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慢心とツーリング

 仕事中、別部署からの電話を上司に取り継いだところ、上司が「さっきの人?〇〇(私の名前)さん?普通ですよ?」ということを最初に言っていた。おそらく、私が受けた時の声の元気がないとかで、体調が悪いのかというようなことを聞かれたのではないかと思う。別に体調は悪くないが、良くもない。元気に仕事ができる人などそうはいないのだから、それぐらいは許して欲しいと思ったりする。

 街コン明けの翌日、バイクに乗ってきた。腰痛の問題だけが心配だったのだが、一晩寝たらだいぶ調子が良くなったので、決行した形である。

 例によって駐車場からバイクを出すのだが、かなり手早くできたと感じた。最初は10分程かかっていたのにも関わらず、この時は5分もかからずに準備を完了した。このバイク出しがとにかく面倒だったので、慣れを感じてきて嬉しくなった。思えばこの時から予兆はあった。

 プロテクターをつけ、ヘルメットを被って出発する。今回の行き先は山である。お馴染みGoogle マップことペイズリー・パークでツーリングスポットと検索したところ、丁度良さそうな距離にあったので選んだ。景色がいいらしく、当日は晴れていたのでよく見えるかと期待していたのだが、それは叶わなかった。

 運転中にも、かなりの慣れを感じた。4回目ともなったからか、これまでおっかなびっくりと走っていたのが、勝手を理解して走ることができる。迷いそうな複雑な曲がりの道も、既に何度も通っているおかげで大した苦労をせずに通ることができる。この調子で、もっとツーリングに慣れていきたいなどと道中は思っていた。

 相変わらず、ペイズリー・パークの案内は雑で、どこで曲がればいいのかわからなかったりするのだが、今回はそれよりも直進の道を走っている時に文句を言いたくなった。直進するということは曲がる必要がないということで、案内が「この先10km直進です」などと言ったっきりしばらく黙ってしまうのである。そうなると、知らない間にナビが中断されたのではないかと不安になってしまう。実際、途中でコンビニに寄り、コーラを買いがてら確認した。結論から言えば、今回のツーリングは最初から最後まで途中で案内が途絶えるということはなかったのだが、それはそれとして不安になるというものである。

 目的地の山は道幅が狭く、そのくせ対向車が沢山来るので運転が非常に怖かった。山の中で曲がりくねっているせいで、先が見えないのが怖すぎる。突然対向車がやってきて肝を冷やした時もあった。それに注意しつつ、自分のバイクも運転していかなければならない。こういう時に限って後ろからたくさん車が来るもので、ゆっくりと走る訳にもいかず、かなり難儀した。ともあれ、そこで事故にあうことなく走り抜けられたのは幸いだった。

 そうして目的地の山の中に着いたのだが、ここで問題が発生した。山道から外れるルートがわからず、通り過ぎてしまったのである。この時点でペイズリー・パークの案内は目的地周辺だからと停止してしまっているし、狭い道、対向車も後続車も来る中でUターンもできない。やむを得ずそのまま登った山を下山していくことになった。

 山を降りて、道路横にスペースがあるところで止まろうとしたのだが、中々良さそうなところがない。走っている間にどんどん目的地から遠ざかっていく訳で、それでなくてもアテもなく走るのは良くないからと、ようやく見つけた駐車場スペースに入ろうとしたのだが、これが最大の失敗だった。

 まず、その駐車場スペースは足元が砂利だった。私の家の駐輪場も砂利があるが、実際のところ砂利はまばらで、実質的には土と言った方が正しい。なので、私はこれまでまともに砂利の上を走ったことがなかった。その上で、私は慢心していた。慣れてきて、少し調子に乗っていたことを認める。先をよく見ずに、普段曲がることのできるスピードで入ってしまった。結果どうなったか。

 砂利にタイヤを取られ、大きくバランスを崩した。そのまま駐輪場内に向かって侵入し、左側に横転してひっくり返ってしまったのである。後ろから来ていた車はさぞびっくりしただろう。前を走っていたバイクが駐車場に入ったと思ったらそのままひっくり返って横転したのだから。

この有り様

 不幸中の幸いはいくつかあった。まず私が怪我をしなかったこと。左足を倒れたバイクに挟まれたが、問題なくすぐに抜けたし、多少の痛みはあったが何のことはなかった。そしてそれ以外の外傷はない。ほとんど無傷だったのはラッキーと言える。加えて、この駐車場スペースに誰も居なかったこともあげられる。私が入ってから出るまで、誰もこの出入り口を車で通らなかった。誰の邪魔もしなかったことも幸運だった。それを言うなら誰も巻き込まず一人で倒れたこともそうであるが、一人で全て完結し誰かに迷惑や怪我を負わせなかったことは最たるところだろう。

 ともあれ倒れたバイクを見下ろしつつ、コーラを飲みながらさてどうしたものかと考えて、何はともあれ起こすことにした。先日倒した時は一人で起こせなかったので、今回引き起こしができるだろうかと心配だったのだが、不思議なことにすんなりと起こすことができた。珍しいものである。

 残念ながら、砂利のある地面を滑ったせいで、車体には思いっきり傷がついていた。走れさえすればいいので気にしないようにしようとは思うが、納車から2ヶ月も経たずにこうなってしまったとなると、気持ちが落ち込むというものである。

これはひどい

 こうなってしまった以上、おとなしく帰ろうということで、ペイズリー・パークに家までのルートを案内するよう設定して、さあ行こうとバイクに乗っただが、更なる問題が判明した。左足がギアのペダルに載らない。というより、ギアペダルがない。えっと思い降りて確認すると、ギアペダルが車体側に折り込まれており、足を載せられないのである。

本来直角であるべきところが折り曲がり、足を載せられない

 横転した際にぶつけてしまったのだろう。手で引っ張ってみたりしたが、とてもじゃないが戻せない。ギアを操作できないとなると、バイクを動かせない。これは詰んだかと頭を抱えた。

 しかし、試したところ、ギアペダルに足の側面を押し付けて、擦り上げる、あるいは擦り下げるような動きをするとギアを変えられた。なので、これで行こうと再びバイクに乗って走り出した。ギアが完全に故障していたらどうしようもなかったので、これもまた幸いである。

 帰り道、前方不注意で追突しそうになったり、対向車がきているにも関わらず右折しようとしたり、一歩間違えれば事故になっていた事態が何度かあった。ただでさえギア操作が普段と違うことに加え、注意散漫になっているとは相当動揺していたと思う。実際には事故にならなかったが、今回の横転といい、気を引き締める必要がある。

 なんとか帰ってきたら帰ってきたで、駐車場に見慣れない車が停まっており、私のバイクの駐輪スペースまでの道を狭くしていて停めるのに苦労した。おそらく直近で引っ越してきた人が車を新しく停めるようにしているのだろう。

 停めた後、バイクを購入したショップへ電話をして、ペダルの交換修理を依頼した。近くであるし、預けるだけならすぐ来ても良いとのことだったので、再び駐輪場からバイクを出そうとしたのだが、入れるよりも出すのが大変だった。私の駐車場は、基本的に車と自転車優先で、バイクの立場は弱い。あまりにも出し入れが難しいなら、新規の駐輪場を探すべきかもしれない。

 そのままショップにバイクを預けて、この日のツーリングは終了した。なんというか、踏んだり蹴ったりの一日だった。目的地には辿り着けず、バイクは倒して傷つけ、ペダルは折り曲げ、駐車場のスペースは減り、そして修理費もかかる。カウルの傷は費用がかかりそうなのでおそらく放置するが、それにしたってペダルの修理もいくらかかるかわからない。ついていない一日だった。

 ただ、慢心の結果がこの程度で済んだとも言える。大事故など起こさずに、取り返しのつかない事態になることなく事故の可能性があることを実感できたのは有難いことかもしれない。車の事故は、免許をとった直後よりも、慣れてきた頃に多いという。私の場合も同じだろう。反省し、安全運転を心がけなければならない。何せ事故で大怪我などした後では遅いのだ。ツーリングの楽しみは、交通ルールの遵守と安全運転の上に成り立つ。決して忘れてはならない。

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