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私の原点ミステリー小説『金属年数』…全文公開・完全版。

この『金属年数』という作品は、今からおよそ13年前、私が初めて文学賞に応募した作品です。文学賞は、第2回創元SF短編賞(2010年公募〜2011年大賞発表)。

応募作品総数は594。その中で、私の作品は幸いにも、一次選考を通過した56作品に選ばれました(今でもサイトに掲載されています)。これが私の小説執筆の原点とでも言えるでしょうか。

今回公開する作品は出版社など、私以外の誰にも一切手を加えられていない産地直送の無添加小説です。言い換えれば、私が書いた生原稿を新鮮な状態でお届けします。

文学賞の名前からしてお分かり頂けると思いますが、この作品はもともとは短編でした。しかし、趣味の延長でゆるりと何年もかけて書き足すうちに、いつの間にか長編になってしまいました。ジャンルで言えば、サイエンス・ミステリーかな?とは思いますが、読まれる方によって違った印象もあるでしょうし、ジャンルなんてあってないようなものですね。

では、前置きはさておき。早速ですが、『金属年数』の不可思議な物語をお届けします。


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【著作権は私および由流里舎にございます。無断転載・転用はご遠慮願います。】

『金属年数』

第1章 置換

     1

夏の京都は暑い。

それは、その地形に関係すると言われている。京都盆地は東に比叡山、西に愛宕山などの山々が鎮座し、南北にも山地があって山に囲まれている。だから、暑い熱気がこもるのだと。この熱気は時に人の心を惑わし、不可解な出来事を演出する。

冬の寒さも然り。総じて巡り来る季節に関係なく、人々の念さえも凝縮され易い土地柄なのかもしれぬ。それ故か、京都の四季は人々の思惑に怪しく彩られ、独特の古都情緒を醸し出す。

その盆地の東にある森が、この物語の始まる舞台である。

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クマゼミのシャンシャン…という蝉時雨が森に響く7月の下旬。京都・山科にある山の森美術館の入口に立つ銅像には、一際多くの人だかりができていた。

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