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映画『プリズン・サークル』トークセッションに行ってきた


先日メニコンシアターAoiにて、劇作家の山口茜さん主催の「芸術監督トークシリーズ」第1回に参加し、映画『プリズン・サークル』を観てきた。

猛暑!


『プリズン・サークル』はずっと観たいと思っていた作品なのだけど、機会を逃し続けやっと念願叶った!

「芸術監督トークシリーズ」とは

劇場がインクルーシブな場所であるために

メニコン シアターAoiの目指す姿を「自分が主役と思える場所」と定義し、常にマイノリティに寄り添う場所でありたいと志す芸術監督の山口茜が自ら発案・企画するトークシリーズを、2024年度より始動します。
山口が掲げる劇場の目指す姿を見据え、山口が、劇場が、そして作り手・観客をはじめとして、この社会を構成する全ての人が、他者に寄り添い、インクルーシブであるために考えるべきこと、知っておく必要があることを、共に学ぶためのトークシリーズです。
各回、映画もしくは演劇の作品鑑賞とその後のトークセッションをワンセットでご覧いただきます。トークについては、作品に関係する様々な要素から、トークホストも務める山口が、劇場がインクルーシブであるために考えを深めたいテーマを選び、各作品のクリエーターに加えて、そのテーマに知見を有するゲストを招き、山口が来場者とともに学ぶことのできる場づくりを行います。

メニコンシアターAoi 公演イベント情報(https://meniconart.or.jp/aoi/schedule/talk-prison.html


まず地元にこんなに素敵な取り組みを行うシアターがあることに感激!
ものすごく素敵な取り組みだと思うので続いてほしいし、参加していきたいな~と思った。

さて、映画『プリズン・サークル』あらすじ

ぼくたちがここにいる本当の理由
「島根あさひ社会復帰促進センター」は、官民協働の新しい刑務所。警備や職業訓練などを民間が担い、ドアの施錠や食事の搬送は自動化され、ICタグとCCTVカメラが受刑者を監視する。しかし、その真の新しさは、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを日本で唯一導入している点にある。なぜ自分は今ここにいるのか、いかにして償うのか? 彼らが向き合うのは、犯した罪だけではない。幼い頃に経験した貧困、いじめ、虐待、差別などの記憶。痛み、悲しみ、恥辱や怒りといった感情。そして、それらを表現する言葉を獲得していく…。

引用:『プリズン・サークル』HP(https://prison-circle.com/


本作は島根あさひ社会復帰促進センター(以下、「本センター」という)を舞台にしている。本センターでは欧米で再犯率の低下が実証されているプログラムを実施し、受刑者への処罰ではなく、回復を促す日本でも非常に稀有な存在なのだ。
本センターの教育は修復的司法、認知行動療法、回復(治療)共同体(TC)の三本柱から構成されているが、本作では主にTC(Therapeutic Community)にフォーカスが当てられている。

TC(Therapeutic Community)とは何なのか?

TC(Terapeutic Community)を「治療共同体について考える会」は以下のように定義している。

TC(Therapeutic Community)とは
病院や病棟、施設やデイケア等を一つのコミュニティと考え、個人精神療法や集団精神療法のみでなく、それ以外の日常の活動、例えば、料理、掃除、レジャーなどを重視し、その中で起こる様々なできごとを全体で共有し、患者や利用者とスタッフが一緒に考え、対処しようとするアプローチ。

引用:治療共同体について考える会 HP(https://reflective-tc.jimdofree.com)


島根あさひ社会復帰促進センターのHP内ではこのように説明されている。

回復(治療)共同体(TC)とは
人間性をトータルに学習する場を通した「コミュニティ(精神的な絆で結ばれた人間関係)」を施設内に構築し、社会の中で生きる個人として責任を果たすための考え方や行動の仕方を施設内の生活を通じて、互いに学び合う。

島根あさひ社会復帰促進センターHP(https://www.shimaneasahi-rpc.go.jp/

とにかく、皆でごはんを食べ、一緒に寝て、対話して、共同生活をしながら社会で生きるための力をつけようということらしい。
本センターでは、「TCユニット」という更生に特化したグループが組まれており、30名~40名程度の受講生が寝食や作業を共にしながら、週12時間程度のプログラムを受けている。プログラムの時間以外での受講者同士の交流や独歩(刑務官の付き添いなしでの移動)も許されており、一般的な刑務所でのルールとは大きく異なっている。

プログラム内容


基本的にはグループになり、自身の今までの人生について自由に話したり、家族のルールが何だったか等テーマが設けられ一人ずつ話す形が取られているようだった。
印象的だったのは、今までの人生における人間関係を線の長さと太さで描くプログラムだ。
小学生の時は母親が嫌いな継父と仲良かったから関係が遠かったとか、猫がいたから生きていけたとか、その時々での人間関係が可視化され、他者によって質問を受けることで新たに気づきを得ることができていた。これは私もやってみたいな〜と思った。
その他にも、実際に起こした事件のロールプレイや二つの椅子という自身の心の葛藤を整理するプログラムが印象的だった。

また、TCユニットの大きな特徴として挙げられるのが、支援員が受講者を「○○さん」とさん付けで名前を呼んで話をじっくりと聞いてくれる点だ。刑務官からは「おい、〇番!」と番号で呼ばれたり、口調がきついのがデフォルトだが、支援員は目を見て話してくれる、名前で呼んでくれることが嬉しいと言っている人もいた。

映画の感想

想像以上にくらってしまい、目を背けたくなるシーンが多々ありしんどかったというのが正直な感想である。
犯罪とまではいかなくても、それに近い暴力は身の回り(私生活にも会社にも社会にも)に溢れていて、日々の生活の中で加害者でも被害者でもあるからどちらの立場に立っても本当に辛かった。

受講者の気になった発言

以下、プログラム受講者の発言できになったものを軸に感想を書いていきたい。

①  加害者だけど罪悪感はない。

作中で、傷害罪や住居侵入罪に関しては罪悪感があるが窃盗罪に関してはないと発言している人がいた。彼曰く、盗みは誰も傷つけない、向こうはお金があるし盗られても困らないだろうということである。また社会はそのように回ってるからそれで良いのだと主張していた。
そう思っていた彼がプログラム内で、仕事道具を盗まれてその後自堕落な生活をして薬物依存になってしまった人が話しているのを聞いて、涙を流して反省していた。
作中の前半では全く罪悪感を持っていなかった人が中盤で涙を流していて驚いたのだが、やはり被害者の反応を見た時が一番罪を覚える瞬間だよなあと共感した。それまでは気づけない。そういう意味で涙とか分かりやすく効果があるよね。うーん、しんどい!

②    殴られてでも構われたい。プレゼントやお金を渡さないと周りの人間が離れて行ってしまうと思っている。

この発言は家庭についてグループで話し合っている時に出たもので、一人が「殴られたり、罵倒されたりで苦しかった」と発言したのに対し「正直羨ましい」と言った人がいた。
私の脳内にハテナがたくさん浮かんだが、すかさず支援員が「殴られてもいいから構われたいってこと?」と尋ねていた。ネグレクトされていた者にとっては殴られることさえ羨ましいと思うこともあるのかと少し驚いた。
しかし追い詰められた時、構ってもらうために何でもやるし、何されてもいいという心理は濃淡あれど心当たりがある人も多いのではないでしょうか。そんなことないのかな。私は身に覚えがあると思いちょっとドキッとした。でもこの歪んだ欲求は確実に後の人間関係に影響しているんだろうなと想像した。
また、「プレゼントやお金を渡さないと周りの人間が離れて行ってしまうと思っている。」という発言も気になった。その思考の結果彼は借金を繰り返し、お金に困って親戚の家に侵入し怪我を負わせてしまった。
彼の例は極端とはいえ、自身を価値のない人間と思っている人にとっては自然な行動と思えた。
自分を大きく見せるために奢ったり、自慢話を繰り返し話している人は、周りが離れていくのが不安なんだろうなぁとぼんやり思った。

③家庭環境が悪いから、今こうなってる(受刑している)と思われたくない。

パンフレットの鼎談の中でも、「暴力の負の連鎖」が必ず起こると決めつけるのは暴論だ、と信田さよ子さんがおっしゃっており、その通りだなと思う。ただ最近私も、過干渉な母親にやられてきたことを周りの人にしているのに気付き、本当に怖くなって最大級の自己嫌悪に陥ったことがある。
傷を負った人が必ず加害をする訳ではないだろうが、その凹が確かに悪く作用しているのだなという実感があり、ウッとなった。

④ 自分の事件だと被害者の気持ちになるのは難しいが、他の人が加害者の事件のロールプレイだと被害者の気持ちになれる。

犯罪が起きる原因は全部これに集約するんじゃないかと思う。やっぱり自分のしたことを悪いと思うのは難しい。一方人のことはいくらでも批判できるし、被害者の立場に立って本気で怒る事ができる。
自身が加害者である事件のロールプレイを、加害者役で全うした人がいた。数人の被害者から、「何故こんなことしたんですか?」「こんなことをする前にできることがあったんじゃない?」と詰められる。涙を流して話せなくなり、「ちょっと待ってください。」とストップをかける。
被害者の立場になりきれない加害者にとって何故このプログラムが辛いのかを考えると、自分の欠けている何かや、自分の行動は何から来ているのか、真正面から向き合わされるからではないだろうか。
中には、自分の家庭のことを全く覚えていなかったり、話し出せない受講者がいた。話すのが難しいというのもあれば、辛すぎて記憶がぽっかり抜けている人もいた。

再犯しないなんて難しすぎる、出所後


本作品は、TCプログラムを受けて、職業訓練を受けて、被害者の気持ちも分かるようになって社会に復帰できました!TC最高!という映画では全くない。
むしろTCが万能でないこと、出所してから再犯せずに自分の稼いだお金で生きていくことがいかに難しいかありありと描いている。TC受講者は出所後も有志で3か月に1回集まりを開いている。支援員と共に和やかに談笑する姿が映し出され私はホッとした。と思いきや一変、万引きを繰り返し、仕事をコロコロとやめてしまう出所者に対しみんなで叱咤激励をするシーンになる。「結局変わってないじゃん。捕まってないだけじゃん。」と詰め寄られ「ギブギブ。」と対話を拒否するシーンがある。リアルすぎる。
その後「次の集まりまでは仕事辞めないでね、俺たちが証人ね。」と優しく声をかける。TCユニットで出来上がった絆がいかに強固なものが、見せつけられる。
このシーンを観てよりこの映画の真摯さに胸を打たれた。


おわりに

坂本香さんは描けなかった部分も大きいとおっしゃっていたが、本作はTCや刑務所のこと、暴力の負の連鎖、コミュニティ形成について知る最高の取っ掛かりだと考える。

そして自身の暴力性を飼いならして犯罪を犯さないために、こういうグループで話すことをやってみたいなーと思って、自助会への潜入も決意し申し込んだ。そういう行動を起こさせてくれる、強い力を持っていると思う。

自助会と言うと何かに当てはまらないと行ってはいけないようなイメージがあったが、探せば割とどんな会もある。(薬物依存、DVとか名前の付く疾患を持ってなくても、「妻として母としてではなく一人の人間としてお話ししましょう」みたいな会もあった。)
自助会もピンキリで攻撃性がある人とかいるんじゃないかなとちょっと心配だけど、やってみて嫌だったらやめればいい。
フットワークを軽くしていこう!というメッセージも本作品に込められているのではないかと受け取っている。

本作を通して、自分の内外に向けた暴力性に向き合わざるを得なくなり、非常に辛かった。でも大切な人とより善く関わっていくためには絶対に必要なプロセスだし、暴力性とどう付き合うか、毎日がその練習だなとしみじみ思った。
また、TC受講者が所内でもがいている姿、出所したTC受講者が再犯をせず一生懸命生きている姿に胸を打たれた。私も一緒に頑張りたいという気持ちになった。

しかしTCユニットの入所率はそれ以外のユニットに比べ半分以下と確実に結果が出ているのにも関わらず、TCを採用しているのは全国の刑務所の中でただ一か所、島根あさひ社会復帰促進センターのみであり、全国約4万人の受刑者の内、年間40名ほどしか受講できない状況らしい。この状況を打破するためにも映画を作ったんだと監督は言っていて、カッケーしかない。
だからもっといろんな人に観てほしいと思いこれを書きました。

全国いろんなところでたまーに上映会をやっているようなので、ぜひ観てほしい。絶対に後悔することはないので!

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