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きもの特典

「きものでご来館された方は、一般200円引きの料金となります」。恵比寿の山種美術館のホームページに書かれていた特典は、着物好きには嬉しい割引です。そして、特典があることで美術館に着物姿の来場者が多いことを期待しました。


令和四年。冬の日。暖かな日差しの中、ひんやりとした風を頬にうけて、足取り軽く美術館へ向かいました。コーディネートは、濃藍に近い地色に花唐草の模様が水浅葱色で着物全体に描かれている着物と、鮮やかな空色の帯と蘇芳色の帯締めを差し色にしました。


山種美術館では、近代京都画壇の中心的存在として活躍した、竹内栖凰の特別展が開催されていました。

注目は、栖凰の代表作《班猫》です。猫の流れるような柔らかな毛並み、透き通ったターコイズのような瞳には目を奪われました。

重要文化財ながらも、この企画展ではこの作品だけが写真撮影OK。今回限りの特典がありました。ほとんどの来場者が、鑑賞し撮影、また鑑賞し、といった具合に、作品にくぎ付けです。順路に並びながらも、何度も作品の前を行ったり来たりしながら鑑賞していました。

そのほかの動物画の作品も色合いが柔らかく、見ているだけで和み、初めて見る日本画に惹かれていきました。


入館料の特典は、受付で200円が返金され、お得を実感しました。

もうひとつ期待していた着物の来場者はというと、見かけずじまいでした。順路に並んでいるのは、洋服の年配の方や熱心にメモをとる学生でした。

着物姿の方に会えることを期待していたのですが、残念ながら、帰るまで館内では見かけずじまいで着物は私ひとりでした。来館したのが平日の午前中だったので、見かけなかったのかもしれません。


その帰り道、駅のフォームでは、外国人のカップルが私の方をじっと見て通り過ぎていきました。改札に近いところに立っていたので邪魔だったかもしれません。移動しようとしたら、その男性が戻ってきて話かけてきました。

「彼女は日本に初めて来ました。写真を撮っていいですか?」

彼らが見ていたのが着物だったのです。お気に入りの藍染は、彼女も好きな色だったかもしれません。興味深げに何度も見ていたことが印象的でした。お相手の女性に挨拶をして、笑顔を交わし写真を撮ることができました。

思いがけない出会いに、外国人が着物から日本を楽しんでいることを感じる、嬉しい一日になりました。この日だけの、特典です。

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