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沸騰親父 #13

 「あれ、見えるか?あのユンボに今は乗って仕事してるんだぞ。こう、土を掘って穴を開けて、掘った土を退かして、そのあと土を均したり、杭を打ったり、まぁ、色々とやってるんだわ。」
「あの…お父さん。ユンボって何?」
「お前の言ってる『パワーショベル』のことだよ。じゃあ早速ユンボの近くで絵を描いてくるか?」
「うん!」
「じゃあ、監督。裏に置いてる重機の近くにいるから。邪魔んならねえかな?」

「おう!大丈夫だよ。今日は俺と、数人しか居ねえし、ダンプも入ってこねえから。おー、ボウズ。これ、水持ってけ!」と冷蔵庫の中から冷たい缶ジュースを2本渡された。

「あ、ありがとうございます。」ぺこっとお礼をして、すぐパワーショベルの近くに行ってスケッチブックに鉛筆で描き始めた。

(お父さんは、こういう所で仕事してるんだなぁ)

少しだけ分かったことが嬉しくて、にやけてしまった。

よく見ると、機械には泥や砂、サビなどが着いていて、それがやけに格好良く見えたんだ。なんだろう、働いている、という感じかな?サラリーマンとは違う、明らかな『匂い』がそこには存在していた。

2時間ほどでスケッチも終わり、色を塗ろうとしたけど、空の雰囲気が怪しくなってきて缶ジュースを一本飲みながら(家に帰ってから色塗りしようかな?)ふと考えたけど、急いで飲み終えてすぐに色塗りに取りかかった。

 結局、お昼までやって、
「おーい!事務所で飯喰うから戻ってこいや。」とお父さんの声で、力の入った指をスッと弛めて、手を止めた。
「うん。今終わらすよー。」とボクも少し大きな声で返事をして急いで片付けてから戻った。
鼻の中の砂埃の匂いが心地よく離れたくない気もした。

 お昼は近所の中華屋さんの出前で、ラーメンと炒飯、餃子を食べた。おかげで眠くなってきた。
と、その時、「じゃ、監督。これで帰るからさ。今日はありがとうな。」

(え?まだ居られるんじゃないの?まだ終わってないのに…)
そんなボクの気持ちを察したのか、
「あとは、家に帰ってから、やれよ。もう、ほとんど終わってるみたいじゃん。な、じゃあ、監督にお礼言って帰るぞ!」

「う、うん。監督、今日はありがとうございました。また来ていいですか?」
「おー!いつでも来なよ。でも、ボウズはこの仕事やんねえで、ちゃーんと勉強しろな。まぁ、がんばれよ。」

寂しさが残りつつもケンジおじさんのクルマに乗って帰っていったのだけど、なんだか同じ市内なのに家とは違う方向に行ってる気がしたんだ。

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