声優・東山奈央、いきなり武道館に立った伝説の1stライブ

※１０月毎日投稿挑戦中。金曜は『 #思い出のライブレポ 』。

東山奈央 1st LIVE "Rainbow" at 日本武道館
2018.2.3(Sat)　日本武道館　現地参戦

　声優に限らずアーティスト全般に言えることだが、芸能人生で一番初めに開催するライブというものは確実に観る者の心を動かし、その後の2nd以降のライブでは絶対に味わえない感動がある。

　２０１８年２月３日。女性声優・東山奈央（とうやま　なお）としては初の単独ライブが日本武道館で開催された。1stライブがいきなり武道館というのはかなり異例で、それを成し遂げた人は他に新垣結衣くらいしか知らない（ガッキーの歌手時代って黒歴史なのでは）。

　それ故に相当なプレッシャーを抱えていたことを、ライブの幕間映像にて東山本人の口から語られていた。

　やっぱり武道館に立たせていただけるっていうのは、自分が立ちたいって思ったからだけではなくて、立たせてあげよう、この子を輝かせてあげようってそう思ってくださる方々が居て下さるってことが何よりも心強かったです。

　でも、その信頼に報いなくっちゃっていう使命感でやっと立っていた頃はまだちょっと苦しくて、やっぱり武道館っていう場所にすごくとらわれ過ぎていて、みんなの笑顔の中に自分が居なかったっていうことに途中で気付いて。何よりも自分が楽しまなくちゃダメだって思えてからは、すっごく楽しくなりました。それを言葉にしたときに、お客さんが「そうだよ、それを僕たちは待っていた」って言ってくれたのがすごく嬉しかったし、そういう方々が２月に待ってくれているって言うのが、今の私のすごく幸せな支えです。

　そして迎えた本番。その一部始終を見届けた直後、私は２つの感情を抱いた。一つは残雪消えやらぬ九段下で少し早い春の陽気を錯覚するかのような心の温もり。もう一つは自分の愚かさに嘆く負の感情である。

　一体このライブの何が凄く、伝説となり得たのか。２点に絞り説明する。

（ダイジェスト動画はこちら）

※東山奈央　出演作品
『神のみぞ知るセカイ』中川かのん役
『きんいろモザイク』九条カレン役
『ニセコイ』桐崎千棘役
『マクロスΔ』レイナ・プラウラー役
『ゆるキャン△』志摩リン役　　ほか多数

１．声優とは思えないキレのあるダンス

　過去に声優でここまでキレのあるダンスを魅せた人は記憶に無い。一般的なソロ歌手・ソロ声優のライブは歌に集中せざるを得ないことに加えマイクで片手を塞がれる為、踊るほうにまで意識を回せないのが現状だが、東山は前半のダンスパートでの４曲において、イントロや間奏など、歌わないパートではマイクを持ちながらも６人のバックダンサーと全く同じ動きで超難関のダンスをこなしていたのだ。特に『My Way』は必見。

（参考ダンス動画（これの１曲目が『My Way』））

　デビュー当時からアニソンライブのＤＶＤを繰り返し視聴して振り付けを完コピするほどダンスが大好きだったそうで、『君の笑顔に恋してる』ではサビで観客と一緒に踊りたいという東山たっての希望から、事前にYouTubeで自ら振付をレクチャーする動画を公開する程の気合の入れようだった。

２．『月がきれい』後のＭＣで語った言葉

　ダンスパートの後は前述の幕間映像を挟み、バラードパートへ。『星ノ標』と村下孝蔵の名曲『初恋』のカバーを経て、川嶋あい作詞で話題になった『月がきれい』を披露。

　これを聴いても分かる通り、彼女の透き通るような歌声はバラードでこそ最大限に活かされる。私もこの時は黙って座り、ただただ聴き惚れていた。

　しかし、本当の名場面はこの後だった。約１０分にも及ぶ東山のお気持ち表明ＭＣ。その中で男性マネージャーに対する感謝の言葉を涙交じりで述べた。

（このあと披露する『Rainbow』の歌詞を）書いていて、すっごい色んな感謝が出てきて。今回は、武道館に立たせていただいている意味としては、やっぱり１年の歌手活動のお陰では無くて、８年間（声優として）頑張って歩んできたことを誰かが見守ってくれて、このステージを託してくれたと私は思っているので。その託して下さった想いに本当に感謝していて。

　もしここで、一人、感謝を伝えるのだとしたら、私はやっぱりマネージャーさんかなって。本当に私は……何だろう。こんなに幸せなのに、なかなか自分に自信が持てなくて、本当にその苦しい時期、色々八つ当たりもしてしまったこともたくさんあったんですけど、でもそんな私をこの業界でデビューをさせてくれたマネージャーさんで、きっと私に色々足りないところとか不甲斐ないところとかたくさんあったはず、すごくボロボロだった時もあったはずなのに、どんな時も責めないで信じて待ってくれて、すごく落ち込んでいる時も、

「大丈夫。僕はうちの子が一番いいって思っているから大丈夫」

　って励ましてくれて。その言葉があったから、自分一人じゃ頑張れなかったこともそばで支えて笑って、すごくよかったなって思っています。私はこんな感じでなかなか８年、こんなに……ね、新しく後輩の子も沢山いる中で、私はデビューして８年上の先輩って神様みたいだったのに、私はなかなかそんな感じにはなれないなって思いつつもですね……私は、誰からでも認められるタイプの人間ではないって常々思っているんですが、そんな私の小さな小さな才能をここまで育ててくれて、ステージに想いを一緒に乗せてくれたマネージャーさんに心から感謝しています。

　私を、見つけてくれて、本当にありがとうございます。

　ここで拍手が沸き起こるのだが、それまでは本当に観客の誰もが静かだった。途中言葉に詰まったり涙交じりに話している時でさえも「がんばれー」「大丈夫ー」みたいな声援は一切出て来なかった（もちろんまだ声援ＯＫの時代にである）。それほど誰もが東山の話をじっくり聞き込んでいたのである。

　彼女の言葉は、都会の喧騒で冷え切っていた私の心を優しく暖めた。中でも「私を見つけてくれてありがとう」は声優の歴史に残る名言だと思う。この言葉だけでも伝説になり得る1stライブだった。それに比べて自分は３２年間（当時）何を頑張ってきたのだろうか。ライブ後の深夜２時、新宿のカプセルホテルの低い天井を見上げながらそんなことを考えていた。

　＊＊＊

　東山は感謝を言葉のみならず、武道館での単独ライブを成功させるという“行動”で示した。私も数多の人々に対する感謝を言葉のみならず行動で示したい。