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あの夏の海の思い出

うすーい紗のかかった向こう側、まっくろな顔をしたタンクトップの男の子から「まだ寝てるのかぁ。」と、声を掛けられ セミの声と爽やかだけど、少ししめった潮の風を感じながら むっくり蚊帳の中で目を覚ました私は小学4年、妹は3年生。男の子たちは遠縁にあたる5年生と3年生の兄弟。

その夏、どんないきさつで泊まりに来たのか覚えてないけれど、この夏のひとときは忘れられないキラキラした大切な思い出だ。

初めて訪れた母の兄である叔父の奥さんの、そのまた叔母さんの家の漁師さんの大きな家だった。

海から流れ入る水路沿いに建つ家には、走り回れるような広い庭があり、長ーい縁側があり、大きな蚊帳が張れる立派な部屋があり、台所には土間、板張りの床は黒くてピカピカしていて 子供心にも手入れの行き届いた清潔さが伝わってきた。

天井が高く奥行もあるので 夏なのに、ヒヤッと、キリっとした空気が漂っている家だった。庭の片隅には道具小屋とおばさんの内職小屋もあって。

漁師の家の朝は早く、私たちが目を覚ます頃にはみんな出かけてしまっておりシーンとした静寂のなか、叔母さん一人が私たちの為に土間の釜戸の所で朝ご飯を作ってくれた。

目玉焼きと千切りキャベツ、わかめの味噌汁と海苔。目玉焼きにはソースをかける感じだったのでそうしたみた。家の目玉焼きは塩コショウだったけれどソースにしてみたら飯がいつもより進んだ記憶がある。

二人の兄弟はその大きな家の子ではなく、海沿いにある分家の浜の子って呼ばれていたっけ。毎朝迎えに来てくれていろんな場所に連れて行ってくれた。街中の雑多な下町で育った私たちだったけれど 、兄弟には甘ちょろい都会の子に見えたんだろうか?

少し離れた海、小高い山の上の神社、クワガタのいる林、路地の路地の向こう側。意気投合した私たち4人はずっと一緒にいた。ずっと笑っていた。

浜の女の子の友達も紹介してくれたっけ。女の子たちの何とも言えない表情を思い出す。淡一い優越感みたいなものも感じたなあ。

お昼ご飯は、その兄弟の浜のおばさんの家でいただいていた。本家の優しいおばさんとは違い 浜のおばさんは、ケラケラ笑う面白いおばさんで 浜の家では私たちも寝転んでテレビなんかも見ていた。

泊まっていた本家の方は、末が大学生の男の子が5人、分家の浜の家の方は男の子3人と男子ばかりの家系だったからか、両方のおじさんもおばさんも優しくしてくれて、至れり尽くせりの天国のような夏の日々。

海のお土産をたくさんもらい、兄弟とは翌年の再会を誓って別れたけれど その次はなかった。1週間くらい泊まってたかと思っていたけど、後で母親に聞いたら2、3日の事だと知って驚いた。

あの夏の、一日の始まりのワクワクした朝の光と、夕方の海のにおいが混じった切ない夕焼けは一生忘れられない。

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