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【感想】とるにたらないものもの


面白いと聞いていた本を手に取り読んでみました。
江國香織さんの「とるにたらないものもの」です。

本の感想をそのまま書いても、私個人のヘンテコなものになるか、誰かとおんなじことを言っているかのどっちかにしかならないので、しないようにしています。

……ですが、今回はこの本の感想を書きたいと思います。
それだけ、この本は面白いと思いましたし、どこかに書きたいと思いました。
短編集ですので、好きなものを立項しながら書いていきます。

お気に入りの章

緑いろの信号

私はその緑の信号が好きで、時々見たくなる。
ただ、その信号がどこにあるのかわからないので、いくことはできない。
(P. 9 緑いろの信号)

初っ端からいきなりの予想外!
気にしたことありませんよ。
「あっ」と毎回逃してしまうのもかわいい。

カクテルの名前

仮にも言葉で仕事をしているくせに、言葉にまどわされるなんて、とたまには自嘲しても見るのだが、言葉にまどわされなくなったら小説家なんておしまいだ、という気もなんだかやっぱりするわけなのだ。
(P. 35 カクテルの名前)

カクテルの話なのに味にはほとんど触れず、ずっと名前の話をしています。
言葉というものが好きなのだなというのがわかるお話でした。

食前酒と食後酒

食前酒の愉しみを教えてくれたのは、私よりすこし年上の、ある女性だった。
(P. 45 食前酒と食後酒)
食後酒の幸福を教えてくれたのは男性だった。
(P. 46 食前酒と食後酒)

最高!
最初から最後まで素晴らしい構成でした。
他のものが子供っぽい感性で書かれているのに対して、大人びたものを感じさせます。
「教わったことは余韻を愉しむという行為だった」や、「今ならば一人で飲ませたりしないのに」など、想像が膨らんで最高です。

ナイフ

私はいまだかつて「少年」であったことはないので、物語の中でそういう場面にでくわすと、ものすごくどきどきする。
(P. 64 ナイフ)

エッセイを通して、いろいろな人とのかかわりが出てくるのがいいですね。
この章では、父親とのエピソードがありました。
短編集を通じて江國香織さんが見えてくるようで楽しいです。

ケーキ

ケーキ、という言葉の喚起する、甘くささやかな幸福のイメージ。大切なのはそれであって、それは、具体的な一個のケーキとは、いっそ無関係と言っていい。
(P. 68 ケーキ)

共感!
生クリームがあまり好きじゃない私は、好んでケーキを食べることはありません。
それなのに、ケーキと言う響きはあまりにも甘美で気持ちを昂らせてくれます。

まめご

白と緑の色彩もきれいだし、豆の匂いも歯触りも、ごはんの風味のじゃまをしない。それどころか、両方で互いをすばらしくひきたてる。
(P. 91 まめご)

軽く感想を調べていた時、みんなお気に入りにあげていた章。
「だったら、私は気に入らないでやろう」と思っていたのに見事にやられました。
食べ物の描写がうまいとは聞いていたけど、こんなにおいしく描かれるとは。
豆ごはんなんて好みでもないし、気にしたこともないのに、なんか悔しい。

「けり」という言葉

これは完全に母親の影響で、「秋が来にけり」とか、「夏休みはおわりにけり」とか、「そして、パパは去りにけり」とか、いまも昔もよく「けり」を使う。
(P. 102 「けり」という言葉)

シンプルなおもしろエピソード。
起承転結がしっかりとしていて、単純に面白かったです。
読み直してみましたけど、あまり凝った技法は使われていませんでした。
なんか騙された気分。

岩塩をミルで挽きながら小ぶりのステーキの上に散らし、輝く粒子になったそれが、いい匂いをたてている肉の上で半ば溶けてたちまち色を失う瞬間など、うっとりする。
(P. 106 塩)

特にお気に入りのお話。
塩の表現が抜群にいい。
ここまで、塩がキラキラ輝いたものに見えてくるとは思いませんでした。

フレンチトースト

フレンチトーストが幸福なのは、それが朝食のための食べ物であり、朝食を共にするほど親しい、大切な人としか食べないものだから、なのだろう。
(P. 119 フレンチトースト)

章のタイトルを見た途端、「やられた」とコウフク宣言。
これまでに江國さんの幸せに包まれていた私に勝てるはずもありません。
話としても、フレンチトーストは大切な人としか食べない喜びがある、と気づきもあるいいお話。

挙げ始めるとキリがないのでこんなもので。
私の感想よりも、江國香織さんの本を読んだほうが面白いと思います。

それでは、今日はここまで。
よい塩を~。

……。
……。
……。
江國さんの文章にはやられてしまいました。
エッセイと言うものをあまり読んだことなかったのですが、小説とは違う面白さがありますね。
表現がうますぎてとてもかなわないなと思いました。
私もうまい文章をかけるようになりたいものです。

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