暴落の予兆
先日の坪田さんへの取材で、株式市場が調整するリスクに関する話がありました。日本株を見ている限り、現時点ではそれほどの過熱感は感じませんが、株価暴落の兆しをファンドマネージャーはどの様に察知するのでしょうか。
よくストラテジストやファンドマネージャーが用いるのは、信用評価損益率や騰落レシオや新高値銘柄数などを見る方法です。しかしこの様な方法で分かる相場の高値は、数年に一度現れます。
現在の米国株相場もその意味ではかなり高値の兆候は表れています。特に時価総額上位のテック株のPERは高く、特定の銘柄の集中度も高い、1990年代後半をITバブルというのであれば、今はあの時のバリュエーションとの比較でAIバブルと言えるかもしれません。
しかし、その程度のバブルは10年に一度くらいはやってきますし、株式相場に限らずに考えればもっと高頻度に起こっています。私は、その程度の下げはあまり気にせず、逃げれたら逃げますが、逃げそびれて、株価が下がっても慌てず、よいものを積み増すというスタンスです。
ただ、NYで起こった1929年の大暴落や日本の1989年末をピークとするバブル崩壊のような下げの場合には、その様なスタンスは通用しません。長期で持っていると悲惨なことになるし、下落して積み増すと損が大きくなる、いくら時間分散をしつつ積み立てても、報われることなく損が膨らむだけです。
私たちは「長期・分散・積立」の原則を守ることが出来る程度の下げなのか、原則を捨ててでも逃げなくてはならない下げなのかは、しっかりと判断する必要があります。
残念ながらこれは、株式市場から得られる情報だけでは分からないと思います。私は伝統的で定量化はできない定性的な方法ですが、経営者や一般の方々の行動から判断しようとしています。
1929年の大暴落でジョセフ・ケネディが、靴磨きの少年とのちょっとした会話で株式市場からの本格的な撤退を決意したのは有名です。
靴磨きの少年から銘柄推奨をされたジョセフは「靴磨きの少年でも予想のできる株式市場は自分のやるべき株式市場ではない」と判断したわけです。
他にもデータ分析による投資で有名なバーナード・M・バルークも統計情報だけでなく、自宅の近くで浮浪者のような老人に呼び止められ株の購入を進められて、相場下落の予想が確信に変わったといいます。
このように本当の大きな下落は、経済情報を冷静に見るだけでなく、人々の行動を観察する事が重要です。
私の経験は、ジョセフ・ケネディやバーナード・M・バルークらとは比較にもなりませんが、ITバブルの際の取材のことは今でも覚えています。
会社の社長に取材を行ったところ、取材の最後に「君は企業戦略や業績のことだけを聞いて肝心なことを聞いていないね」と言われました。
「どうもすいません、何が聞き漏らしていたでしょうか」と聞いたところ、「うちの株価がどうなるかだよ、教えてやろうか、ここからは凧タコ揚がれだよ!止まる事はない」とその社長はおっしゃいました。
取材の間も、自社の業績や戦略の話はほとんど興味がなさそうで、どの株を買っている、それでどれだけ含みが出来た、それから見ると自社の株価が安すぎるという話が中心でした。
また、ある会社の社長は、バレンタインデーに時価総額100兆円と書かれたチョコレートを配り、おそらく今後はストップ高が続き、株券を手に入れることが出来ないと宣言しました。
この様な状態を見て、私はIT関連株をほぼ全て売却することが出来ました。ただ、この時は一部の経営者とファンドマネージャーが熱狂していただけで、多くの人達は蚊帳の外でした。やはり国民全体が熱狂した時に、真のバブル崩壊は起こるのだと思います。
最近も電車の中でもスマホで株を見ている人や、若いフリーター風のカップルが株の話をしているのを聞いて不安になったことがあります。NISAに対する論調も不安です。ただ、国民が浮かれるには時間が短すぎます。経営者もとても堅実に見えます。私が見ている限り、米国はともかく日本人が熱狂している様には見えません。
ただ、日本独自の要素で株式市場が暴落する事はなくても、海外の波乱に巻き込まれるリスクには常に注意を払う必要があります。
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