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第74回「地歴公民科授業での図書教材の活用について

 第74回の研究会は、公共&政治経済&倫理研究チームより、「地歴・公民科での図書教材の活用について」というテーマで報告者よりご報告いただき、その後議論を行いました。

 今回の報告者は、兵庫県内の県立高校に勤務されており、「地歴・公民科教諭」と「学校司書教諭」の二足の草鞋でご活躍されています。今回は、おもに読書活動を導入した教科指導の実践についてご報告いただきました。

1.読書活動導入のねらい
 報告者は、読書活動導入のねらいとして、以下のことを挙げておられます。
・異なる価値観や考え方と出会ってほしい。
・ 他者の意見を聴き、それに対する自己表現ができるようになってほしい。
・自分の心で感じて、頭で考えてほしい。受け身じゃない学びをしてほしい。
・様々な図書を読んで学んでいく大学での学びへの橋渡しをしたい。

 一方、学習指導要領上では、総合的な探究の時間や各科目における調査活動の一環で図書館を利用することについて述べられているものの、教科指導の文脈で図書教材を活用することについてはあまり述べられていません。しかし、一資料として図書教材を用いて議論を行うことで、「主体的・対話的で深い学び」の実現につながるのではないでしょうか。
 例えば、「あなたにとって生きがいとは?」という問いについて議論をする際、答えに困る生徒は少なくないでしょう。そこで、図書教材を利用し、次のような学習の深め方が可能ではないかと報告者から提案をいただきました。
①調べる:A氏は「生きがい」について~と言っている【読書】
②考える:自分の考えとA氏の考えとの比較・修正【思考】
③気になる:周りはどう考えているのだろう?【共有】
④気づく:自分との相違点から新たな視点へ【創造】

 このように、「主体的・対話的で深い学び」の実現という文脈において、図書教材の活用が有効ではないかと報告者は提案しておられます。


2.教科指導における読書活動の位置づけ
 報告者は、読書活動と授業との関係性について、次の3類型に分けて考えておられます。

①授業延長型…読書会で引き続き授業内容を学習
②授業発展型…既習内容を応用して読書会で学習
③授業補完型…未習の範囲を読書会で学習


3.読書活動を導入した教科指導の実践報告
 まず、2015年に報告者が行われた『生きがいについて』の授業を紹介していただきました。
 この授業は、高校3年生を対象に総合的な学習の時間を使って行われた読書会形式(授業発展型)の授業です。「あなたにとって生きがいとは?」という問いに対して考えを深めるべく、生徒は課題図書である『生きがいについて』(神谷美恵子著)を読み、その後グループで議論をするという展開で授業は行われました。議題は以下の2つです。
①使命感を感じるとき以外に、生きがいを感じる時はないだろうか?
②生きがいとは?

 この授業では、課題図書の難易度が高く、興味と理解の深まりに欠ける結果となりました。
 
 そこで、次に実施した『夜と霧』(フランクル著)を用いた読書会形式(授業発展型)の授業では、読書前に「映像の世紀」を視聴し、足場かけをしてから読書活動に臨まれました。それに加えて課題図書の難易度が低かったこともあり、生徒の興味や理解の深まりは満足のいく結果となりました。また、生徒が徐々に他の生徒とのコミュニケーションに慣れ、議論が深まったことで、他の授業や自分の人生と議論の内容との関連性を発見できた生徒も増えました。
 この授業の展開は次の通りです。
①「映像の世紀」を視聴
②読書1
③読書メモ Q1.「人物Fの運命」
④読書2
⑤読書メモ Q2~4.「人間にとっての生きる意味」
⑥読書3
⑦議論 Q5.「生きる意味が分からない:という人に…
⑧グループ単位で発表

他にも、
・『ふしぎなキリスト教』(大澤真幸、橋爪大三郎)の読書前に、チャットモンチー「世界が終わる夜に」を鑑賞し、読書後に「神が作った悪・不幸・不完全さは人間への試練だと思うか?」といったテーマについて議論を行う授業(授業発展型)
・資源・エネルギー問題学習後に『高校生からわかる原子力』(池上彰)を読み、「経済優先か環境優先か」というテーマで議論を行う授業(授業発展型+補完型)
・日本史で旧石器時代~平安時代中期(国風文化)までを学習した後に、『日本史が面白くなる「地名」の秘密』(八幡和郎)を読み、自明となっている国名の歴史を再確認する授業(授業発展型)

といった授業実践をご紹介いただきました。


4.成果と課題
読書活動を導入した教科指導の成果として、次の点が挙げられました。
・    生徒にとって新鮮な授業となった
・    他者の意見を聴ける機会となった
・    価値観の違いを体験できた
・    図書から知識を得ることができた
・    問いに対して(自分で・一緒に)考えることができた

一方、課題として次の点が挙げられました。
・自己表現がうまくできない生徒がいた
・議論・合意形成のプロセスがうまくいかない場合があった
(例)「班の意見は~です。でも、僕は、納得いきません。」「賛成1対反対5でまとまりませんでした。」
・OPEN Questionを意図したが、CLOSED Questionになってしまっていた
・問いは教師が設定したが、できれば生徒自身が問いを設定できるようにしたい


質疑
Q.生徒にモヤッとさせて、そのあと議論させるというやり方があると思うが、そのようなやり方を意識されていたか?
A.基本的には、生徒にはいつもモヤッとさせていると思う。

Q.日常的な授業の中で読書を取り入れていくことが可能か?
A.今は総合・特別活動の時間に行っている。過去に、議論を省いて感想を提出させ、後で全体にフィードバックをするという形で授業を行ったこともあり、それなら行えそう。


議論
絵本『ぼくがラーメンをたべてるとき』(長谷川義史)を活用方法について参加者同士で議論し、授業案を構想しました。
・絵本の中に出てくるそれぞれの子どもの生活のなかから、「自分ならどの子どものような生活を望むか」というテーマで議論をしてみる。教師があらかじめ議論の方向性をイメージしたうえで議論をさせてもいいが、生徒がどの議論の方向に行くのかを楽しみながらやってみてもいいかもしれない。
・国際協力などについて考えるきっかけになる絵本。現実の世界で起きている問題は様々な要因が複雑に絡み合っているが、絵本の中で課題設定されている場面は、その問題について焦点化されており、余計な情報がないため議論がしやすい。
・公平さ、世の中の不均衡について考える材料にもなりそう。
・見えにくいもの、わかりにくいものを絵本をとおして考えてみることができるのでは?
・教師が議論の方向性について意図を持つか持たないか…伝達主義か構成主義かの違いに通じる。構成主義的な知を学ぶには絵本はいい教材。
・社会科は事実をもとにしないといけないというが、そこにいろんな思いが入ってしまうので、一つの象徴的なものを教材にすることで、可能性が広がる。

参加者16名

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