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【詩】作家

或る朝 僕へ届いた 贈り物
鮮やかな赤いリボンで飾られた箱には
何も書かれていない原稿用紙と
真新しい万年筆。
 
構想期間は僕の人生
 
この日から 長い長い
ノンフィクション作家としての
僕の生涯が始まった
 
沢山の物語を描こう。
僕だけの価値観で
制約のない自由な表現で
 
沢山の人物を描こう。
ほんの少しの出逢いも
大切にしたいから
 
小説が進む度 いつの間にか
主人公の役柄が 君に染まった
プロローグには居なかった君が
いつの間にか僕の小説の主人公になった
 
けれどもページの先に
いつまでも君がいる訳ではなかった
 
あのまま ずっと君が
僕のそばに居てくれたなら
それはきっと美しいハッピーエンドの
恋愛小説だった
 
バッドエンドも嫌いじゃない。
けれどもそのまま終わらせるのが
ただ辛かった
 
これまで
沢山の喜びと悲しみが連なり
出逢いの数だけ別れが訪れた
 
こうして
小説はいよいよ終盤を迎えた
 
僕の筆が少しずつ擦れていく
僕の指先が少しずつ弱っていく
 
この小説はいずれ
読み手もなく 忘れられ
本棚の端で古びてしまうのだろうか
 
そして あくる日
僕は 静かに筆を置いた。
 
強い睡魔に誘われ 目を瞑れば
その作品を
読み返す時間など
僕にはもう残されてなどいなかった。

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