タイミーバイト体験記……のはずが
人間、一日だけならどんなに辛い仕事でもやり切れてしまうものである。
私は学生時代にグッドウィル、社会人になってからはフルキャストに登録し、たまにではあるが本業の公休日に「スポット派遣」という形で多種多様なアルバイトを一日だけ経験してきた。仕事内容は弁当工場のライン作業や、ビラ配りにイベント設営、ごみ収集に試験監督、居酒屋の接客・皿洗いから結婚披露宴の配膳まで多岐にわたる。常人は決して立ち入ることの出来ないIKEAの巨大倉庫や大手菓子メーカーの研究施設に堂々と潜入するという貴重な経験も出来た。真夏に額の汗を拭いながら引っ越し作業をする日もあれば、冷凍庫内で氷点下の冷気に震えながらピッキング作業をすることも。
しかしここ数年、本業の激務化と残業過多による疲労が休日まで引きずることも多くなり、スポット派遣への応募は敬遠しがちになっていた。それが令和5年、37歳にもなって再びアルバイトをしてみようと思えたのは「タイミーバイト」の存在が大きい。下記の比較表をご覧いただければ分かる通り、タイミーは従来のスポット派遣システムとは一線を画しており、勤務前日や当日でも応募できる柔軟性の高さや、給料支払いが異常に早いことなどメリットが多すぎる。もちろん一日限りの勤務で、最短3時間なんてものもある。ちょっとした小遣い稼ぎに使わない手は無いのである。
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というわけで3月某日、タイミーバイトを初めてやってみた。焼肉屋のキッチンでひたすら皿洗いするだけの簡単なお仕事。一発目ということもあり様子見で3時間のみ。ただし19時~22時という、月曜とはいえそれなりのピークタイムだった。食洗機に次から次へと食器類をぶっこみ続けるも、未洗浄の食器が次から次へと運ばれてくる。同じ作業を続けていると途中から頭がおかしくなる。そこに疲労も加わり脳内は更にカオスに。時間の経過が遥かに遅く感じるのは本気で辛かった。全社員・スタッフが優しかったのが救いだった。果てしなく長い3時間が終わり「上がって良いよ」と言われた時の達成感は久々に味わう感覚だった。しかも店長のご厚意によりドリンクを一杯いただいた。報酬3800円(交通費500円込)。
壁に貼られたタイミー専用のQRコードをスマホで読み取ると、勤務終了時刻がアプリに記録される。実はこれを勤務開始前にも行っていた。こうしてリアルタイムに勤務時間を反映させることで「勤務直後に振込申請が可能」になるのである。タイミーが利用者350万人を超えるほど人気なのは、こういった従来のスポット派遣には存在しなかった画期的なシステムも一因なのだろう。
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その10日後にはもう2回目のアルバイトをしていた。スーパーのレジ打ちを5時間。コンビニ時代や現職でもレジを打っていた(いる)こともあり、加えて支払い手段は現金とクレジットカードのみ(電子マネー一切不可)だったので操作に慣れるのはわりと早かったが、こちらも時の進みが異常に遅く感じた。勤務時間は13時~18時で、前半はオフピークタイムだと思っていたのに意外にも客数は多く、気持ちの休まる暇はほぼ無かった。ベテランの主婦スタッフと2人体制でレジを打ったが、彼女の商品をスキャンする速度が高速すぎる。ここまで手の動きが速い店員は見たことが無い。途中5分間だけ休憩を挟み、大きなトラブルもなく(本当は少しあったが説明が難しいので割愛する)18時に無事勤務終了。報酬6400円(交通費1000円込)。
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4月某日には3度目のタイミーバイトを行った。過去2回は本業の公休日に仕事していたのに対し、今回は本業がある日の夜にバイトをするという過密スケジュールとなった。17時に本業が終わるや否や電車でバイト現場に直行。18時にはバイトを開始していた。2回目と同じスーパーの別店舗で、業務もやはりレジ打ち。しかも22時までの4時間と、前回より短い。楽勝のつもりで応募していた。楽勝のはずだった。
そんな甘くはなかった。23区内の繁華街の店舗だったのが災いした。居酒屋などの店員が超大量の食材を買い込む。豆腐30丁、1kg氷を10袋、業務用ごぼうサラダを20袋……相手は個人よりも法人がメインだった。多い時は買い物カゴ6個分、ウン万円に達するお客様を対応することも。本業と合わせれば朝6時半から13時間以上も働きずくめ、食事も13時以降ろくに取っていない極限状態での勤務だった。実は序盤でレジの打ち間違いによるトラブルが発生し落ち込んでいたのだが、途中からそんなのどうでも良くなるほど激しく疲労していた。帰りの電車で爆睡し、自宅の最寄り駅を大幅に寝過ごした。報酬4900円(交通費500円込)。
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一日だから乗り切った。同じ仕事が明日も明後日も、来週も再来週も続くのであれば出来ない。どこかで確実に辞めたくなる。フルキャストをしていた頃はどんな仕事をしても毎回そう思っていた。
しかし、ここ3回のタイミーバイトでは心境の変化があった。もしもこの仕事が本業だったら、その世界線にいる自分を想像するようになり、そんな人生も悪くないなと思えるようになったのである。
もし焼肉屋に就職したら。皿洗いから始まり、やがてホールやキッチンもすることになるだろう。メニューなど覚えなければならないこともたくさんある。体力や忍耐力、もちろんコミュ力も無いと続けていけないだろう。
それでも「今よりはマシ」ではないかと思うのだ。今というか、私が過去に従事した全ての仕事よりも良いのではないか。それくらい今の仕事を辛く感じ、過去の仕事はもっと激務だったのだろう。もっと楽に行きたい。否、楽な仕事というものはこの世に存在しないのだが、あくまで今と比較して楽というベター的な意味で。
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もしも大学卒業してすぐに焼肉屋や居酒屋で働いていたら、今頃仕事でも人間としても成長していたのだろうか。それが例え冒険の道だったとしても。
声優ユニット・イヤホンズの楽曲に『あたしのなかのものがたり』がある。
人生最大の分岐点で「安定の道」と「冒険の道」、どちらに進むか迷った主人公が、それぞれの道に進んだ世界線の自分と会話することによって「大事なのは未来の自分」という答えを出す。どちらを選んでも良い。結局そこから先の生き方次第で人生は決まる。
大手企業に就職し、スーツを着てPCのキーボードを叩き、会議でプレゼンしたり外回りで取引先と交渉したり、いわゆるサラリーマンのテンプレを踏襲することが安定の道だとすれば、激務でブラックと揶揄されがちな飲食業界は冒険の道なのかもしれない。どちらに進んでも良い。自分次第でいくらでも成長できるはずだ……そのはずだった。
私は安定でも冒険でもない中途半端な人生を歩んでしまった。
ただ仕事に追われるだけの日々。追われるだけで精一杯なのが一番危険で、得るものも学びも気付きさえもない。その余裕が無いからである。毎日でも週一でも良いから、仕事に関する反省や気付き、ただの感想でもノートなりnoteなりに書き留めておくことが大事なのだろう。Twitterで愚痴るのだけは誰も得しないから控えるべきだが。
ダメだ。またしても上手くまとまらない。何が言いたいのか自分でも分からない。今日も仕事が始まるので一旦終わる。
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