見出し画像

自由律ラジオ「はじまり」前半。

 昨年の暮れ。
 おのぎのあさんと自由律俳句をテーマにしたラジオを公開させて頂きました。
 
 テーマは、「はじまり」。





https://rec.audio/recs/bvldg5q23akg02hkjr9g


 のあさんが提案してくれたその言葉は、ラジオ初心者の私達にもぴったりだと思いました。
 結果、皆さんのおかげで当初の予想を遥かに超える応募と反応。
 公開前のボタンを押すのが、少し怖くなったことを覚えています…。
 
 ラジオで詠んだ十六名の句はバラエティーに溢れるものばかり。
 語り過ぎない短い言葉が私の中でじんわりと広がっていきました。
 改めて、素敵な作品をありがとうございました。
 
 しかし時間の関係でどうしても選びきれなかった句がたくさん…。
 なので今回の記事は、ラジオでは読めなかった皆さんの作品から一句ずつ選んで(個人的に好きなもの)勝手に感想を書かせて頂きました。
 
 不思議なもので、最初は講評のような感想文を書きたかったのですが、
 言葉は知らずに私から離れていき、自然とお手紙のようなものになったと思います。 
 同時に一句をこんなにも何度も読み込んだ経験は、初めてで私自身とても勉強になりました。
 
 前置きが長くなりました。
 少しでも、喜んでもらえると嬉しいです。

 
                  
自由律ラジオ「はじまり」感想みたいなお手紙前半。


 ・逃げる猫 君には帰る場所がある(alexandleさん)
  
 私も近所を散歩をしていると、団地の裏から現れた猫と目が合うことがあります。
 「おいでー」と呼ぶとゴロニャアゴと愛らしい喉を鳴らします。
 警戒しながらも、ゆっくりとこちらに近づいてくる猫。
 後、もう少しで触れられる…。
 でも手を伸ばした瞬間、彼らはするりと翻り、いつもどこかへ消えてしまうのです。
 消えてしまった猫と一人座りこむ私。
 両者の対照的な構図が孤独をより際立たせているように思えました。
 五・七・五で刻まれたリズムも心地良いです。

 ・予告編に照らされて私を探す「く」の字の彼(gamiさん)
 
 デートでは絶対に遅刻してはいけない場面があります。
 その一つは、間違いなく映画鑑賞でしょう。
 開演が近づき、他の客がどんどんシアターの中に入っていく。
 その様子を見ていると、余計に焦りがつのる。
 流石にこれ以上は待てないので、先にシアターに入ります。
 薄暗く、秘密の会話が囁かれるような空間。
 映画って、予告編から始まっているのかもしれませんね。
 そんなことを考えながらスクリーンを眺めていると、よく知った猫背の影。
 影だけで、お互いがすぐにわかるようになった二人はまるで映画のようです。
 そんな愛おしさのようなものに触れることができる句でした。

 ・昔々でも ある所でもなく いま ここで の物語(inabaさん)
 
 「昔々ある所で」の言葉を発明した人って天才かもしれません。
 だって、この冒頭の一文で、
 『この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません』
 と説明できるんですから。
 これがあるから、次の瞬間に川から桃がどんぶら流れてきたり、
 猿と蟹が壮絶な戦いを繰り広げても、自然と受け入れることができる。
 でも、私達は違う。
 過去でも未来でもない今。そこにはフィクションにはない厳しさがある。
 奇想天外なおとぎ話も、うっとりするようなエンディングもない。
 でも、あなただけの物語がある。
 その話をお酒でも飲んで、ゆっくり聞いてみたい。
 そんな前向きな気持ちにさせてもらえる作品でした。
 
 ・いい子でなんかいたくなかった夜(makiさん)
 
 若かりし頃の恋の句でしょうか。
 瑞々しくて、だからこそ傷付きやすい十代の頃を思い出しました。
 初めて親以外の人へ我儘を言った瞬間かもしれません。
 別れの句、大切な人へ心を預ける句…。
 と、色々な解釈ができそうです。
 共通して言えるのは、繊細で傷つきやすい心が懸命に語り掛ける様子。
 それが痛いほど伝わってきます。
 makiさんにとって、どんな夜をイメージされたのでしょうか。
 機会があれば教えてください。
 
 ・響くファンファーレ汗ばむ馬券(makihide00さん)
 
 競馬場に一度だけ行ったことがあります。(確か二年ほど前に府中競馬場へ)
 それ以来、ボーナスの時期がくると、これを元手に競馬しようかな…。
 と脳裏に浮かびます。
 二十万が四十万…六十万…八十万…百万円…。
 想像しただけで心拍数が上昇してきました。
 「複勝なら固いんじゃないか」
 なんて思う時もありますが、チキンの私は勝負できずにいます。
 今回の高揚あふれる句は、実際に勝負をした人しか作ることができないものかもしれません。
 ファンファーレが場内に響き渡り、次々と競走馬達が発馬機に吸い込まれていく。
 あの時、私の馬券は確かに汗でびっしょりでした。
 また行ってみたいな…。

 ・薄明るい空に牛乳瓶が鳴り響く(moripanicさん)
 
 まだ太陽が昇りきる前。
 使い古されたバイクのエンジン音。
 最後にこつんと牛乳瓶が玄関に置かれる音が聞こえました。
 間違いなく朝のはじまりです。
 無駄のない動きであっという間に去ってしまう彼らの後ろ姿。
 そこに慎ましい美のようなものを感じてしまいます。
 moripanicさんの句を読んで、彼らが届けてくれたのは牛乳だけじゃなくて。
 誰かの一日の始まりなのかもしれないなと思いました。
 抑制の効いた風景描写なのに、ふわっと想像をふくらませる作品だと思いました。
 大好きです。
 
 ・失恋した次の日の朝(t0n0さん)

 今年で三十歳になり、失恋にもある程度の耐性はついてきました。
 それでも過去のことを思い出すと、どんより心が沈みます。
 一睡も出来ずに、カーテンの向こうで朝日が射しこみはじめた時の不安。
 起き上がりたいのに、水を吸ったタオルみたいに重い身体。
 誰もが一度は経験したことのある朝だと思います。
 辛くとも、それでも前を向くためにやってくる朝。
 それとも、残された昨日の心とは無関係にやってくる残酷な朝。
 どちらの読み方もできるような気がして、何度も読み返してしてまいました。

 ・セロハンテープのはじまりを探している(xissaさん)
 
 凄くわかります!
 「あれえ…ええ…どこだよお…」
 と愚痴りながら、セロハンテープを何度もクルクルと回転させている情景が浮かんできました。
 こんな時に限って昨日の風呂上りに爪を綺麗に切りそろえたりするんですよね。
 親近感があるんだけど、見逃しがちな日常の一コマを切り取った句。
 こういう作品大好きです。
 ちなみに私はサランラップで同じことが我が身にも起きました。

 ・耳さみしい夜(y0k0t0m0さん)
 
 「耳さみしい」って言葉いいですね。
 造語なのかな…違ったらごめんなさい。
 初めて聞く言葉でしたが、すっと心に飛び込んできました。
 私は散歩をするのが好きで、一人でふらふらと歩くことがあります。
 特に夜は静けさに包まれていて好きです。
 でも、何もないのは少し寂しい。だから大好きなバンドの曲を聴きながら歩きます。
 すると、昼間では聞き流していた歌詞の意味をぐっと入ってくるんですよね。
 この句は恋を詠んだものでしょうか。
 これまで隣で語り掛けてくれた人がいない、寂しさを読んだのかもしれません。
 シンプルな句だからこそ、想像の余地があると感じました。

 ・自動扉を手で開く(Yagioさん)

 何度、読んでも笑ってしまいます。
 ハアッ、ってアイアンマンみたいに右手を差し出すと、開く自動ドア。
 まるで、自分が超能力者のようになった心地がします。
 というか、実際に私が子供の頃やってました。
 呆れる親の隣で、
 ハアッ、ブイーン、ハアッ、ブイーン、ハアッ…。
 エレベーターでも階数を示すランプが自分達の近くに来ると見るやいなや、ハアッ。
 完全に阿呆でした。
 子供って、何でもない一日を面白くする天才ですよね。
 そして可能ならば、いつまでもその心を持っていたい…。この作品を読んで、思いました。
 ちなみに私は当時好きだった女子のご家族に見られてから、普通にドアを開けるようになりました。

 ・御社と初めて言った日(あつしさん)
 
 「私も社会人になったな」
 と思う瞬間の一つは、御社という言葉を口にした時かもしれません。
 恥ずかしい話なのですが…。
 当時、二十二歳の私は『御社』と『弊社』がどうしてもごちゃごちゃになってしまう時がありました。
 「弊社にとっても、とても使い勝手のよい商品だと思いますし…」
 「えーっと…御社ね…」
 ああ、思い出すと恥ずかしくて死にそうです。
 今でも口にする時に、一瞬頭で考える自分がいます。
 この企画で色々な「はじまり」をテーマとした作品を読みましたが、社会人のはじまりを読まれた句は珍しかったように思います。
 きっと自分からも生まれなかった視点だと思います。
 企画をしてよかったなと思った作品の一つです。

 ・有休消化初日、昨日と同じ目覚まし響く部屋(アネモネさん)
 
 これまで世話になった会社の退職を控えて、慌てて有休を消化する。
 私は基本的に今の会社でしか働いたことがないので、有休を一度に消化した経験はないです。
 それでも、アネモネさんの読まれた句の光景はとても理解できます。
 気持ちは前に進もうとしているのに、過去の習慣は身体はまだ沁みついていて。
 少し自虐的で、皮肉めいたものを感じました。
 でも、私は一週間もすれば昼過ぎまで寝ている自信があります。
 直前のあつしさんの作品とは反対側にいるような作品。
 読めば読むほど沁みてきました。

 ・色褪せた干支(阿部ノ中庭さん)
 
 昔、祖父母の実家に木彫りの干支が和室に飾られていました。
 新年が来ると、動物が入れ替わっているのは間違い探しをしているみたいでした。
 ちなみに、私は1990年生まれの午年です。
 つまり、私が生まれてから三回の午年がやってきた訳です。
 阿部ノ中庭さんの作品を読んで、訪れた三回の午年はそれぞれ違う午なのかもしれないと思いました。
 だって、前回から十二年も経っているわけですから。
 かつての午年に一緒に過ごした祖父母はもういません。
 和室に飾られていた木彫りの動物達の行方はきっと家族の誰も分からないでしょう。
 「色褪せた干支」という言葉から、少し寂しいことを考えてしまいました。
 しかし、同時に記憶の隅に眠っていた祖父母との日々を思い出しました。
 色褪せた干支のことを考えて、思い出に色が戻るって不思議ですね。
 でも、これは私の解釈。
 阿部ノ中庭さんにとって、「色褪せた干支」の意味を聞いてみたいなと思いました。

 ・君が好きなロックミュージック胸で弾けた(おのぎのあさん)

 好きな人がどんな曲を聴いているのかって。
 凄く気になりますよね。自分は気になります。
 出来れば、スピーカーで流しているのではなく、イヤホンでこっそり聞いているのがよい。
 きっと音楽って、その人のアイデンティーに関わる部分が大きいから。
 だからこそ、君のイヤホンの奥の秘密を知りたいのだと思います。
 私の知らないあの人の過去や趣味、考え方。
 音楽にはそれが詰まっている。と言うのは、大げさかな。
 でも、すごくわかります。実際に弾けたこともあります。

 ・ジェネライズされた君の処方箋(御藩亭句会さん)

 読む人によって、解釈が分かれそうな面白い句。
 でも、もし私なりに読んでみれば、

 【ジェネリック…新薬の特許期間の切れた後に、他社が製造する新薬と同一成分の薬。】
  (goo辞書参照)
 
 特許が切れた、誰でも使用が可能な処方箋。
 それは、私だけの専売特許でなくなってしまった人の姿が連想させられる。
 孤立していた人の魅力を誰よりも先に見つけ出した私。 
 時間とともに、多くの人に理解されて嬉しい気持ち。
 と同時に、自分のものではなくなってしまった寂しさ。
 その入り乱れた気持ちをジェネリックという比喩を通して読まれたのかなと思いました。
 恋の終わりとして読むのも楽しいかも。皆さんはどう読まれたでしょうか。
 素敵な作品をありがとうございます。

 ・三枚目から昇格しようとしない息子(諧 真無子さん)
 
 この句は完全に私のことですね。
 諧さんは、実は自分の母親ではないかと疑ったほどです。
 思春期に突入すると、少なからず異性を気にするようになるものですよね。
 髪型を整えたり、服装にお洒落を使ってみたり。
 ファッション雑誌を見て、女子に対するNG行動を頭の隅まで叩きこむものです。
 もちろん自分もそうしたことをやってきたのですが…。
 なんか照れくさかったんですよね。
 だから照れ隠しにふざけたことや下品なことを大声で叫んでいました。
 そんな男子の特徴を、母親目線で読むのが微笑ましいです。
 「あんた、ほんまに大丈夫なんか?」と本当の母の声が聞こえてきそうです。

 ・ため息吸った息吐ききっての次の息(雷(らい)さん)
 
 息に焦点を当てた句でとても独創的だと感じました。
 零れそうな溜息を一度飲み込み、吐き出した息。
 同じ息なんだけど、本人にとってはきっと別の意味を持つのでしょう。
 息って、感情が乗るんですよね。
 周りに対しての伝達のツールにもなるし、この句のように本人の気持ちにも大きく左右するのかもしれません。
 そして結びの次の息。
 この息は先ほどの二つとはまた別の意味を帯びています。
 私には、それが決意のようなものに思えました。
 短い文の中に、三つの息の意味の違いを楽しむことが出来る作品。
 読めば読むほど好きになります。
 
 ・節分に投げられた豆が今頃効いてきた(北大路京介さん)
 
 風呂上りとか、時々謎のアザが見つかることありますよね。
 太ももの裏とか脛とか。
 「あれ…この青アザいつ出来たんやろ…。あ!節分の時か!」
 私はこんな体験はないですが、とてもユニークな句だと思いました。
 これは頭脳派の子供の仕業かもしれません。
 耳の裏とかなら、すぐに気づくんですけどね。特に冬は。
 でも、そうではなくて老獪なボクサーのようにボディをじわりじわりと攻めていって。
 夜中、布団に入ろうとするとひりりと痛みが沁みてくる。
 …そんな子供がいたら嫌やなあ。
 面白かったです!

 ・あとづけでいくつも神話をつくりたがる恋人(啓ぞうさん)

 恋人と神話の組み合わせって斬新です。
 親近感のある恋人と遠い世界の神話。
 本来は交じり合うことはないはずの二つの言葉が組み合わさると、
 こんなにもミステリアスな作品になるのだなと感じました。
 恋人が自分の過去を捏造して、素敵な自分を演出しようとしているのか。
 それとも、二人のこれまでの歩んできた道のりをドラマチックに仕立てているのか。
 読み方は人によって異なるし、それだけ幅がある作品だと思います。
 作品の主人公が恋人の話を「神話」と捉え、冷めているように思える点も興味深いです。
 しかも、いくつも。
 この句の解釈について、啓三さんからのお話を聞いてみたいです。

 ・オギャーと泣いたみんなも泣いた(けろたんさん)

 「泣いた」という言葉が二度重ねられていて、口にしてとても心地良いです。
 人生のはじまりである産声が泣いてはじまるのって不思議ですよね。
 以前、『私の生まれた朝を想像する』という句を作ったことがあります。
 私はもちろん自分が生まれた時のことを覚えていません。
 子供もいないので親目線からの客観的な視点もありません。
 でも、こうして想像することはできます。両親はどんな気持ちだったのかなとか。
 こんな文章を書いているのも、あの日の産声から。
 自分の遠い日を思い返せる句で好きです。

 ・アラーム音に重なるキミのモーニングコール(浩二さん)

 一日のはじまりが、好きな人の声から始まるって素敵ですよね。
 アラーム音が鳴って、ほとんど同時にかかってくるキミからの電話。
 忙しいはずの朝に、手間をかけている、かけさせていることが幸せ。
 というのが、不思議ですよね。
 朝のはじまりがキミであり、キミにとっては私である。
 これもまた代えがたい幸せですよね。
 何気ない日常の幸福を切り取った作品で心温まりました。

・ダンボールだらけの部屋で、蕎麦すすり(こちょこちょ村の村長さん)

 引っ越しを終えたばかりのダンボールだらけの部屋。
 歩く場所もない中のだから、当然料理をする余裕もない。
 小さく背を丸めて蕎麦をすする光景が浮かんできました。
 新しい環境へに飛び込む不安と期待。
 十八歳で故郷を離れた身としては、とても覚えのある気持ちです。
 蕎麦がまたとてもリアルで、実感としてこの句の情景が浮かび上がります。
 句の主人公の未来が少しでも明るいものであるように祈ってしまうのは、
 これまたかつての自分と置き換えてしまうからかもしれません。

 ・両耳が熱くなったら 恋のはじまり(琴華さん) 
 
 恋のはじまりを耳で表現する感覚がいいなと思いました。
 耳から始まる恋ってどんな感じなのかな。
 とても素敵な人なのでしょう。
 恋のきっかけは、もしかしたら相手の言葉がきっかけなんじゃないかな。
 と私は思います。
 容姿ももちろん大事だけど、相手の考え方や優しさから灯った恋。
 年を重ねれば重ねるほど、その大切さを感じます。
 甘酸っぱい記憶を呼び起こさせる句で好きです。

 ・はじまりの呼吸は物静かで素朴なもののふ(小結さん)

 凛とした佇まいの武士の静かな呼吸がこちらまで聞こえてくる様です。
 実力がある人ほど、そのはじまりは静かなもの。
 様式美のようなものが、じんわりと伝わってきました。
 句そのものも無駄がなく、凄く好みです。
 静かなもののふのような技術といいますか。
 決して強い言葉が並んでいる訳ではないのに、立ち上がってくる情景。
 色々な自由律俳句がありますが、私個人としてはそのような句が最も好きです。
 素敵な句をありがとうございます。最高です。

 
 ・初対面 びびっときたら さりげなく 溢れる笑顔で 聴き手に徹す(今宵も博多の片隅でさん)

 聞き上手の人って良いですよね。
 自分の話を楽しそうに聞いてくれる。それだけで好印象です。
 口にすると心地良さを感じるのは、短歌のリズムに近いからかもしれません。
 気に入った人の印象に残ろうと控えめに、でも作戦的に話を聞く主人公に微笑ましい気持ちになりました。
 「さりげなく溢れる笑顔」
 恋愛経験の少ない私はころっと騙されそうです…!

 ・ルージュを引きヒールを鳴らせば街灯が灯る(桜月鳥はなびさん)

 桜月鳥さんの句って色気があるんですよね。
 時には悲しく、時には逞しく。
 今回の句は夜の街に向かって、進んでいく女性の姿が目に浮かびました。
 街灯に照らされるのではなく、街灯の明かりさえも手中にする女性の自信。
 それは、夜に輝く蝶そのものです。
 女性に内在する強さと弱さ。自分には決して書けない句だと思います。
 これからも素敵な作品を楽しみにしています。

 ・失敗した年賀状は誰に送ろうか(しろねこチャンネルさん)
 
 笑いました。
 ハガキで年賀状を書かなくなって久しいですが、その気持ちは手に取るように理解できます。
 筆ペンの文字が潰れちゃったり、気持ち入れ過ぎで、文字でぱんぱんになっちゃたり…。
 でもハガキ一枚って意外と高い…。誰にしようかな…。
 年末の忙しさにかまけて、見逃していた感情。
 それを丁寧に拾って、形に出来るって凄いことだと思います。
 一年のはじまりに失敗作を送られた当人はたまったものではないでしょうが。

 ・錆びた弦が指にうつす昔の自分(セニョール・ベルデさん)

 もう何十年も眠っていた楽器に触れる男の姿が浮かびました。
 過去と自分をつなぐものが弦と指というのが、凄くロマンチック。
 何故、急に楽器に触れたのか。
 そもそも何故、弦は錆びてしまったのか。
 語られることのない背景が弦を通して、ぶわっと想起させられます。
 短編映画のようなストーリーが句の根底を流れる作品だと思います。
 そして可能ならば、錆びた楽器からもう一度高らかな音色が流れることを切に願います。

 ・なくしもの心の中の雨のはじまり(空色美弦さん)

 自分もよく物を無くすタイプです。
 家の中でかけている眼鏡はすぐにどこに置いたのか忘れてしまいます。
 でも、この句で語られるなくしたものはきっともっと大切なものなのでしょう。
 もしかすると、もう二度と戻らないものなのかもしれません。
 薄暗い空にしとしと雨が降る光景が浮かびました。
 なくしものを雨と結びつける感覚。
 とてもいいなと思いながら、しんみりと読ませて頂きました。

 ・終わりましたはじまります(大豆さん)
 
 めっちゃシンプル…!
 でもこの事務的な響きが独特な味となり、クセになります。
 何かが終わるということは、裏返せば何かが始まるということですが。
 終わることへの悲しみを味わえないまま、日々は進んでいきます。
 始まらざるを得ない日常に対する諦めのようなもの。
 そのような淡々としたものを表現として感じました。
 完全に個人の見解なので、違ったらごめんなさい…(笑)
 いや、それにしてもクセになる。

 ・ビンゴ大会は既に始まっていた(タカタカコッタさん)

 ビンゴの途中参加ほど嫌なものはないですよね。
 いつも通りに参加するけれども、どうしたって前に出た数字が気になる。
 掲示板に数字が公表されていればいいけれど、そこまでの期待も出来ない。
 しかもそういう時に限って、調子が良くてダブルリーチ。
 永遠に来ないかもしれない数字を待ち続ける感覚はきっと地獄だ。
 これも日常のありそうで、見逃しがちになりそうな一瞬を上手く切り取った作品。
 とても好きです。

 
 
 ここで前半は終了です。
 皆さんが作った句の魅力をどこまで引き出せているでしょうか…。
 もしかしたら根本的な読み違えをしているかもしれません。
 でも私なりに頑張って、書きましたので広い心で読んでいただけると嬉しいです。
 後半も魅力的な句がたくさんが登場します。
 お楽しみにー!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?