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マスカレイド

また同じ夢をみた
ひっそりとしずまった貸家の一軒家で妹と二人でボクが買ってきたお惣菜を食べ、妹を寝かしつけたあと大人が一人もいない家で眠れない夜を過ごす夢だ。

思えばボクはいつも仮面をつけている。
ほんとうの自分を見られることが不安なのだ。

三つ子の魂百まで

ボクがものごころがついたころ、両親は離婚した。
理由は父親の浮気だ。
そこからボクは二つ下の妹と四つ下の弟の父親役を演じなくてはならなくなった。
当時のボクはまだ六歳。
今思えばその時からボクの仮面をつける生活がはじまったのだろう。

母には感謝している。
なにしろ離婚した当時、彼女はまだ20代後半。
昼も夜も休みなく働かなくてはならない彼女が家に帰る余裕などなかったのは当然のことだ。きっと相当な苦労があったに違いないことは想像に難くない。

ただ、その当時のボクはまだまだ子供だった。
弟はまだ幼すぎたため、祖母に引き取られていた。
当時、大きな銀杏の木のそばの借家に妹と二人で暮らしていた。

ボクの朝は妹を保育園に送っていくことからスタートする。
当時から背の低かったボクがランドセルを背負って妹を保育園に送っていく姿は不自然だったのだろう。
いつも周りの大人から、
「お母さんはどうしたの?」
と聞かれるのが嫌だった。

妹を送ったあと、その足でボクは小学校に登校した。
ボクには友達がいなかった。
それは当たり前のことで遊びに行く約束をいっさい拒否し、妹を
保育園に迎えにいき、帰宅したあとはその日のご飯のおかずを求め、お惣菜を買いにいかなくてはならなかったからだ。
買い物が済んだら洗濯物など家事全般をこなした。
(今、思うとその頃が一番家事といわれるものをこなしていたのかもしれない)

その頃のボクは母から嫌われてしまったと思い込んでいた。
それはボクが父の浮気相手と一緒に遊園地に遊びに行ったことがあるからだ。父はボクにだけはとてもいい父親だった。おそらく父としては母と別れたあと、ボクだけを引き取り一緒に暮らす予定だったのだろう。
あらかじめ新しいパートナーにボクを面通しさせるくらいのつもりで遊園地に連れていったのだと思う。
その女性はとてもきれいな人だった。しかもとびきり優しくボクは無邪気にその女性になついてしまった。そして、帰宅したあと無邪気に母にそのことを話してしまったのだ。そのことがきっかけとなり、一つの家族が終わりをつげた。ボクが家族を壊してしまったのだ。。。
だから、母はボクのことが嫌いになったのだ。
だから、家に帰ってきてくれなくなったのだと。

その頃の生活のことを思い出すとがむしゃらに生きていたように思う。
同じ歳の子供が無邪気におやつや欲しいおもちゃのことを話しているとき、ボクはその日のお惣菜のことを考えていた。
だから、話もまったくかみ合わなかった。
ボクは仮面をかぶって子供を演じるようになっていった。

いつからか本当の自分のことを話すことが苦手になっていった。
そしてボクは今日も仮面をかぶり、踊り続ける。

End



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