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梅の花(エピローグ)【#シロクマ文芸部】

梅の花が咲く頃、和彰は人事異動を告げられた。慣れ親しんだ関東を離れ、4月から新天地での生活が始まった。それから、何度かの転勤を繰り返して各地を転々とした。そして月日は流れ、梅の花が咲く頃、10年ぶりに喫茶店『ロイヒテン』を訪れた。

(カラン、コロン)

「こんにちは!マスター。お久しぶりです」
「和彰くん。いらっしゃい」

「娘の華です。ちゃんと挨拶できるかな?」
「できるよ。マスター、こんにちは!」
「華ちゃん。こんにちは」

「妻の早紀です。マスター、はじめまして」
「はじめまして。遠いところ、わざわざありがとうございます」
「こっちは暖かいですね。松本は寒くて」
「いまは松本にお住まいなんですね」

(カラン、コロン)

「遅くなりました。こんにちは!マスター」
「優衣さん。いらっしゃい」

「和彰、早かったわね」
「久しぶりだね、姉さん。元気そうでなによりだよ」

「梢、みんなに挨拶は?」
「みなさん、こんにちは!」
「ほら華ちゃんも来てるわよ」
「うん!華ちゃん、いっしょにお話しましょ」

「夫の利樹です。マスター、はじめまして」
「はじめまして。それから皆さん、私はもうマスターではありませんよ」

「和彰さん、いらっしゃい」
「久しぶり、タクヤくん。いや、マスター」
「なんか照れるなぁ。タクヤでいいですよ」
「そういう訳にもいかないだろ」

「そうよ。マスター!」
「優衣さんまで」
「どお?目標のコーヒーを淹れるようになった?」
「まだまだですよ。あのときマスターに淹れて頂いたコーヒーには遠く及びません」

「そうかしら。ねぇ、マスター。あら、いやだ。マスターの名前を知らなかったわ」
「私を超える必要なんかないんです。タクヤさんのコーヒーを極めればいいんですよ」

「おーい、できたぞー。自慢のジビエ料理だ」
「猟師さんたちも集まってくれたんですね」
「おう。去年も熊が市街地に出てきて大変だったよ。大量に冷凍保存してるから、たくさん食べてくれよな」
「大事な命だから、大切に頂きましょう」

「そろそろ、始めようか。乾杯の挨拶を和彰くん頼むよ」
「わかりました。それでは僭越ながら乾杯の挨拶をさせて頂きます。本日はお忙しいところ、お集まり頂きましてありがとうございます。それでは、長年勤めて今回勇退されるマスターと新たにマスターを引き継いだタクヤくんの前途を祝して、かんぱーい!」

「かんぱーい!」

(おわり)

(次回、あとがき)



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