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喫茶チャイティーヨ Epilogue

Buddiesでのライブを終えて、私達はチャイティーヨでささやかながら、打ち上げ中。
ある意味、今日の主役である〇〇は私の隣で何故か空になったシャンパンボトルを抱きしめながら、ウトウトしている。

アルノ「…先輩ってお酒弱いんですか?」 
飛鳥「いや、普段はうちでも強い方かな。えんちゃんと最後まで飲んでるし」
さくら「飛鳥さんもそんなに変わらないじゃないですか笑」
飛鳥「う〜ん、うちで明確に弱めなの梅くらいだしなぁ」
和「ちょっと意外です」
咲月「確かに、梅澤さん強そうなのに」
美波「それは喜んだほうがいいの?」
飛鳥「イジられてんじゃない? 梅は見掛け倒しだから笑」
美波「飛鳥さん?」
飛鳥「冗談だって笑」

人に恵まれたなって思います。
ここ最近、〇〇はそう言う。
自分1人ではどうにもならないこと。
そういうことに直面した時、助けられてここまで来たって。

わかる。
孤独が好きだった。
孤独こそが好きなんだと思ってた。
でも、正しくなかった。

今はわかる。
孤独も好きだった。
孤独だけが好きなわけじゃなかった。
言葉にするなら、そんな感じ。

頼ることが苦手なだけだった。
頼り方がわからないだけだった。
任されたからには、自分でしっかり背負っていかなきゃいけないって、思い込んでた。
これは私の問題で。
私が一人で解決しなくてはいけないんだって。
でも、そうじゃなかった。

夏鈴「〇〇さん寝てる」
天「えっ、見たい!」
ひかる「天ちゃん、起きちゃうよ」
美青「瓶抱っこしてる笑」
瞳月「ほんまや笑」

何度か大役を任されるようになって、その都度自分でいいんだろうかって悩んだ。自分のせいで皆に迷惑をかけたらどうしようって不安になった。
でもそんな姿を後輩達には見せられない。そういう重圧に、いいかげん慣れないとって言い聞かせて。
けど、ある時気づいた。
顔を上げて、周りを見渡せばたくさん仲間がいるんだって。一人ぼっちじゃないんだよって。
辛いときや、苦しいときは、つい俯いちゃって、知らず知らず周りの声も聞こえなくなっちゃうから、気づくのに時間がかかっちゃうけど。
それでも声をかけ続けてくれる仲間がいる。
大丈夫だよ、頑張れ、応援してる、そんな風に声をかけてくれる。

奈々未「ま〜、無邪気な寝顔」 
深川「やりきったって感じかな?」
美月「なりふり構わず!って感じだったし」 
史緒里「ちょっと感動しちゃったよ」
祐希「アルノちゃん引っ張ってった時、ドラマみたいだったもん」

そんな仲間が、コイツにもたくさん出来たことを嬉しく思う。そんな仲間が、コイツのところにたくさん集まってくれたことを嬉しく思う。

コイツは私の過去みたいだったから。
私はコイツの未来になってやろうって思った。

飛鳥「まぁ、頑張ったんじゃない?」  

不意に〇〇の体が傾く。
椅子から落ちると危ないから、とっさに袖をつかんでこっちに引っ張った。急なことだったから、ちょっと力が入り過ぎて〇〇は今度はこっちに傾いて、ポンと私の肩に頭が乗った。
まぁ…、いいか。
なんか、周りの視線の質が変わった気もするけど。ただその衝撃でか、〇〇はゆっくり目を開けた。

〇〇「あれ…。みんな大集合?」

ショボショボとした目で〇〇は周りを見渡す。

〇〇「…何で、僕ボトル持ってんだろう笑」

へらへらとしながら、シャンパンボトルをテーブルに置く。視線上げると皆から見られてることに気づいたのか、

〇〇「そんなに皆で見ないでよ、なんか恥ずかしい笑」
飛鳥「いい顔で笑えるようになったじゃん」

〇〇はちょっと驚いて、すぐそりゃあまぁニッコニコの笑顔で。

〇〇「みんなのおかげです」

あの日、初めて会った時。
誰にも嫌われないようにへらへら笑って、踏み込まれすぎないように軽薄に振る舞って。
そんな〇〇が気に入らなかった。
今はたぶん、嫌われるかも。
なんて微塵も考えていないんだろう。
素直に、思ったまま、振る舞っている。
それでいい。
それが気に入らない態度だったら、ちゃんと注意くらいしてやる。その時、改めればいい。

飛鳥「さて、そろそろ女子高生は帰りな!」

あからさまに不満そうな女子達。

飛鳥「未成年が夜遅くまでたむろってる店。なんて周りに思われたら困るからね」
〇〇「あ、みんなもう帰っちゃう…?」
飛鳥「…帰りにくくなるからやめな」
〇〇「じゃあ、駅まで…」
飛鳥「そんな酔っ払いが送るほうが心配だわ!」
〇〇「う…」
ハマ「俺らで送りますか」
トンツカ「ですね」
飛鳥「すいません、お願いします」

帰り支度を済ませた女子達が入口に集まる。
〇〇はちょっとふらふらとしながら移動。

〇〇「みんな。ほんとうにありがとう。みんなのおかげで、今日を迎えられたよ」

一様に皆、〇〇の言葉を真剣に聞いてる。

〇〇「情けない先輩でごめん。今日限りで、そんな自分は終わりにする。明日から、みんなの頼れる先輩になれるよう、一生懸命頑張るよ。もうちゃんと前を向けたから。あとは精一杯、走るだけだから」

話していて感極まったのか、どんどん表情がくしゃくしゃになっていく。

〇〇「…皆のことが大好きです。一人一人抱きしめたいくらい…」

酔ってるのも、相まって中々な発言をかましてる。
その言葉に反応して身構える女子達。
誰から行く!?じゃないんだよ。
嫌がれ。

〇〇「でもセクハラになるから辞めとくね…」

せんのかい。
だったら言うな。
女子達が肩透かし食らってるだろ。
あ、誰からともなく逆に抱きしめに行った。
ますます〇〇泣いちゃうだろ。
ていうか、JKに団子にされて泣く成人男子ってどうなんだ。

美波「いいんですか? 未成年に手、出されてますけど笑」
飛鳥「…見なかったことにしてやる」
さくら「甘やかしてる笑」
飛鳥「うるさいうるさい。そろそろ帰れー!」
一同「はーい!」

ハマさんとトンツカさんが、女子達を連れてお店を出る。

深川「よし」

まいまいが〇〇の手をとってカウンターへと連れて行く。

深川「明日からカッコイイ先輩として振る舞わないといけないから、今日のうちに後輩扱いしてあげないとね」
奈々未「…なるほど。そう言う考え方もできるか」

奈々未もちゃっかり隣の席に座る。

飛鳥「おい、甘やかし筆頭2人」
美波「自分も甘やかしたいのに、先越されたから怒ってる笑」 
美月「素直じゃないなぁ笑」
飛鳥「お前らも叩き出してやろうか?」
祐希「こわ笑」
史緒里「私もカウンター座っちゃお。さくも座ろ」
さくら「はーい笑」
〇〇「なんかすいません」
飛鳥「謝るぐらいなら断れっての」
〇〇「…すいません笑」
飛鳥「ヘラヘラすんな!笑」

〜〜〜〜〜〜


翌年春。
僕は大学3年に進学。
あと2年もすれば卒業。
周りの学生達は就活を意識して動き出している。
僕はと言えば、チャイティーヨへの就職を決めているので、その辺りとは無縁なのだけど、やるべきことがないわけじゃない。

〇〇「おはようございます」
飛鳥「おはよ」

いつものスペースで、いつものように挨拶を返してくれる飛鳥さん。
そして、

???「おはようございます」
〇〇「…おはよう」
???「…なんです?」

もの言いたげな僕の表情を察してか、彼女は訝しげに尋ねてくる。

〇〇「…アルノがチャイティーヨで働いてるのが
やっぱ慣れない」

アルノはこの春、南美大に進学した。
歌に関する講義やら実技やらを片っ端から勉強をするそうだ。それとともに、チャイティーヨにアルバイトとして入店。再び僕の後輩になった。

アルノ「そりゃ、入ったばっかりだから…」
〇〇「いや、なんというか…、そういうことじゃなくて」
アルノ「?」
〇〇「言葉では説明しづらいな…」

なんというのが適切なのか…。

アルノ「…パーマ、似合ってます」
〇〇「…ありがとう笑」

この春。
心機一転、伸びた髪にツイストパーマを当てた。
まぁ、形からでも変わっていこうか、なんて。

???「あっ、〇〇さんパーマ当ててる!」
〇〇「…おはよ」

バックヤードから消耗品を手に、小さな女子が出てくる。

???「あ、おはようございます」
〇〇「…まぁ、ひかるちゃんがいるのも大概慣れないけど…」
ひかる「先輩。ちゃんやめましょうっていいましたよね?」
〇〇「そうでした…」

天ちゃん夏鈴ちゃんと共に、こちらも南美に進学したひかるちゃん。
彼女もまた、この春チャイティーヨに仲間入り。
僕はアルノを始め、軽音楽部の後輩達を下の名前で呼び捨てにしている。ひかるちゃんは、じゃあ自分もチャイティーヨで直接の後輩になったんだし呼び捨てで。と希望してきた。
とはいえ急にってのは難しいよ?

昨年、飛鳥さんが予定していた新体制は、新しいアルバイトを1人増やして、お休みやイレギュラーに対応するという形だったんだけど、昨年から始めた美波さん主導のイベント営業、ビストロチャイティーヨ。これが非常に好評で、昨年秋から始めたにもかかわらず、すでに何度も開催されている。
その評判を受けて、飛鳥さんは本格的に姉妹店を始めて、そこを美波さんに任せるというプロジェクトをスタートした。早ければ来年中にはプレ・オープンまで持っていくとのこと。そのために、美波さんはその姉妹店の開店準備で忙しくなる。今年の内にデザイン会社も退職して、お店に集中するそうだ。
それに伴って、アルバイトの募集枠を2名に拡大。
それに応募したのがこの2人だったというわけだ。

〇〇「不思議な感じ」
アルノ「早く慣れてくださいよ」
ひかる「そうですよ」
〇〇「はーい」
飛鳥「なんでもいいけど、時間までに着替え済ませてなかったら遅刻扱いだからな」
〇〇「は〜い」

バックヤードに向かう途中、僕は飛鳥さんに尋ねる

〇〇「似合ってます?」
飛鳥「…チャラさが増した」
〇〇「飛鳥さんには不評だったか…」
飛鳥「…別にそうは言ってないけど」 
〇〇「ならよかった笑」
飛鳥「さっさと着替えてこい!」
〇〇「はーい!」

バックヤードで着替えを済ませ、髪を整髪料で後ろに流す。

〇〇「よし!」

バックヤードを出て、まずキッチンへ。

〇〇「さくらさん、おはようございます」
さくら「おはよう。あ、髪型変わってる!」
〇〇「春なんで、ちょっと気分を変えようかと」
さくら「いいね、心機一転って感じ」
〇〇「ありがとうございます。今日もよろしくお願いします」
さくら「うん、よろしくね」

キッチンを出た所で、お店のドアが勢いよく開く。

美波「みんなおはよー!」
一同「おはようございます!」
美波「あ!〇〇髪型変わってる!」
〇〇「はい、春なので心機一転って感じです」
美波「へぇ〜、いいじゃん!」
〇〇「ありがとうございます笑」
飛鳥「で、なんか用があったんじゃないの?」
美波「そうでした!お店のことで相談があって…」

2人が姉妹店の話を始めたので、僕はアルノとひかるの元へ。

〇〇「開店準備進めていこうか」
アルノ・ひかる「はい!」


〜〜〜〜〜


〇〇「そういえば2人はゆくゆくどのポジションがやりたいとかあんの?」

表にA看板を出しながら、僕は何気なく二人に聞く。

ひかる「私はバーテンダー、やりたいです!」
〇〇「そうなの?」
ひかる「はい、ゆくゆくは、ですけど」
〇〇「そうなんだ〜。 僕に教えられることは教えるね」
ひかる「ありがとうございます!」
〇〇「そうなるとアルノにはキッチン覚えてもらいたいけど…」
アルノ「…なんです?」
〇〇「なんか心配。手切ったり、やけどとかしそうで。アルノどんくさいし…」
アルノ「出来ますよ!」
〇〇「やれば出来ルノ?」
アルノ「出来ルノ!」
ひかる「笑」
〇〇「はいはい、店内戻ろう」

2人を先に入れると、僕は少しチャイティーヨの外観を眺める。
少しずつ、少しずつ。
ここが自分の居場所だと思う気持ちと、ここをみんなの居場所として大事に守っていきたいと思う気持ちが混ざり合っていく。
大好きで、大切な場所。

アルノ「先輩?」
ひかる「どうしました?」
〇〇「なんでもない!」


喫茶チャイティーヨ。

乃木駅から徒歩6分ほど。
カウンター5席、2名がけテーブル席2つ、
4名がけテーブル席1つ。
毎週水曜定休日の喫茶店です。

新たなスタッフと共に、
本日も皆さんのご来店をお待ちしております。



END.





〜〜〜〜〜

???「ひかる、バイト始めたって」

彼女はカウンターの中でスマホをいじりながら言う。

???「へぇ、Buddies?」

隣に立つ長身の女性がそう問う。

???「ううん。そっちは美青と瞳月が入ったってさ」
???「天ちゃんと夏鈴ちゃんも南美入ってそのまま続けてるんだよね?」
???「うん。すっかりダンス部伝統バイトみたいになってる笑」
???「まぁ、いいことじゃん。それでひかるちゃんはどこでバイト?」
???「近所の喫茶店だって」
???「へぇ、ちょっと意外」
???「夜はBAR営業もしてるから、ゆくゆくはバーテンダー業務もしてみたいって」
???「そんなとこまで影響受けなくても笑」
???「ほんとだよね笑」
???「そろそろオープンの時間なるで〜」

キッチンから明るい髪色をした女性が、関西弁で開店時間が迫るのを告げる。

???「はーい」
???「看板つけてくる」
???「よろしく〜」

表の電光看板をコンセントに繋ぐと、薄明かりに店名が浮かぶ。

-BAR La vie en rose-

















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これにて、喫茶チャイティーヨのメインストーリーは完結となります。
また追々あとがきを別途更新しようと思います。
最後までお付き合いくださった方、どうもありがとうございます。
今後のチャイティーヨは短編を、書き散らしたりしようかなと思っております。

あとがき

前のお話

シリーズ。


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