に急旋回をした、です。
ちょっと、想像してみてください。運転している車の右車輪だけが急ブレーキ状態になったら、当然、車は、恐ろしい速さで右に急ハンドルを切った状態になり、運転しているあなたは、何が起こったかわからずにブレーキを踏む。しかし、時すでに遅しで、右に歩道があって人が歩いていたら、間違いなく撥ねてます。人でなくてそこに電信柱がつっ立っていたら、間違いな突っ込んでフロントガラスをあなたの頭は割っています。と同時に、あなたの頭も割れています。シートベルトをしていたら、首だけが前方にぶっ飛んでいくだけで済むかもしれませんが。また、その時に右側が崖だったら、シートベルトをしているあなたは、車と一緒にまさに崖の下で、ボニョっとなって、命があれぼ儲けものです。
 
1回目は、右が50㎝程の下がった所に田圃が広がっている道を、高速で登っているときに起こりました。しかもその道は上り坂。登れば登るほど田圃との段差は大きくなり、実際に落ちて、トラクターが引っくり返ったのは、まだ、その登り口3号目あたり。助かりました。が、写真にある通りの結果です。
回り始めて、先ずはハンドルを左に思いっきり切って、元に戻そうとしましたが、左前の車輪は高速で回転しているのですから、真っ直ぐに車輪がなったところで右回りを止めることはできません。
で、ブレーキを踏むタイミングも遅くなり、田中に、ボテッと入って、勢いついてますからゴロリと引っくり返りました。私は、その前の瞬間に飛び降りまして、事なきを得ましたが。
これが、数秒後、もっと高い所で起こっていたら、1メートル以上の高さからではありますが、思いっきりこのボロトラ、否、ブルトラと再び、抱き合い心中。頭から田中に突っ込んでいます。シャレになりません。

前から見るとこうなります。

2回目は、方向が逆、つまり、その坂を下ろうとしたときに起こりました。
そう、田んぼ側ではなくて、水路側のブロック垣に突っ込んで、水路に右車輪がはまったまま、ブロック垣に車体を擦り付けて数メートル走りました。この時も、とっさに左にハンドルを切りましたが、そもそも、溝に右車輪がはまったまま、左前車輪だけで走っていますから、ハンドルを左に切ることも叶わずに、水路に沿ってブロック垣に車体を押し付けたまま、しばらく走りました。すぐに、クラッチを切ればよかったのですが、今回も、何が起こっているのか理解しようとして、ブレーキもクラッチも踏めずに、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ、ガ-、でした。
この時も、強運の私は、反対側が田圃が切れて、崖になっている側ではなくて、落ちることのないブロック垣側に急旋回したので、助かりました。
 
思えば、私は、そうとう強運なのだと思います。が、こんなことで運を使い果たしたくはないのです。
でも、仕方ない。これが私の運命、使命、だれとも交換できない私だけのものなのですがか。
人は自分の運命を生きるしかない。そして、その運命は人とは違う。それだけ。
 
そして、田圃が沈没した話。
これも、私の強運の証明かもしれませんが、この経験で、私は、棚田の構造を知りました。
棚田の地下には河原があって、そこを水は「さらさらと、さらさらと流れているのでありました……(って、中原中也かよ!)「小石ばかりの、河原」ではなくて、確かに空洞があったはずです。でないと、トラクターごと田中で埋もれません。では、その空洞はなぜできたか? やはり、「小石ばかりの、河原があって」、「今迄流れてもいなかったそこを川床に、水はさらさらと、さらさらと流れているのでありました……」か!
って、そんなにうつくしい情景でもないはずですが、どうも私には、この「一つのメルヘン」のように思われてならないのです。そんな空想の中で、酔い痴れたいような……。
 
「水が抜けるから、代掻きはしっかりしておけよ」とは、近所のいとこたちの助言です。「練りが足りないから、水が抜けてしまうんや」と。平地の田圃は知りませんが、棚田の水は、直接、下に漏れるようです。では、その漏れた水はどこに? 田の下の「小石ばかりの、河原」に?
 そう、そうやって水が田の地下にしみ込んで、石垣の方向にでも流れて行って「河原」ができて、そこの土が水と共に去って、空洞になり、ある日突然、代掻きしている私とトラクターを落とし穴よろしく落とし込んで、泥だらけのニーナ!(「傷だらけ」だろ! もういい!)。
 こうそれからは、メルヘンどころではない現実。従兄弟を読んで、ユニックで持ち上げて、引っ張って。それでも、方向が合わないので、泥が乾くまで待って、最後、持ち上げて、今度は、近くに別のトラクターと従兄弟を持ち込んで、こいつに引っ張ってもらって、何とか脱出成功。
 その後、トンボでならして、コロガシで代掻きして田植えしましたが、何と例年よりたくさん採れました。感謝!
 
 棚田では、こんな思いもよらない不思議がまま起きます。それが、棚田稲作の醍醐味!でしょうか。そして、その醍醐味は、私の場合、多くトラクターと共にありました。
 これにて一応、トラクターシリーズは終了いします。
 また、なるべくなら遭遇したくないこんな出来事がありましたら、ご報告させて頂きます。
 それでは、次は、トラクターの子分?、「耕耘機を人質に取られた話」をします。ご期待くださいませ。
 しかし、棚田でのお米作りは、まさに命がけです。
 そう、正義の味方月光仮面ライダーのように。(誰だ、それ!)
 または、田面ライダーのように(ますます、誰だそれ!)
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?