ADHDと脳波検査についてのまとめ


・ADHDをもつ人の脳波所見では、徐波の増加やΘ波/β波比の高さが認められるとされている。米国ではΘ波/β波比と前頭葉β波測定によるADHDの診断補助ツール(Neuropsychiatric EEG Based Assessment eid:NEBA )を2013年にFDAが承認して企業が行っているが、米国神経学会は疑いを持っていて、その手法について検証した論文を出している。この論文では「脳波検査単独による評価は困難。医師は従来の医学的評価に加えて脳波検査を説明し行うべきである(should inform)」などとされている。

https://n.neurology.org/content/87/22/2375.short


・脳波は人間が生きている限り計測できるが、脳波の中でも事象関連電位(ERP)はその事象のみに限った一過性のものである。その中に、ミスマッチ陰性電位(MMN)というものがあり、これは注意が不要な条件下でも起きるため、前注意過程を反映すると考えられており、ADHDのバイオマーカーとして用いることができると考えられている。また、社会における報酬依存的な行動などの研究という視点からもADHDの行動と疾病についての理解が進められている。
https://fukuoka-pu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=106&file_id=22&file_no=1&nc_session=tca5h63633mimfdr8hlekf1dt1



・ADHDの診断法は客観的なバイオマーカーで、かつ非侵襲的であるほど望ましい。
脳機能検査法のうち、頭皮上脳波周波数解析事象関連電位(ERP)や、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)の研究成果がADHD診断におけるバイオマーカーに活用可能であるかどうかが近年企業や大学でも活発に研究されており、特にNIRSの研究は日本が先駆けている。fMRIよりも侵襲性が低い(基本的に椅子に座っていればいいだけであるので、寝転がって長時間に渡って身体を固定したりしなくてもいいため、子どもにも大人にも負担が少ない検査である)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/49/4/49_243/_article/-char/ja

・日本において機能的MRI(fMRI)の代わりとして広く用いることができるように研究が進んでいるのが機能的近赤外線スペクトロスコピー(fNIRS)である。NIRSといえばだいたいのものはfNIRSのことを指しているといって差し支えないと思われる。



・fNIRSは開発当初はかなり眉唾物だと言われていた。当たり前だが脳の血流を測定するというのは解像度が滅茶苦茶に荒かったし、プローブの当たり方によっても像が見えにくかったし、製品の規格も雑だったからである。

・しかし、設備投資が安価(fMRIと比較すれば)で、かつ誰でもさっと使えるということは普及を後押しして、認知症超最先端国かつ発達障害の(実は)先進国である日本においてfNIRSの研究は圧倒的に進んでいる。(ただ、Pubmedを見ていて日本ばかりfNIRSの研究が出てくると、どこか外部の国や機関から妥当性を検証してもらえたりすることの重要性を感じずにはいられない)



・そして現在では、ADHDの客観的な診断補助方法として、fNIRSと逆ストループ再生課題を組み合わせた方法が非常に有用性が高いことが2年前に発表されている。(逆ストループ課題というのは「色を答えず単語を答える」というもので、「緑色で書かれているきいろ」はきいろを指せば良い。この間の反応時間の遅れと脳の血流量の関係を利用したものが診断予測につながるとされている。)

[https://www.ncnp.go.jp/press/release.html?no=378:embed]
[https://www.ncnp.go.jp/press/release.html?no=378:title]

・プレスリリースによると、ADHDのバイオマーカーの探索のため、逆ストループ課題遂行中の行動及び前頭葉脳血流動態(fNIRS )に機械学習を適用して診断予測精度を検討した。(下図)



・その検証のためADHD児170例、定型発達児145例のデータを用いた。その結果、感度88.7%、特異度83.8%、受信者操作特性(ROC)曲線下面積0.90の精度が得られた(図.2)。この結果から、機械学習を適用した抑制課題の評価法はADHD児の診断補助として有用性が高いことが示された。




・本研究によって得られた知見を応用して、株式会社スペクトラテックとの共同開発を行い「おちつき度 測定装置」として、小児のおちつき度合いを短時間に測定することが可能なシステムの製品化に成功している。(注意:医療機器ではない)

・仮に「“脳波によって発達障害を診断する”」と言う医師がいた場合には、Θ波/β波比、前頭葉β波、MMN波、fNIRS、ストループ課題など、なにを併用して診断を下しているかを聞いた方がよいと思われる。いずれもまだそれらは「ADHDの診断補助」なのであって、確定された手順に基づいておらず、承認された診断方法ではない点に注意が必要である。(光トポ、発達障害、診断などの単語で検索するとバンバン出てくる)

・ただ、少なくとも、多くの人はADHD-RS+CAARS+臨床での様子(+配偶者、親兄弟、友人、昔の通知表、エトセトラの証言)で終わってしまうだろうから、それに加えて客観的な証拠が加わることは、疾病をある意味受け入れやすくなるのではないかという気もしないわけでもないので、そういう意味で自分のことを納得させたい人には勧めていいだろう。(それに、機械に判定されるならば客観的にも納得できるだろうとも思える)

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