開かずのカフェ

きっかけは友人との賭けだった。
賭けに負けた私に友人は
「あの商業ビルの都市伝説に開かずのカフェってのがあるんだ。お前行ってこいよ。」と言い、私は渋々そこに向かった。
古い商業ビルに入りマップを見て上の階へ向かう。
カフェのある階に着くと、そこは各種クリニックが入居しているが、やっているのかいないのか分からない暗さと古めかしさ、人けの無さにまるで何十年も前にタイムスリップしたようで、またおばけ屋敷のような怖さもあり足がすくんだ。
目的のカフェはこのクリニックモールの先、突き当たりにあるらしい。
私はゆっくり歩を進めた。
カフェの扉の前に立つ。カフェなのか分からない扉だ。
取っ手に手をかけ恐る恐る開いた。
するとそこにおしゃれなカフェが現れた。
打ちっぱなしの壁、心地良いBGMが流れる落ち着く空間だ。
お客さんはマスターと雑談したり、本を片手にコーヒーを楽しんでいる。
マスターが私に気づき、笑顔で言った。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ。」
私は空いていたテーブル席に腰を下ろした。
マスターが水とメニューを持ってきてくれた。
「このUFOコーヒーって?」
「飲んだらUFOに遭遇できるコーヒーですよ。」
マスターは真面目な顔で言った。
・・・よく分からないがそれにしよう。
UFOコーヒーを頼み、改めて店内を見渡す。
表の薄暗く閑散としていて怖い空間とはまるで別世界だ。
今度はこの賭けに勝った友人を連れてきてやろう。都市伝説を怖がっていたからビックリするだろう。
そんなことを考えているとコーヒーが運ばれてきた。
さっそくコーヒーを味わう。すっきりとしていてとても飲みやすいコーヒーだ。UFOうんぬんはマスターの冗談だろう。
常連客とマスターの会話に耳を傾けると、マスターが本気とも冗談ともつかない内容を真面目な顔で常連客に語っていた。
「いつも着ている黒い服は色を気にせずデザインで買って自宅の浴槽で黒く染めている」とか
「ゆでたまごは殻ごと食べる」とか・・・。
不思議な人だ。

私はゆっくりコーヒーを堪能した。
そうして気付くと長い時間が過ぎていた。
客は何度か入れ替わりまばらになっていた。
私はお会計をして、また近々ここに来ようと思っていた。

そして後日、何度か友人と、または一人でここを訪ねるのだが、
扉はいつも固く閉ざされていた。
私は幻を見たのだろうか?
都市伝説『開かずのカフェ』は真実だったようだ。

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