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【長編詩】宛先

初夏の頃、
届くはずのない手紙を出した
宛先のない手紙。
君はもう読んだかな 

君が忙しいことなんて
僕はもちろん知ってるよ
君が筆不精なのも
重々わかっているよ

けれども
せめて一筆、返事をくれてもいいのに。

僕が住所を書き間違えたかな。
それともまだ配達中かな。

君が住む場所は
僕の街から随分遠いね
今の僕では
到底辿り着けないよ

けれども
これから長い時間をかけて

いつか
必ず君に会いに行くよ

直接、君に会えたらさ
何の話になるのかな。
僕のいい加減な性格は
あの頃と全然変わってないねって
また君は笑ってくれるかな

目と目があった瞬間に
僕だと気づいてくれるかな。
歳を重ねた姿の中に
昔の僕を見つけて
あの頃と同じように抱きしめてくれるかな

君と再会できる未来が
もし本当に在るのなら
今はどんなに離れていても
前を向いて歩いていける
今は、そんな気がするよ。

そうだね
相変わらず僕の話は長くて
何を伝えたいのか
どこか曖昧で、分かりにくいよね。

けれども
こんな僕を、不器用な僕を
君なら待っていてくれていると、
何故だか不思議とそう思えるんだ。


「拝啓、天国の君へ。」

この続きは
君と再会できるその日までとっておくよ。

だから
この手紙の返事も
直接、君の声で返してほしい。

もう数十年後には、
この手紙を手渡しで
届けられそうな気がするんだ。

だから
あと少しだけ待っていて、
きっと、きっと、会えるから。

だから
その宛先で待っていて、
きっと、きっと、会いに行くから。








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