レコーディングの勉強部屋②ボーカルのレコーディング
今回はボーカルレコーディング時に注意すべき点についてレコーディングエンジニアの方に話を伺ってきたので、記事にまとめていきたい。4本のマイクを使用してテストレコーディングしつつ、マイクによる違いやボーカルレコーディングでありがちな罠についても語ってもらった。
今回使用したマイクは以下の4本。個人的にはノイマン系をもっと試したかったが、とりあえず手近にあるものを揃えてみた。
audio technica AT4050
AKG C214
NEUMANN KMS104
SHURE SM57
なお、安価なマイクでボーカルやアコギをレコーディングすると、12-15k Hzあたりが変に飛び出してることが多いとのこと。良質なマイクが使えない場合は注意しよう。
ボーカルレコーディングにおける最重要課題
ボーカルのレコーディングで重要なのは、ずばり「いかにボーカルを前に出すか」。
これを踏まえ問題を大きく分けると、「ノイズ対策関連」と「マイク関連」の2つに集約できるだろう。影響度の高い順に考えるとベスト3は次のようになる。
①部屋全体のノイズ対策
②マイキング
③その他(細かな反射の抑制)
これらを軸にして以下様々な要素を見ていきたい。
①部屋全体のノイズ対策
防音/遮音
日本の住宅事情を考えると頭の痛いところではあるが、やはり部屋をきっちり防音/遮音しておくことが最重要だそうだ。ノイズは屋内と屋外に存在するため、両方に対応する必要がある。
屋内のノイズ
・電子機器:エアコン、PCなどの「サー」音
・定在波:壁・天井・床の「平行面」による音の反射
・共鳴/共振:金属をはじめ、室内にある音を反射するもの
屋外のノイズ
・環境ノイズ:雨の音、外を走る車の走行音、など
他には、ダイナミックマイクなどを録音するためプリアンプなどのゲインをあげると、機器のノイズが上がってきてしまうので注意しよう。
対策方法
宅録という前提でいくと、対策はDIYで自宅の部屋を改造するか、防音ブースを導入してしまうかどちらかになると思う。DIYでの対策は労力の負担が大きい上に専門家でない限り正解が見えにくいので、DIY好きでない限りはある程度の予算を確保してブースを導入するのが現実的ではないだろうか。
手軽な防音ブースは「だんぼっち」や「Lightroom」、さらに防音性能を求めるなら「Very-Q」。予算に余裕がある方は完全防音のヤマハの「アビテックス」を検討してもいいかもしれない。いずれにしても防音性能と値段はある程度比例するようなので、自分の住宅事情と予算の掛け合わせで検討する必要がある。
リフレクションフィルターの活用
前方しか防ぐことはできないが、リフレクションフィルターも一定の効果がある。100%ではないが50%くらい?は抑えられるようなので導入を検討してみてもよいだろう。
②マイキング
マイクでの狙い方
ボーカルの場合、上から狙う方法と下から狙う方法がある。上から狙う理由は「ふかれ防止」と、歌詞が見やすいから。どちらでも好みでOKなので、実際に歌うボーカリストの好みで設定していただきたい。
上から:
下から:
ポップガードの役割と選び方
ポップガードは1980-90年代に登場したものらしい。音の「透過」により、ポップガードの材質や密度の影響を受けボーカルの音は変化するため、意外に重要。慎重に選ぶ必要があるだろう。金属は音がクリアだが、ミックスで除去できない高域の共鳴音(つまりノイズ)が入りやすいので一長一短である。
マイクとボーカリストとの距離
マイクとボーカリストとの距離を調整するためには、ポップガードが有効だ。ボーカリストがどの位置で歌いたいかによってポップガードを調整し、ポップガードの位置で距離感を作ればOK。近づいて歌うタイプの歌い手にはポップガードを遠目に設置し、離れて歌うタイプの歌い手にはポップガードを近めに設置する。
なお、ポップガードを立てるときはマイクとは別のスタンドを使おう。マイクとの距離を自由に動かすことができ、配置に融通が効くためだ。
ローカットの処理
あまり高くから切ると存在感がなくなり線の細い声になるため、80Hz以下くらいからが一つの基準となる。
なお、ボーカルに限らずローカットが必要なのは、明らかに低音が不用なもの、音が小さすぎるものだ。ローカットしないと、キックと同じ重低音が出続けることになり、不要な被りが発生する。ギターなどは80Hz以下もあるので、むしろローカットしい方が良いかもしれない。
ボーカル用マイクについて
今回テストしたマイクの中で、例えばKSM104はボーカル用のコンデンサーステージマイクだ。ボーカル用マイクはデフォルトでローカットが入っていることが多いようで、以下の公式サイトの周波数特性データによると。200 Hz付近からローカットが入っていることがわかる。
(出典:ノイマン公式サイト)
歌には最低100Hzまでは必要なので無理にマイクでローカットを入れる必要はないが、ボーカリストと相性が良ければミックス時のイコライジングが楽になるかもしれない。
お勧めマイク
著者はマイクに詳しいわけではないのでモデルに関する詳細は割愛させていただくか、やはり品質を重視するとなるとノイマン系が筆頭になるのではないだろうか。以下で比較されているので、選択の参考にしていただきたい。
ノイマン以外だと、コスパを重視するならオーテクの4040なども良いかもしれない。
③その他(細かな反射の抑制)
「①部屋全体のノイズ対策」と重なる部分があるが、響きをなくすために部屋の中にパーテーションを置いたり、金属をはじめ反射するものに毛布をかぶせるなど、細かいケアをしておくとよい。
【補足A】やってはいけないこと
これは「ボーカリストがマイクから離れすぎること」だ。部屋のアーリーリフレクションが録音に入り込んで(ボーカルに結合して)音が奥まってしまい、ミックスで除去することができなくなる。
やらかしてしまっている場合
万一やらかしてしまった場合や、ボーカリストからのデータがやらかしている場合は、iZotope RXなどプラグインである程度は除去できるかもしれない。以下のSleep Freaks様の動画でその辺りが解説されているので、参考にされたい。
もちろん修正には限度があり、また音そのもの(音色、存在感など)に影響する可能性もあるので、レコーディング時に対応できる場合は対応するにこしたことはないだろう。
【補足B】掛けどりの必要性
プラグインはレイテンシーが発生するため掛けどりはオススメしないとのこと。ハードウェアのプリアンプ、コンプ、EQならレイテンシーは発生しないので可能。個人的にはハードのプリアンプは必要だが、コンプとEQはお気に入りの機材がない限りなくても良いのではと思う。
まとめ
いかがだっただろうか?ボーカルにおいては「ノイズ対策」と「マイキング」を考慮しながら、うまく環境を作れるかどうかがポイントだ。
実現するためには様々な障害があるが、宅録で一定の音質とオーディオ水準をクリアした音源をゲットしようとした場合、遮音/防音ブースの導入+自分に合うマイクの購入が近道かもしれない。
それでは、よい環境構築、よいレコーディングライフを!
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