朝日は来ない 第4話

周りのアメリカ兵が教官をいっせいに打った。香織、小さく笑っていた。

一郎「香織……!」
香織「……あ、ぁ……翔子も一郎さんも…無事でよかった……」
一郎「何言ってるんだ!香織!君が死んでしまったら、私が生きていたって、意味が無いじゃないか!」私はとなりでずっと、君を守る…小さい頃からそれが叶えたい夢なんだ…!なのにどうして……」
香織「……一郎さん」
一郎「どうして……守れなかったんだ…!」
香織「一、ろう……?」
  
       香織、一郎に声をかけようとするも目を閉じ、動かなくなる。
              
一郎「香織……?香織、香織!!」
   
  一郎、涙を流す。香織、一郎の手の中で幸せそうに死んでいた。一郎、香織を抱き上げて、ゆっくりと歩み始めた。

翔子「……?お父様……?」
一郎「翔子、すまない。お前はアメリカ兵と先に行きなさい。俺も、後を追う……」
翔子「は、はい」
   
    一郎、ガマの入口から、山をおり、海を出た。
             
 ○海岸・崖の上 昼
  一郎、崖の上でポケットから貝のペンダントを手に取ると、自分の手と、香織の手に巻き付けた。

一郎「ごめんね…守れなくて…でもせめて、来世でも君と出会ってまた恋をして、今度こそ君を一生守ってみせる……この赤い琉球糸芭蕉にかけて……」
              
  一郎、海の中に飛び込んだ。もうろうとする意識の中。香織の幻覚が見える
    
香織「……ちろう……一郎……」
一郎「!」
香織「一郎。死んじゃダメだよ」
一郎「どーして……君は死んでしまった。私は君を1人にしたくないんだ……!頼む。私も、君の元へ行かせてくれ!」
香織「ダメだよ。一郎。それじゃあ翔子は?この先ずっとひとりぼっちじゃない」
一郎「……」
香織「私たちが出会うのは、また来世だってできるよ。きっと必ず私はあなたと恋に落ちるわ。でも、翔子は、私達ふたりが死んだら、悲しんで死んでしまうかもしれない。そんなことになったら、来世であの子に顔向けできないよ……」
一郎「……(言葉を詰まらす)」
香織「だからお願い。一郎。翔子の事、私の分まで幸せにしてあげてね」
一郎「香織!行かないでくれ!香織!!」
香織「大丈夫。私はいつでも君のそばにいるよ……どこまでも」

一郎(N)「この言葉に目を覚ました。目の前で翔子は泣き崩れ、アメリカ兵たちは、娘を置いて死ぬなと怒っていると、後から知った。その後は、早く時がすぎた。翔子は一人前の女性となった。顔は全く似ていないが、香織そっくりの可愛らしい女の子に育っていった。俺は生涯、一生かけて香織との思い出を描き続けた。その日記は100冊以上あったが、誰もそれを見つけることはできないはずだった」

○現代 児童養護施設星空学園 昼

   本を片手に読み聞かせをする愛(16)

愛「そして一郎は最後に香織に未来の手紙を送って、生涯を終えました」

   子供たちは口々につまらないと言ってさる。

夢「おっはよー!!愛!」
愛「うわ!夢お姉ちゃん!びっくりしましたぁ」夢「ん?それまた自作小説読み聞かせしてるの?」
愛「えぇ、まぁお姉ちゃんは読む前に寝ちゃうと思いますが」
夢「いや、愛の文章が独特というかなんというか……」
叶「2人とも、何してんだ?」
夢「叶……!」
叶「なんだよ、小説なんて書いてるのか……!」

    叶、小説を読んで驚いた顔をする。

叶「……夢、ちょっと外してくれないか?」
 夢「え?う、うん。分かった……」

       夢はける

愛「お久しぶりです。お父様…いいえ、一郎さん」叶「そっかぁ。お前だったのか。翔子」
愛「はい。私も運が良く2人のもとに転生することが出来たみたいです」
叶「あぁ…全然気づかなかったよ。翔子」
愛「ふふ、まぁ前世と全く違いますからね」
叶「…さっきの小説、もしかして……」
愛「はい。前世の2人の物語です。この日記を参考にしました(日記を取り出し)」
叶「どうしてその日記のありかを?」
愛「探したんですよ。父の書斎を入ったら、膨大な量の日記が出てきて、全て読みました。辛いけど、何度も何度も……でも全てを読んで、私もお母様とお父様の今世の恋を応援しようと思いました。今度は長く、2人が結ばれるように……」
叶「…そっか…でもどうして小説を書いたんだ?別に日記を見れば、また思い出せるだろ?」
愛「そうですね……これは私のやりたい事なんです」
叶「やりたい事……?」
愛「そう。私のやりたい事。それは、この物語を描ききる事」
叶「え……」
愛「この2人の奇跡を、戦争の恐ろしさと仲良くすることの意味をいろんなメディアに書き残し、作り上げて、すべての人々の心に生きる……何年先でも、人類が終わるその日まで」
叶「……」
愛「黙って書いてしまってごめんなさい。私の物語に必要だったんです」
叶「いいや、嬉しいよ」
愛「え?」
叶「そうやって愛が書籍を残してくれたら、もしかしたら来世の俺たちがそれを見て、また思い出せるかもしれない」
愛「……ありがとう」
叶「こちらこそ。俺たちの物語を書いてくれてありがとう」
愛「いえ…お父様。絶対、今世はハッピーエンド、書けるように一緒に頑張りましょう」
叶「あぁ!」

  愛、窓を開ける。

 愛(N)「一郎と香織には、平和の朝日を見る日はこなかった…でも今なら見えるよね?赤い丸の国旗が……」

愛「さぁ、ここからが夜明けだよ」

愛(N)「朝日は今、ここに来る」

   


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