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現代道徳哲学(エリザベス・アンスコム)

ソクラテス:さて、今日の対話相手はエリザベス・アンスコムさんです。彼女は現代道徳哲学の重要な思想家であり、特に彼女の著作『インテンション』や論文「現代道徳哲学」は広く知られています。彼女の主張は、しばしば現代の道徳理論に対する鋭い批判を含んでおり、その考えは多くの哲学者に影響を与えています。今日は、アンスコムさんと共に現代の道徳哲学について深く掘り下げていきたいと思います。それでは、アンスコムさん、あなたの道徳哲学に対する考えの概要を教えていただけますか?

アンスコム:ソクラテスさん、お招きいただきありがとうございます。私は、現代の道徳言語がどのようにして意味を失い、道徳的判断がどのようにして空虚になってしまったかに関心を持っています。「現代道徳哲学」では、「道徳的義務」や「~すべき」といった表現は意味を失っていると主張しました。また、私は道徳的実践の基盤としての徳の重要性を強調し、アリストテレス的な徳倫理の復活を提案しています。

ソクラテス:なるほど。まず最初に、あなたが批判している「現代の道徳言語が意味を失っている」という点について詳しくお聞かせいただけますか? 具体的にはどのような点でそのように感じるのでしょうか?

アンスコム:現代の道徳言語が意味を失っているというのは、例えば「道徳的義務」や「~すべき」といった言葉が、キリスト教倫理から切り離されて使用されていることに起因しています。これらの概念はもともと神の命令に基づくものであり、その文脈が失われると、単なる規則や法則として理解されるようになってしまいます。その結果、これらの概念は空虚なものとなり、人々がなぜそれを守るべきかという根拠が曖昧になります。

ソクラテス:他の文化や宗教でも同様の概念は存在すると思うのですがが、それらもまた同様に意味を失っているのでしょうか? それとも、あなたの主張は特に西洋の道徳言語に限定されているのでしょうか?

アンスコム:私の主張は特に西洋の文脈に向けられています。他の文化では、例えば儒教や仏教など、それぞれの倫理体系に基づいた道徳言語があり、それらがどのように機能しているかはまた別の分析が必要です。

ソクラテス:興味深いですね。では、キリスト教倫理から切り離された現代の道徳言語が空虚になってしまったとして、その代替としてあなたが提案するアリストテレス的な徳倫理についてお聞かせください。なぜ徳倫理が現代の道徳において有効だと考えるのでしょうか?

アンスコム:アリストテレス的な徳倫理は、道徳的行為の基盤を個々の徳に置きます。これは行為者の人格や性格に焦点を当て、その人がいかに良く生きるかという問いに答えようとします。徳倫理は、具体的な行為の規則ではなく、良い人生を送るために必要な性格特性や習慣に重点を置きます。現代の道徳理論がしばしば抽象的な規則に依存しているのに対し、徳倫理は実践的であり、日常生活に根ざしたアプローチを提供します。

ソクラテス:徳倫理が個々の人格や性格に焦点を当てるという点は理解できます。しかし、その具体的な利点についてもう少し詳しく教えていただけますか? 例えば、徳倫理がどのようにして現代社会の複雑な道徳問題に対処できるのか、具体的な事例を挙げていただけると助かります。

アンスコム:もちろんです。例えば、ビジネスの世界における倫理問題を考えてみましょう。現代の道徳理論では、しばしば規則や法令に基づいて行動の是非が判断されます。しかし、徳倫理では、企業が誠実さや公平さ、思いやりといった徳を持っているかどうかを重視するのです。

ソクラテス:おっしゃることはよく分かります。しかし、現代社会ではしばしば短期的な利益や成果が優先され、徳を重視することが難しい状況もあります。そのような場合、徳倫理はどのようにしてその有効性を発揮できるのでしょうか?

アンスコム:確かに、現代社会では短期的な利益が優先されがちです。しかし、長期的な視点で見れば、徳を実践することが持続可能な成功をもたらすと信じています。例えば、誠実な企業は顧客や取引先からの信頼を得やすく、結果として長期的な繁栄を享受できるでしょう。また、個々の徳を重視することで、より強固な人間関係や社会的絆が形成されます。これは、短期的な利益を超えた真の幸福や満足感をもたらします。

ソクラテス:最後に、アンスコムさんの考えに対して一つ批判的な視点を提供させてください。徳倫理は個々の人格や習慣に依存するため、ある種の主観性や相対性を是認する可能性があると思います。この点について、どのようにお考えですか?

アンスコム:ご指摘の通り、徳倫理には主観性や相対性が伴うリスクがあります。しかし、それは人間の倫理の自然な側面です。私たちは皆、それぞれ異なる背景や経験を持ち、それに基づいて判断を下します。徳倫理はその多様性を受け入れ、個々の状況に応じた柔軟な判断を可能にします。例えば、ある状況では勇気が求められ、別の状況では慎重さが重要となるかもしれません。重要なのは、その都度適切な徳を発揮することであり、それによって一貫した道徳的な行動をとることができるのです。

ソクラテス:なるほど、アンスコムさんの説明で徳倫理の柔軟性と実践性がよく理解できました。確かに、現代の複雑な社会において、固定された規則だけでは対処できない多くの問題があります。その中で、個々の状況に応じた適切な判断が重要になるという点は非常に説得力があります。しかし、やはりこの柔軟性があるからこそ、徳倫理が主観的な解釈に陥るリスクもあると感じます。今後、この点についてさらに深く考え、議論を続けることが必要だと思います。今日は有意義な対話ができて感謝しています。また機会があれば、引き続きこのテーマについて議論しましょう。

アンスコム:私もソクラテスさんとの対話を通じて多くのことを学びました。お互いの視点を尊重しつつ、さらに深めていければと思います。またお話しできるのを楽しみにしています。ありがとうございました。

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