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不動産の「権利証」のお話

不動産の「権利証」という言葉がテレビなどで使われているのをみかけることがあります。
今回はこの権利証というものがどのようなものかについてお話してみようと思います。

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今はいろいろな手続きがインターネットを通じてできるようになりました。また、役所の書類も新しく作られるものはすべてコンピュータで作成されています。ところが、今から20年以上も前になると一部はまだ手書きものもありデジタル化さえされていませんでした。


昔は登記もアナログでした

このことは不動産登記手続においても同様でした。登記手続きには登記申請書のほかに法律(不動産登記法)の規定に従って様々な書類を添付します。以前はその中の一つに「登記原因証書」又は「申請書副本」を出すことが規定されていました。
「登記原因証書」は、登記原因がわかる内容の書類を意味します。例えば、売買であれば「売渡証書」というものを司法書士が作成して、そこに売主が印鑑を押します。内容としては、○○さんに以下の不動産を売り渡します、といった内容です。
「申請書副本」とは、わかりやすく言えば登記申請書のコピーです。実際にコピーして出す司法書士さんはいなかったとは思いますが、作成時に申請書を2枚印刷して一方に「副本」とわかる記載をしておくのです。
そして、これらの書類を添付して申請すると、完了時に売渡証書などの「登記原因証書」や「申請書副本」に法務局が赤く四角い印判を押してその中に「年月日・受付番号」が記載して返却されました。この返却された印判の押された書類を一般的に「登記権利証」や「権利証」と呼んでいました。

印判のイメージ

最近はデジタルですよ

しかし、時代が変わって、平成17年に法律が改正されて、コンピュータでの申請方式を導入する法務局を順次指定していくことになりました。指定されて以降に新たに権利を取得する登記申請をした場合には、上記のような印判を押された書類は返却されず代わって「登記識別情報」というものが交付されるようになりました。これはコンピュータで作成された全国の法務局一律の様式によるもので、下部に12桁の英数字が記載されたものに目隠しが施された通知書になっています。

以前の「権利証」は、その書類自体が権利の証でしたが、「登記識別情報」は通知書そのものに意味はなく、その12桁の英数字の情報が重要となります。つまり、「権利証」は盗まれない限りコピーされただけでは問題ありませんが、「登記識別情報」は中の12桁の英数字がメモされた時点で権利証を盗まれたのと同じ意味を表します。

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「登記識別情報」の通知書は、これまで様式が何回かバージョンアップされています。
最新のものは12桁の暗号部分が袋とじのようになっていてミシン目に沿って切り取ると中の英数字を確認することができます。法改正当時の最初の様式は目隠しシールが施してありましたが、これをはがす際に中の英数字の印字まで一緒にはがれることがあるという欠点がありました。12桁の英数字は、例えばその不動産を次に売却する場合にコンピュータに入力して申請するのですが、英数字自体がはがれて読めないと意味がないわけです。

(現在の様式の見本)001131098.pdf (moj.go.jp)
(以前の様式の見本)001131095.pdf (moj.go.jp)
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現在「権利証」が発行されることはありません

話を戻しまして、平成17年の法改正以降順次コンピュータ指定がされていきました。コンピュータ指定庁第1号は「さいたま地方法務局上尾出張所」で指定日は平成17年3月22日でした。そこから全国の法務局が順次コンピュータ指定庁となり、現在ではすべての法務局がコンピュータ指定庁となっています。したがいまして、現在新たに権利を取得される方が上記の法務局の印判の押された「登記権利証」が発行されることはありません。
ただ、ここから注意が必要です。

しかし!まだ権利のある「権利証」も存在しています!

“コンピュータ指定庁になる前に権利を取得された方で”、
“現在もその権利を所有されている方”

は今でも「登記権利証」をお持ちのはずです。(紛失されていなければですが)
この「権利証」は、全ての法務局がコンピュータ庁になった今でも権利は生きています。コンピュータ指定庁になって以降に新たに権利を取得された方には「登記識別情報」という12桁の暗号に目隠しされたものが発行されますが、それ以前に権利を取得された方の「権利証」の効力がなくなるという意味ではないのです。また、「権利証」を「登記識別情報」に交換することもできません。

今回伝えたいこと

つまり、今回お伝えしたかったのは「権利証」の時代に権利を取得された方は、それは今でも効力がありますから、これからも大切にその「権利証」を保管しておいてください、ということなのです。ちなみに「登記権利証」も「登記識別情報」は、紛失したら権利が亡くなるわけではありませんが、いかなる事情があっても再発行は一切されません。紛失してしまった方はどうすればよいかについては、また回を改めてご説明します。

今回は「権利証」や「登記識別情報」の現物を見られたことがない方は、少しイメージがわきにくい内容でしたが、なんとなく趣旨が伝わっていれば嬉しいです。

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