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【ショートショート】 繋ぐ。




女の服が、みるみるうちに赤く染まる。


撃たれたのだ。


女のうしろ。覆面の男が立っている。たった今、弾を放った拳銃から薄く煙が立つ。


膝から崩れ落ちる。少し離れた場所に立つ、恋人のほうに手を伸ばす。痛みからか、悔しさからか、涙も流れている。


恋人も腹部を撃たれていた。立つのもやっとの痛みと流血だ。


彼は女の名を叫ぶ。




無情にも、女は頭部を撃ち抜かれる。


絶命した女の手は、恋人に向かって伸びていた。


気付くと吠えていた。絶望と怒りとが、混ざり、身体の中を埋め尽くす。もはや痛みも無い。


ただ、憎い。


コイツだけ、コイツだけは殺す。


女を殺した覆面は、悠々と恋人に向かって歩く。そして、彼の腹部、ついさっき自分で撃ち抜いた場所を蹴り上げる。


恋人はうしろに飛ぶ。鮮血が飛び散る。痛みはない。すでに、痛むことすら忘れた。憎悪だけが頭の中に残っていた。


殺す。コイツだけは殺す。


彼は落ちている拳銃に気づく。撃たれた時、自分が落とした銃だ。手を伸ばせば届く。


覆面は、恋人に向かって歩を進める。右手には拳銃。


届け。


コイツだけは殺す。彼は拳銃に手をのばす。


届け


とどけ


とどけ……とどけ!とどけっ!!






わたしは、隣に座る彼女の手を握った。


やっと届いた。やっと握れた。


驚いた彼女は、わたしの方を向く。彼女の頬は、みるみるうちに紅く染まる。


スクリーンから響く銃声の行方も知らず、ふたりは恋をはじめたのだった。








「ってはなしはどう?いい感じじゃない!?」


わたしは嫁さんに聞いてみる。


「初デートで観る内容の映画じゃないやろ。ラブコメ観ろ、ラブコメ」


……たしかに。



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