石巻ニューキネマパラダイス第14回 「City Lights」


 誰しもが一度は憧れたことがある夢といえば、自分の趣味で溢れ返る店を持つこと。好きな音楽をかけ、来客対応もほどほどに、気の置けない仲間と酒を酌み交わす。そんな映画やドラマのような素敵な空間をつくること。
 2022年8月に石巻の中央一丁目に劇場をなんとかオープンさせることができたが、その翌月に、そんな夢のような妄想を叶えることになるとは、少し前まで夢にも思っていなかった。劇場ではあるが、複合エンタメ施設でもある「シアターキネマティカ」は、カフェ&ビアスタンドを併設。昼は子供からシニアの方までが集まれる喫茶空間に、夜は石巻のクラフトビールを嗜むことができる社交場となった。

 店内の壁の一面は仲間たちの協力のもと、可愛らしいピンク色になり、カフェの椅子は、これもやはり街のみんなでお洒落にアップサイクルしたもので、テーブルを素敵に彩ってくれている。本棚には映画や演劇関連の本が並べられ、いただきもののレコードも置いてある。そんな素敵な場所で、好きな音楽を日替わりで流しながら、エプロンをつけ店番をしている。

 慣れない飲食店業に日々てんやわんやはするが、少なからず憩いのひとときを楽しんでくれる人が居てくれたり、近所の方が朝のコーヒーを飲んでくれたりすると嬉しくなる。高校生が立ち寄って、頑張って作ったクリームソーダをスマホで撮影してくれていた日にはスタッフ一同で歓喜した。

 街の小さなカフェ&ビアスタンド「City Lights」。チャップリンの同名作のタイトルであり、僕ら石巻劇場芸術協会のコンセプトでもある。かつて日活パール劇場のネオン看板は、文字通り「街の灯」となり夜を照らし出していた。その看板を廃棄させまい、という思いから僕らの活動は始まった。カフェではパールの看板をイメージした「ネオンソーダ」というドリンクメニューも作った。

 店番をしていると、出会いが日々ある。毎日誰かが訪れてくれて、カウンターの中からそっと様子をうかがう。元気そうだな、疲れてそうだな、そんなことを思いながらコーヒーを挽き、ホットサンドを焼いては洗い物をする。

 演劇の公演をする際には劇場を「また誰かに会うための場」と思い企画しているが、店を開くということはまさしく、誰かと再会するための仕事なのではないかと思う。この前来てくれたおじさんは、翌日もふらっと立ち寄って世間話をしていってくれた。ずっと会えていなかった旧友が、開店の噂を聞きつけて来てくれた。先日は、偶然立ち寄ってくれた方が、小学校の頃とてもお世話になった保健の先生だったという思いがけない再会もあった。今になって、そういう再会は何より有り難い。

 City Lightsのオープンから約一ヶ月。店を訪れてくれる方のおかげで、毎日を幸せな疲労感とともに過ごすことができている。もう少し落ち着いて来たら、今度は僕らの方が再会しに、街の店々へ赴きたいなとおもう。さあ、今日も仕込みの開始だ。 やぐち

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