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第110回 高校「探究」学習活動が持つ資質・能力形成への影響

 第110回は、生徒の資質・能力の形成にプラスの影響がありそうな探究学習活動を見極めて既存のカリキュラムをちょっとずつでも改善していこうという取り組みを報告していただきまいた。探究学習の型はできているのに、探究自体が深まっていない、生徒のやらされ感が蔓延している、という課題をどうにかできないかと考え、大学院で研究されたそうです。
 どのような学習活動が行われているのか、生徒の資質能力はどこまで備わっているのか、因子分析などを用いて2年間研究を重ねた結果、勤務校の生徒には情報を扱う力、表現力、知識の統合を活用するという習慣が、他の能力よりも少なかったことがわかり、それを補うための活動を優先的に増やしているそうです。ただし、担当教員の負担感が生じないよう、従来の型を大きく変えないでマイナーチェンジを図る工夫をされているということでした。生徒のやらされ感を払拭し、積極性を向上させるためには、まず生徒の学習観の転換が必要で、学校の勉強は先生に答えや解き方を教えてもらうのではなくて、自分で動いて考えないと誰も教えてくれないと声掛けをし続けているそうです。適性診断や小論文練習などでも、やっていることはすべて探究活動のベースになる力をつけていると伝え、学習ログをつけて自分が学んだことを振り返る取り組みもされています。小さい頃はみんな様々な疑問をもち、親をはじめ周りの人に問うことをしていたのに、問うこと自体忘れてませんか?から探究オリエンテーションを始めているというのが印象的でした。
 また、情報活用力と表現力を伸ばすためには、実践や発表の場として地域や専門家など学校外とつながりを構築して協力を仰いでいるということでした。

ー 質疑応答 ー
・「既に明らかになっていることをまとめるのは調べ学習、まだわかっていないことを自分で探しに行くのは探究学習」とあったが、高校生がまだ明らかになっていないことを探すのは非常に難しい。先行研究や研究者の知見から探すのは調べ学習なのか、探究学習なのか。→問いをたてて、先行研究で解決した時点では調べ学習。そこから、こう書いてあるけど自分だったらそれができるのか、他に方法はないか、この場合はどうか、などさらにもっと焦点化された違う問いが生まれていく。調べてわかったけど納得できなくて掘り下げていくと探究学習になると考えている。
・報告者の先生が描く理想の探究学習とは?→答えが出なくてもよいと思っている。最初の調べ学習からどんどん自分なりの問いを具体化していくサイクル、過程自体がまさに理想的な思考過程で、自分しか持てない問いを自問自答して追究したことが理想的で優れた探究学習だと考えている。探究は学校教育だけで完結するものではない。探究学習では、疑問をもつ、解決するために調べたり考えたりする、その姿勢を養っている。
・3年間を通してどのような探究カリキュラムを進めているのか。グループ活動か、個人活動か。→1年生で適性診断や職業診断などをして、その後、小論文対策。ディベート。2年制でテーマ、リサーチクエスチョンの設定、情報収集、整理・分析、まとめ・発表を1年間かけて実施。特別な類型のクラスは3年生でさらにポスターセッションをしたり論文を書いたりする。探究活動をやっているのは実質2年生の1年間。個人でテーマを設定している。疑問をもつ行為自体が個人的なものだから。
・専門家の活用は、意見を求めるような活用の仕方なのか。→専門家の方には教員ではわからない専門知識やヒントをもらえるような活用をしたい。評価のために来てもらえるのなら、まだまだ甘い、もっと探求できるはず、とボコボコに指摘してもらいたい。探究過程で既に教員から「もっと」を求められてきているので、専門家の「もっと」にも耐えられるはず。
・客観的事実や知識だけでなく既成概念にとらわれない(裏付けのない)生徒のイメージや感性は探究に重要なのか。→武器になると思う。例えば「ふわふわ」って何?みんな「ふわふわ」が好き?をテーマにした生徒がいた。感性はその子にしかないもので、その子の視点の一つ。そこから科学的裏付けができるか探ればいい。
・探究サイクルは何回するのか?→生徒によって違う。問いを焦点化して深めていける生徒は何度も回していく。
・なぜ、探究学習を研究しようと思ったのか?→きっかけは文化祭。クラス展示で人力コーヒーカップをつくったときに、コーヒーカップの丸みの角度や回転速度を決めるために習いたての三角比の計算を持ち込んで応用している姿に感動した。机の上の抽象的な知識で終わらせずに現実社会で使えることをしって目を輝かせている生徒を見て、そんな場面をもっと学校現場で増やしたいと思った。

ー 以下議論(勤務校でどのような探究活動をしているか。行き詰まりや課題は何か。) ー
・工業高校では"ものづくり”も行うのでLearning by Doingが成立している。専門性を活かして修繕依頼など地域の要望に応えられるのも強み。
・神戸大空襲の話を聞いた際に焼夷弾の精度が増していったことを知り、兵器の精度をあげる努力をしたのもある意味探究活動だと気づいた。探究は怖いことでもあり、良い探究のためには一科目、一取り組みではなくて、すべての教育活動の中で探究倫理みたいなものを伝えるべき。
・外部の専門家がボコボコにすることの是非について。初対面で生徒の探究活動の甘さを鋭く指摘するのは難しい。発表段階以前で先生がある程度ボコボコにしておくことが必要ではないか。そのためには教員側のスキルが必要。教員にはファシリテーターとしての能力も求められている。実際、外部の視点をもった探究サポーターとして最終発表の場に立ち会ったが、攻めた質問をすると「大学生にいらん質問されて嫌だった」という感想があった。外部人材をうまく使うのであれば、長期的スパンで考えてほしい。生徒の悩みや努力の過程をわかった上で質問や感想を伝えるのとは違う。
・探究活動の本質は高校でも大学でも大学院でも同じ。
・力が向上するには、本気で面白がれる問いと繋がることも大事。
・勤務校に探究教材はいくつかあるが、使うかどうかは持ち手の裁量。熱心な先生や得意な先生のクラスは多様な活動ができる。持ち手によって差があるのが課題。
・中学生には学年ごとに教員がテーマを設定するが、自分でやってる感をもてるような仕掛けをしていく。探究をめんどくさがる人はいるのも事実で、教員間の温度差は課題。苦手な先生でもクラスで探究活動できるようサポートしたり、短い時間でも細かく事前打ち合わせを重ねる等
工夫が必要。
・授業で学んだテーマについて自分で設問をつくって答えさせる試験を短大生にしたら、先生が出した問いよりもしっかり書いてくる。そういうのが好きなのか。
・探究が進めば先生以上に専門的知識は増える。先生は一緒に伴奏しているだけ。それが一番いい探究のスタイルではないか。
・報告者の先生の目がイキイキしていたのが印象的。探究活動を研究しようというのがまさに探究。

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