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自分を幸せにすることが、巡り巡って人を幸せにするということ

「私、子どもが好きではないんですよね」

あっけらかんと笑いながらそう話す、美術作家の榎園歩希さんは、「朴木アトリエ」の代表だ。

自身を「教育者ではなく子どもと対等な表現者だ」という歩希さんは、「先生」ではなく、一人の大人として子どもと関わっている。


歩希さんが2年ほど前から運営している「朴木アトリエ」は、大分の田舎にある廃校になった小学校にある。毎週木曜日と土曜日だけ空いていて、対象年齢は小学生から大人までと幅広い。

不登校の子や、ホームスクーリングの子、引きこもりの若者や公立の学校へ通いながら来ている子など、背景は様々だそう。

千葉県から来ている画家のいくちゃんからのご紹介で、今回初めてアトリエにお邪魔することになった。

可愛いオレンジ色の屋根瓦の学校に入っていく。ドアを開けると、思わず歓声を上げてしまった。なんて可愛い世界。

ここは、教室ではなく、まさに「アトリエ」なんだなと思った。今日は子どもたちはいなかったけれど、いつもここで思う存分自分の表現したいことを爆発させているんだろうなと肌で感じた。子どもたちの様子がそこらじゅうに広がっている創作物たちからありありと浮かんでくる。


中には、自分でデザインした猫の絵をTシャツやカバンに描いて販売している子もいるとのこと。その子は、自分の家の猫が死んでしまってすごく落ち込んでいたところ、歩希さんの提案があり、猫を描くようになったそう。そして、その売上の一部を保護猫団体へ寄付しているとのことだった。

他にも自分でホームページを作って発信している子や、個展を開く子など、自分の世界をここからどんどん広げていっている子どもたちの様子を聞くことができた。

「私は、週に2回しかこの場所は開けないことにしてるの。だって自分が疲れちゃうでしょ?元々私が子どもに関わる仕事につくなんてとんでもないと思っていたし、私自身学校とか先生とかが嫌いだった時代もあるしね。だけど、ご縁が重なってここの場所を自分のアトリエとして使うことになって、子どもたちのアトリエとしても開放することになったの」

そのサバサバとした口調と「教育者ではない」「子どもは苦手」「寄り添うことなんてできない」などの言葉だけを聞くと、まるで歩希さんが「少し冷たい人」かのように聞こえてしまうかもしれない。

でも、子どもたちの様子や子どもたちの作品を紹介するときの歩希さんの楽しそうな笑顔からは、子どもたちへの大きな愛情を感じた。

そして、「寄り添っていない」と言いながら、一人一人の個性に合わせてさりげなくアドバイスをしたり、その子に合うだろうなという提案をしたりと、丁寧に向き合い寄り添う姿が言動の端々に溢れていた。

その姿勢は運営方法にも表れていた。

「ここは、月謝で運営するようにしてないんだよね。色んな家庭の事情があるし、一口500円の月2回配信のメルマガに登録してくれたら誰でも通えるようにしてる。家計に余裕のある人は、何口でもいいですよと言ってるから、家庭によって払っているお金はバラバラかな。土曜日に通ってきている20歳以上の子たちは働いていない子が多いから、お金はもらってないんよ」

驚いた。

月に何回こようと、何口払うかはその家庭にお任せするという。そして、複雑な事情を持っている若者からは一切お金を頂かないと決めていた。

ここまでの話を聞くと、「素晴らしい慈善事業ですね!」と言ってくる人がたくさんいるそう。でも、あゆきさんは、断固として「これは慈善事業ではなく、営利目的の事業です!」とその度に答えるそうだ。

自分にもちゃんとメリットがあるように、しっかりと考えている仕組みがあった。

一口500円のメルマガだけで赤字にならないように、最初の一年間は補助金を取って、子どもたちの活動は「無償で」運営していた。その傍ら、メルマガ登録者を増やし、2年目からは黒字でスタートできるようにしていたという。

準備万端だ。

2年前に緻密な計画をして、事業をスタートさせていたんだ。子どもたちにも保護者さんにも無理のないように。そして一番は自分自身がお金のことで追い詰められないように。

歩希さんは自分のことを「病みやすい」と表現していた。自分とたくさん向き合ってきたからこその言葉だと思った。

だからこそ、自分が日々楽しく仕事ができるように、自分を犠牲にすることがないように、その仕組みを考えていたんだ。

「慈善事業」をして「ボランティア」をして、それで自分が疲弊してしまったら元も子もない。

まずは、自分自身が無理なく、自分の好きなことでワクワクしながら過ごせること。
それが一番大事だと歩希さんは言っていた。

人のためになることをするのは、その次なのだ。

自分で自分を幸せにしているあゆきさんは、とても楽しそうだった。

その上で、自分から溢れ出たエネルギーで子どもたちや若者たちを幸せにしていた。

歩希さんの作品

「まずは自分の好きなことを極める」

そのことを実際に体現している歩希さんの姿を見ることができたことは、私にとって大きな刺激になった。


近くにこんな素敵な先輩がいることがわかり、益々これからが楽しみになった日だった。


わくわく

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