空振り等の指標から三振率や四球率を計算してみる
はじめに
近年のMLBではデータの活用が進んでおり、それらに基づいた采配がみられるようになっている。配球を例に挙げると、大谷翔平は2021年シーズンはフォーシームの投球割合が44.0%と最も高かったが、翌2022年シーズンにはスイーパー(スライダー)の割合が37.4%で、27.3%のフォーシームを逆転している(baseballsavantより)。こういった変化はどのような根拠に基づくものなのかを考えていきたい。
三振や四球に至るまでの過程について
まず、どのようにして三振と四球がどのような条件で発生しているのかを整理していく。当たり前であるが、これらはそれぞれ2ストライク時と3ボール時に、ストライクまたはボールカウントが進行すると成立する。つまり、各カウントの発生割合とストライク率やボール率が分かれば、三振率と四球率の計算は可能である。ただし、2ストライク時のファールについてはストライクカウントには影響しないため、この点については留意が必要である。ここで一度、カウントに影響を与えるイベントについて表にまとめてみる。
実際には、表1の項目以外にもカウントを進行させるイベントは存在するが、数としてはそこまで多くないため、今回は簡略のため以上の4点のみから計算を行う。そのため、これ以降のストライク率、ボール率はそれぞれ、見逃しによるストライク・空振り・2ストライク時を除くファールと、見逃しによるボールから投球数で割ったものとする。
まず、0ボール0ストライクを1として、0ボール0ストライク時のストライク率、ボール率をかけて、次のカウントの発生確率を求める。そして再び、求めたカウントの発生確率と各カウントごとのストライク率、ボール率をかける作業を繰り返していき、最終的に3ストライクとなった確率を合計したものを三振率、4ボールとなった確率を合計したものを四球率とする。なお、先ほども述べた通り2ストライク時のファールはカウントの進行には無関係であるため、存在しないイベントとして扱い、その不足分を補うために2ストライク時のストライク率とボール率にそれぞれ、1/(1-各カウントのファール率)を補正としてかけるものとする。
実際の投手成績と比較
MLBの2023年シーズンで200球以上投げた投手を対象に、計算上の三振率・四球率と実際の数値とを比較していく。
表2、表3から、おおよそ近しい数字が出ていることが分かる。
大谷翔平はなぜ、スイーパーを多投するようになったのか
ではここからは先ほどまでの話も踏まえて、なぜ大谷翔平がスイーパーを多く投じるようになったのから考えていきたい。そのため、まず仮に大谷翔平が特定の球種を投げ続けた場合、どのような成績になるのかを比較していく。
表4はMLBの2018~2023年シーズンの大谷翔平の球種ごとのストライク率、ボール率から計算した三振率と四球率を求めてまとめたものである。ちなみに、カーブについては投球数がないカウントがあったため、記載していない。
上記の表を見てみると、スイーパーが三振率と四球率ともに優秀である一方で、スプリットは四球率が非常に高いことが分かる。空振り率のみを見ると、スプリットが最も三振率が高くなるように思えるが、計算上はフォーシームと大きな差はないようである。このことから、大谷翔平がスイーパーの割合を増やしていることは、三振率と四球率という面から考えると合理的な判断といえる。
もちろん、今回の話はあくまでも複数球種を投げ分けている際のデータを参照しているため、実際に単一球種で勝負した際にこのような数値になるとは限らないものの、ある程度球種ごとの特徴を知ることはできるように思える。
2023年シーズンのMLBにおける球種ごとの特徴
それでは、続いてはMLB全体の話をしていきたい。
表5は、2023年度シーズンのMLB全体の球種ごとのデータをまとめたものだ。これを見てみると、フォーシームとスライダーは三振率と四球率ともに高水準の値であることが分かる。投球割合でみても、この二球種で50%近くを占めており、三振・四球が重要視される近年のMLBのトレンドの影響が伺える。対して、ツーシームやカットボールといったいわゆる「動く」系の球種は、三振率と四球率ともに低い傾向がある。また、カーブやチェンジアップ、スプリット系の球種は、他球種に比べて四球率が高く、多投するのには不向きであり、投手有利のカウントから投げるなどの工夫が必要であると言えそうだ。
まとめ
今回は、三振率と四球率に注目して話を進めてきた。今回の計算法を応用して、仮に「このカウントの際にこの球種を増やすとどうなるのか」といった、投球割合を変化させた場合の三振率・四球率を大まかに予想することも可能である。もちろん、実際に投球割合を変化させた際に、どのような影響があるのかということや、被本塁打率などの要素も考慮すべきであるため、実用性については未知数な部分があるが、少しでも三振率・四球率を改善する際の参考になればと思う。
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