「何が起きるか分からない」は良い時にだけ使いたい/嶺内ともみ引退【小話2本】
1.「何が起きるか分からない」
W杯カタール大会、日本の初戦は強豪ドイツに逆転勝利した。リアルタイムで観ていて感動した。前半で1点を入れられてからの後半で逆転、しかも2点目のボールが隙間を上手く突いた絶妙な弧を描いてのゴールは鳥肌もので、加えて途中2度もオフサイドによる一喜一憂があり、2時間通して“落として上げる”構成で、一つの物語を読んでいるような感覚だった。
試合終了後、「何が起きるか分からない」という言葉が頭をよぎる。この言葉があまり好きではないことは先日(『すずめの戸締まり』感想記事で)書いたばかりである。ただそれはあくまで「悪い時に使うのが好きではない」というだけで、今回のように良い意味で使う分にはむしろ好きな言葉である。こう書くとダブスタみたいだが、最初からそう思っていたのでお許し下さい。
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先週も良い意味で「何が起きるか分からない」と思ったことがある。
2022年11月17日、HIKAKINさんがホームレスのお宅を訪問する動画が公開された。
ただのホームレスではない。YouTubeチャンネル『ホームレスが大富豪になるまで。』が登録者数34万人を超える人気YouTuberナムさんとのコラボである。
という想いからYouTuberになることを決意したナムさん。チャンネル開設した半年前で既に65歳だった(現在は66歳)。登録者数は異例のペースで伸びていった。
私がナムさんの存在を知った時には既に登録者数1万人を超えていたが、とても驚いた記憶がある。YouTuberは1万人でも大成功の世界で、2万人も居れば月収20万を超え、それだけで生活できる人も居る。それが今では38万人を超え、憧れのHIKAKINさんとのコラボまで実現させた。65歳で一から始めてここまで成功することもあるのかと。とっくの昔に希望を捨てた36歳の私には刺さるものがあった。
社長が先日、ある知り合いの訃報を取り上げ、「何が起きるか分からない(から今できることをやれ)」という話をしていた。おっしゃる通りなのだが、その言葉を悪い意味で使わないで欲しいとも思った。ホームレスがYouTuberで成功し憧れの人に会えた。そんな時にこそ「何が起きるか分からない」と言うべきである。
2.人気声優の活動休止や引退が相次ぐ問題
11月20日、声優・嶺内ともみさんが今年いっぱいで声優を“廃業”(引退)することが発表された。
ニュース記事は相変わらず『ウマ娘』を最初に持ってくるが、私にとっての彼女は『小林さんちのメイドラゴンS』のイルルであり、『スローループ』の恋(こい)ちゃんである。どちらも本人歌唱のMVを改めて観ると切なくなる。
(↑『メイドラゴンS』ED。サムネの一番左が嶺内)
(↑『スローループ』ED。サムネの右が嶺内)
約1年前の2021年12月26日、『メイドラゴン』のクリスマスイベントに現地参戦したが、嶺内さんはとても楽しそうだった。この1年で何が起きたのか。出演作も多く結構人気のある声優だけに心配である。
ここ最近、人気女性声優の体調不良による休業や活動制限が相次いでいる。
人気声優の基準も曖昧ではあるのだが、年間3万人以上の志望者から200人しかデビューできないと言われている狭き門を突破し、晴れて人気声優になれたとしても、それだけでは幸せとは呼べないのかもしれない。私は最近そう思い始めている。
まず、収入の不安定さと、それに伴い仕事を増やせるだけ増やそうとする現状がある。例えばアニメのアフレコのギャラは1本1万5000円と言われているのは有名で、1クール(12~13話)毎回台詞があったとしても1作品あたり19万円ほどしか稼げない。3ヶ月で19万円なのだから月給換算で6万3000円ほどである(事務所のマージンがあればもっと少ないかも)。1作品のメインキャラをゲットするだけでも超大変なのに、それでも低収入ということなのである。
声優だけで食べていくにはオーディションを受けまくり、役を1つでも多く勝ち取ることが大事になる。『ウマ娘』や『虹ヶ咲』で知名度のかなり高い前田佳織里さんですら年間120回もオーディションを受けているという情報もある。
あるいはラジオや音楽活動(ドル売り)など、アフレコ以外の部分で稼いでいく方法も一般的になっている。『バンドリ!』市ヶ谷有咲役の伊藤彩沙さんのある日はこんなスケジュールをこなしている。
忙しすぎる。若手の伊藤彩沙クラスでこの忙しさである(もちろん日によりけりで、ここまで詰まっていない日もあるだろうが)。移動が多いし、空き時間も台本チェックなどで完全な休憩にならない場合もある。ちなみにこの動画からは、生放送など画面に映る仕事でも私服で出演することが伺える。そうなると毎月の洋服の購入費だけでとんでもない額になりそうだ。
他にも『メイドインアビス』リコ役や『水星の魔女』チュチュ役など出演作多数の富田美憂さんのある日のスケジュールがこちら。
やはり移動の多さと拘束時間の長さが目立つ。プライベートすらトレーニングなどに時間を割き、睡眠はたったの3時間。ここまでしないと高収入にならないということか。
例に挙げた2人は若手とはいえ経歴も長く、メンタルも強そうなイメージ(?)なので大丈夫だとは思うが、こんなスケジュールを続けていればメンタル不調や体調不良になっても不思議では無いのかもしれない。『ラブライブ!』などのドル売り声優はここに歌唱レッスンやダンスレッスンも加わるのだから尚更心配になる。
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以上を踏まえると、声優の活動休止問題に関しては、ギャラの改善は急務なのでは無いだろうか。1本1万5000円はどう考えても少ない。その1作品の為に役作りや台詞の練習などを家でしているのである(役者はみんなそうだと思うが)。ただアニメ業界はアニメーターなど全体的に給料の低さが目立つ業界でもあるので、改善が難しいとは思うが。そうなると、やりがいをどこまで感じられるも重要になって来るのだろう(やりがい搾取と言えば聞こえは良くないが……)。
市ノ瀬加那さんのようにアフレコメインで歌唱やダンスをほぼしない道もあるし、それでも『水星の魔女』スレッタ役などを勝ち取っている。声優の皆様は、どうか無理しすぎず、身体を自愛できる道を考えて欲しい。
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