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卵焼きのおしゃべり

子どものころ、卵が苦手だった。
正確にいうと、白身は好きだけれど、黄身が重くて苦手だった。
だから、目玉焼きの白い部分だけ先に食べて、残った目玉と、にらめっこしていた。

私はまんまるの黄身に、お箸をプスプス突き刺す。食べ物で遊ばないの、と母が言う。
正論だ。
でも、私は遊んだのではなく、卵焼きのおしゃべりを聞きたかったのだ。

「おしゃべりなたまごやき」は、大好きな絵本。
卵焼きの好きな王さまが、ある日、ぎゅう詰めになっているニワトリをかわいそうに思って鳥小屋を開けたら、皆が外に出てしまって、大騒ぎ。
王さまは、部屋に逃げ込む。と、一羽、追いかけてきたニワトリが。
王様はニワトリに言う。
「わしが、とりごやを、あけたのを、だれにも、いうなよ。だまっていろよ」

ニワトリは、王様の部屋で卵を生んだ。
王様は、さっそく目玉焼きを作らせる。
出来立てにナイフを入れると、黄身が、「わしが、とりごやを、あけたことを…」としゃべる。驚いて手をはなす。また、ナイフを入れる。黄身は、「だまっていろよ」としゃべる。
王様はコックと顔を見合わせ、苦笑するしかなかった。

私の黄身は、突き刺しても黙っていた。
寡黙な黄身との、にらめっこは続く。

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