最近の記事

なぜ、山本由伸は高めにフォーシームを投げなかったのかを考える

はじめに 近年のMLBでは、年々フォーシームを高めに投げる傾向が強くなっている。  上の表はstatcastが導入された2015年以降のフォーシームの投球コースの高さの推移を表したものだが、これをみると2015年の78.3cmから2024年では86.9cmまで高さが上昇していることが分かる。  この高めにフォーシームを投げる根拠となっているのが、空振り率である。  2024年のMLBの空振り率をみてみると、空振りの多いコースは高めに集中している。セイバーメトリクスの普及

    • なぜ、無死一塁からの送りバントの有効性について意見が割れるのかデータからを考える

      はじめに 無死一塁からの送りバントがどの程度効果的な作戦なのかについては、意見が割れることが多い。送りバントは、打者がアウトになるとの引き換えにランナーを進塁させるものだが、セイバーメトリクスではその有効性について否定的である。  上記のサイトによると、無死一塁と一死二塁の得点期待値を比較すると、2010~2015年のMLBでは0.859から0.664と低下していることが分かる。主にこの点が、送りバントは非効率的な作戦であると言われる要因となっている。ただ、送りバント肯定

      • 打者のBABIPを上げるために必要な要素について③~安打になりやすいゴロとは~

        はじめに前回、前々回に引き続き、打者のBABIPを上げるために必要な要素を考えていく。今回はゴロについて話していきたい。データとしてはbaseballsavantで得られた2021~2023年度のMLBのものを参照している。 全体の傾向について はじめに、どのようなゴロが安打につながりやすいのかをみていきたい。 打球速度と打球角度  まずは、打球速度と打球角度ごとのゴロのBABIPを比較すると以上のようになる。一般的に、速いゴロはヒットになりやすいと言われることが多い

        • 打者のBABIPを上げるために必要な要素について②~いかにしてライナーを増やすか~

          はじめに 前回の記事で、BABIPを上げるために内野フライに注目したが、今回はライナーに着目してみたい。前回と同様に、データについてはbaseballsavantを参照しており、すべて本塁打を除くインプレーとなった打球(以下インプレー打球)を対象としている。 ライナーの多い選手の特徴について まずは、どのような選手がライナー率が高いのかを確認していきたい。対象となるのはMLBの2021~2023年にインプレー打球を820以上記録した選手である。 平均打球角度  はじめ

        なぜ、山本由伸は高めにフォーシームを投げなかったのかを考える

        • なぜ、無死一塁からの送りバントの有効性について意見が割れるのかデータからを考える

        • 打者のBABIPを上げるために必要な要素について③~安打になりやすいゴロとは~

        • 打者のBABIPを上げるために必要な要素について②~いかにしてライナーを増やすか~

        マガジン

        • 投球
          4本
        • 戦術
          1本
        • 打撃
          6本
        • 走塁
          1本

        記事

          打者のBABIPを上げるために必要な要素について①~内野フライをいかに減らせるか~

          はじめに セイバーメトリクスには様々な指標が存在するが、その中の一つにBABIPというものが存在する。BABIPは本塁打を除くインプレー打球のうち安打となった割合を表す指標である。もちろん、BABIPが高ければ打率も上がるのだが、BABIPは運を表した指標として扱われることも多い。これは投手のBABIPは0.300前後に収束しやすいというものから来ているのだが、打者についてはある程度選手の実力が反映されているとされている。ただ、打者のBABIPもどのようにすれば上げることが

          打者のBABIPを上げるために必要な要素について①~内野フライをいかに減らせるか~

          ランナーの走力とシチュエーション別の帰還率

          はじめに 野球中継をみていると、よく代走が起用されるシーンを目にすることがある。代走はより走力の高い選手を起用することで、より得点の確立を上げることを狙ったものだが、実際にどの程度得点の増加につながっているのかは、はっきりしていない部分が多い。そこで今回は、ランナーの走力と帰還率の関係性について考えていきたい。 走力を表す指標について まず、そのようにして走力を数値化するのかについてだが、baseballsavantにはSprint Speedという指標がある。Sprin

          ランナーの走力とシチュエーション別の帰還率

          Bat SpeedとSwing Lengthの分析 変化球と速球への対応の差について

          はじめに 先日、baseballsavantで新たな指標が複数公開された。その中で、個人的に注目したいのがBat SpeedとSwing Lengthだ。一言でいうと、Bat Speedはスイングスピード、Swing Lengthはスイングの長さを表した指標である。より詳しい説明については、Namiki氏や鯖茶漬氏が記事を上げられているのでそちらを確認してほしい。  一般的に、大きなスイング(大振り)では空振りが多く、小さなスイング(コンパクトなスイング)では空振りが少な

          Bat SpeedとSwing Lengthの分析 変化球と速球への対応の差について

          流し打ちの有効性について考える

          はじめに 野球中継をみていると、「逆方向へ逆らわないバッティング」といったようなフレーズを耳にすることがある。また、打撃コーチが右打者に対して「右打ち」を行うように指導したといった内容の記事を見かけることもある。ただその一方で、長距離バッターに流し打ちをさせるべきではないといった論調も見かける。そこで今回は流し打ちの有効性についてMLBのデータを基に考えていきたい。なお、今回のデータはすべてバントを除いたものであり、baseballsavantを参照している。 全体の傾向

          流し打ちの有効性について考える

          MLBの2015年以降の推移からツーシームについて考える

          ツーシームの投球割合との変化 まず、MLBにおけるツーシーム(baseballsavantの球種区分ではシンカー)の投球割合とPitcher RV / 100(100球当たりの得点期待値)の変化をみていきたい。  表1からツーシームは2017年を境に減少傾向にあり、ここ直近3年間は15%ほどで横ばいとなっていることが分かる。しかし、一方でPitcher RV / 100は上昇傾向にあり、年々投手の失点を防ぐ球種になりつつある。 ツーシームの減少の要因は何か まずは、なぜ

          MLBの2015年以降の推移からツーシームについて考える

          ファールで粘って四球を狙うことについて

          はじめに 野球中継を見ていると、まれに「ファールで粘って四球で出塁しました」をいうフレーズを耳にすることがある。要は、ゾーン内のボールをファールにしつつ、ボール球を見極めて四球を得るということであるが、今回はファールで粘る戦法について考えていきたい。 打席中のファール数の違いによる成績比較2ストライク後の比較  まずは、2ストライク後のファール数ごとの成績を見ていきたい。  表1を見てみると、確かにファール数が多いほど四球率が高くなっており、通説通りファールで粘ると四

          ファールで粘って四球を狙うことについて

          見逃し三振について考えてみる

          はじめに 近年のMLBでは三振を多く奪える投手の評価が上がっており、それに伴いどのようにして三振を増やすことができるようになるのかといった議論が日々行われている。そうした中で、空振り率は三振率との相関関係が強いことが知られている。  表1は2019~2023年のMLBで対戦打者数が1000人以上の投手の空振り率と三振率の関係性を表したものであるが、先ほども話した通り、強い関係性がみられる。しかし、三振には大きく分けて「空振り三振」と「見逃し三振」の二つがある。空振り率が高

          見逃し三振について考えてみる

          空振り等の指標から三振率や四球率を計算してみる

          はじめに 近年のMLBではデータの活用が進んでおり、それらに基づいた采配がみられるようになっている。配球を例に挙げると、大谷翔平は2021年シーズンはフォーシームの投球割合が44.0%と最も高かったが、翌2022年シーズンにはスイーパー(スライダー)の割合が37.4%で、27.3%のフォーシームを逆転している(baseballsavantより)。こういった変化はどのような根拠に基づくものなのかを考えていきたい。 三振や四球に至るまでの過程について まず、どのようにして三振

          空振り等の指標から三振率や四球率を計算してみる