見逃し三振について考えてみる


はじめに

 近年のMLBでは三振を多く奪える投手の評価が上がっており、それに伴いどのようにして三振を増やすことができるようになるのかといった議論が日々行われている。そうした中で、空振り率は三振率との相関関係が強いことが知られている。

                                 baseballsavantより作成

 表1は2019~2023年のMLBで対戦打者数が1000人以上の投手の空振り率と三振率の関係性を表したものであるが、先ほども話した通り、強い関係性がみられる。しかし、三振には大きく分けて「空振り三振」と「見逃し三振」の二つがある。空振り率が高いと空振り三振が増えるというのは当然のことだが、見逃し三振という存在があるにも関わらず、ここまで強い関係性がみられるのはやや不自然に感じる。そこで今回は、見逃し三振に注目して話を進めていきたい。

空振り三振と見逃し三振の比率について

 まずは、空振り三振と見逃し三振がどのような関係性にあるのかを見ていきたい。

                                 baseballsavantより作成
                            プロ野球ヌルデータ置き場より作成

 表2・3は2019年~2023年に対戦打者数が1000人以上であった投手を対象に三振率が高かった順に空振り三振率と見逃し三振率を並べたものである。これらを見てみると、空振り三振率は傾きが大きく投手ごとにかなり差がある一方で、見逃し三振率は傾きが緩やかで5%前後に集中していることが分かる。また、この傾向に、MLB・NPB間の差異はあまり見られない。
 このことから、三振率が高い投手は空振り三振が多い傾向にあり、空振り率が三振率との相関関係が強い要因となっていることが分かる。

2ストライク時の見逃しについて

 では、ここからは2ストライク時の見逃しについて詳しくみていきたい。

                                                                               baseballsavantより作成

 まず、表4からわかるように打者側は2ストライクまで追い込まれると、見逃し三振を嫌ってストライクゾーン内のスイング率が上がる傾向にある。

                                                                                                               baseballsavantより作成
                                                                           baseballsavantより

 また、コース別のストライク判定を見ても、2ストライクまで打者を追い込むと際どいコースに投球した際に、ボールと判定されることが多くなることが表5から分かる。
 以上のことを踏まえると、見逃し三振を狙うということはこういった傾向と逆行するものであり、難易度が高いことが分かる。

見逃し三振が多い球種について

 続いて、どの球種が見逃し三振を奪いやすいのかをみていきたい。

                                                                                                                        baseballsavantより作成

 表6を見てみると、ツーシームが最も見逃し三振を奪いやすく、逆にチェンジアップやスプリットといった球種は不向きであることが分かる。ただし、いずれの球種も空振り率が見逃しによるストライク判定率を上回っている。また、過去5年間で特定の球種を500球以上投じた選手の中で、2ストライク時の見逃しによるストライク判定率が空振り率を上回った選手は、ツーシームで47人中24人だったのに対して、フォーシームが199人中3人、カットボールが25人中1人、さらに他の球種では0人と極端に少なくなる(baseballsavantより)。
 もちろん、必ずしも投手が見逃し三振を狙った投球を行っているわけではないので、上記の数字がどの程度参考になるのかの判断は難しい部分はあるものの、速球系の球種の方が見逃し三振を奪いやすいようだ。

まとめ

 ここまで見逃し三振について話してきたが、現在の環境で打者を追い込んだ後に見逃しを奪うことは、空振りを狙うよりも難易度が高く、選手間の成績差が出にくいことが分かった。このため、三振を増やすためにはどのようにして空振りをさせるのかというアプローチが重要であるようである。このため、見逃し三振を狙うタイミングとしては、配球面で打者の裏をかく場合や、フルカウントなどでゾーン内で勝負せざる負えない場合など、特定の状況下に限られるように思える。

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