「レインツリーの国」感想


 本屋でタイトルだけ見て買って読むという文系ギャンブル大好き人間ですが、気がつくと東野圭吾先生に包囲されています。どうも、野木です。
 本屋で古本フェアをしていたのでやはりタイトル買いしようと彷徨いていたら宝の山がセールに出てました。多分セールしてたのは誰かが本棚を断捨離したためでしょう。妙に私と好みが合致していました。

「図書館戦争」でお馴染みの有川浩先生の本ですね。恋愛描写のリアルさがウリの作家さんだと心得ておりましたので、ラブストーリーにきゅんきゅんしたろ! の気持ちで読み始めました。
 好きな本の感想を語り合って恋に落ちるなんてちょっとロマンティックです。しかもメールを通して主人公とヒロインは文通するんですよね。主人公が男性ということもあってオフの約束を取り付けるんですが、ぶっちゃけここでドン引きしました(笑)
 オフ会しちゃうひとみさんもひとみさんですね。
 会ってみてビックリ。二人の性格が合わないんです。伸さんはド陽キャの超理屈人間で、ひとみさんは殻に籠るタイプ。よく考えたら出会いも伸さんがひとみさんのレビューを見て、感想を送ったところからだったのでまぁそうか、と思いはします。
 しかもひとみさんはハンディキャップがあってそれを隠そうとするものだから余計にこじれます。私も途中まで「なんやこの女は。リアルな嫌な女すぎる」と眉を顰め、気がついたらドン引きしていたはずの伸さんに同調していました。声のでかい関西人はすぐ同調するので皆さんも気をつけてください。
 人間生きてたらどんどん図太くなるタイプと、どんどん殻に籠るタイプがいますが、ひとみさんは殻に籠るタイプですね。
 多分普通の恋愛小説なら障害となるのは暫定ライバルのミサコさんか、その他の環境や二人の性格になるのですが、この作品は別の障害がありましたね。
 耳の障がいかぁ、とちょっとがっかりしました。多分直前に読んだ作品が社会問題をダイレクトに扱っていたせいです。目に見える社会問題を主題とした作品が私はぶっちゃけ嫌いです。24××テレビで号泣する関係者を見ている気持ちになります。主人公の生い立ちとしての暗い過去も、本筋にはあまり関係なく蛇足としか言えません。
 小学生並みの感想を書きますね。
 でも、この作品は面白かったです。
 ひとみさんの性格に難があり、伸さんのデリカシーにかける部分がこの二人の一番の問題だったから。決定的にこの二人は合わないんです。それでも歩み寄ろうとする姿勢に「やめときや…」という気持ちと、「でも好きなんやな、うまく行くといいな」という気持ちが湧いてきました。そう思わせるのが有川先生の上手いところだなぁと思います。
 この世に運命の赤い糸があったら、二人の分は絡まって千切れたでしょうね。伸さんがこれをド根性で掴んで引っ張るから、今回の交際が相成ったという、ある意味もどかしいストーリーです。
 この作品の面白いところは、二人が将来的に別れるかも知れないところがあろうことか作中で示唆されているところです。単純な情報なので蛇足と捉えるべきか、ひとみさんの気に病む性格の描写なのかは分かりませんでしたが、ストーリー後の考察の一つの材料にしては燃料として大きすぎて盛り下がりました。別れるんやろなぁとは思いましたが、そこは妄想したかったですね。

 総評すると、起承転結の餌が大きすぎて萎えた部分はありましたが、人間描写のリアルさ、絶妙さ、爽やかなエンディングへの運びの素晴らしかったです。地の文が軽く、主人公が無神経だからこそ読者を最後まで置いてけぼりにしない作品でした。また、重いテーマを重くしすぎず取り扱われていたのが印象的でした。最後まで読み進められたのは適度な軽さのおかげでしょう。
 普通の恋愛小説に飽きたけどヘビーな作品は胃もたれする方や、優しいエンディングがお好きな方におすすめしたい作品でした。

 

 

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