第三話 修行開始!
修行が始まった。…といっても何を目標にすればいいのか。
「何、ボーッとしてるのよ。修行を始めるわよ。」
「はい!師匠。でも、僕は何を目標にして修行をすればいいんですか?」
「そんなのあの剣を抜く為じゃないの?」
「いえ、それは修行の最終目標であって…どこまで強くなればあいつを抜くことが出来るのか…あいつに認められるのか…何か指標がないですか?モチベーションのあげ方というか…。何かないですか?」
「あんた…見かけ通りの現代っ子ね。何をするにも理由が必要だっていうの?まぁいいわ。本来の目的から近づいてるようで離れて行っているような気がするから焦っているんでしょ。…とりあえずは落ち着きなさい。もし、あの剣をとんとん拍子で抜けたとしても次の行く場所も決まっていないんでしょ?だったら、ここで修行をしていた方がいいわ。その方がどの選択肢よりも安全だし、多分だけど近道なような気がする。それと…少しはモチベーション向上のために一つ目標をあげましょう。私の使う技はねこの山に昔住んでいたじじい…いえ、おじいさんに教えてもらったの。あっこの前話した山上って人じゃないわ。別の人。そして、その人が教えてくれた技は総称して 雑拳とか言っていたわ。達人になればなるほど有効で、相手…強者からの第一印象をただものではないと思わせる…まぁこけおどしぐらいの効果しかない技たちよ。それを全部覚えたらあの剣を抜けるかも…。」
「それっていくつぐらいあるんですか?」
「5個くらい。その中で技名があるのは2つ。」
「えっ。それだけですか。」
「そうよ。それだけ。だけど、覚えるのは大変よ。一番簡単な方のシュンッでさえあなた覚えられなかったじゃない。」
「確かに…。」
「はい。ということで、この肉の山をこの山の中腹ぐらいあるマモリ亭に届けてきて。」
「え?それが今の会話とどう関係してるんですか?」
「関係はあるわ。実はこの山、あなたが入ってきた階段のある所は安全ルートでその後ろにあるルートはマの森と言って鶏とかの無知の獣がうじゃうじゃいる危険なところなの。そこを生き残ることが出来たらとりあえず雑拳の2個くらいは覚えたも同然くらいかしらね。」
「えっ。そんなに簡単に二つ覚えたのと同じになるんですか!」
「簡単って。あなたずいぶんなめているわね。一匹倒すのにも全力だったのに。」
「…確かに。」
「だから、当分のあなたの修行はこの肉の山をマモリ亭に渡して、そこで一泊。その後、山を下りてマモリ亭の案内看板を綺麗にして帰りはその逆、マモリ亭からここまで戻ってくる。この繰り返しね。この修行の終わりは肉の山が無くなるまでにここから看板まで一泊せずに往復できること。わかった?」
「わかりました!まずはやってみます!」
「あっちなみに大事なのはマモリ亭につくことで、持たせた肉は無くなってしまってもここに戻る必要はないから。」
「わかりました。いってきます。」
「はい。いってらっしゃい。とにかく今日は生き残ることを考えて行動しなさい。」
「そういえば、その間ドルーワさんは今日何するんですか?」
「え?あぁ。そうね。いつも一人だったから特にいつも通りの生活だけど、まぁ今日は珍しく用があるわね。だから、さっさと行ってきなさい」
「はい!」
心はマの森に駆け出していった。
「さてと…。」
ドルーワもマの森に歩いて行った。だが、心とは違う方向に向かって…
コケコッコー!!
コケコッコー!
コケコッコー!!!
「おいおいおいおいおいおい…多すぎるー!序盤から多すぎるー!え?何?この肉が目当て?共食いだよー共食いー!君たちの兄弟だったかもしれない奴らの新鮮な屍だよー!言い方を変えるならー!」
心は序盤からマの森の洗礼を受けていた。持たされた肉も半分以上が心の代わりに犠牲となっていた。
「あぁ。けっこう減ってしまったなぁ。やっぱり、最初はこんなものなのかなぁ。まぁ命を落としてないだけましと思うかぁ。この景色を見たらなぁ…。」
心の目の前に広がっていたのは明らかに人の骨だった。しかも、一つだけ…一人だけのものではなかった。
「やぁ!君。迷子かい?」
!!急な声に驚く。
さっきまではいなかったような気が…。
「やぁ!僕はミスターソースマン!!ソースを愛し!ソースに愛された男さ!」
気のせいではない。さっきまで確かにいなかった。でも、迷子なのは確かだ。このおかしな男を信じていいのか?
「えーと…ミスターソースマンさん?マモリ亭っていう場所は知っていますか?そこに僕は行きたいんですけど…。」
「あぁ!知っているさ!そこに行きたいんだね!案内してあげるよ!」
おっ!知っているんだ。ラッキー!ついて行こう。はぁ~。これで、一日目は生き残ることが出来た。
「さぁ!ついておいでよ!」
心はミスターソースマンについて行くことにした。最初は、疑心暗鬼になりながらも彼の異様な雰囲気に飲まれ、楽しく歩いていた。しかし、なにかおかしい。さっきから同じところをグルグル回っているだけのような気がする。そりゃあ森の中だ同じような景色なのは仕方がない。だが、今の状況はそれとは違う。その場をただグルグル回っているような気がするのだ。
「あっあの…ソースマンさん?さっきから同じ場所を回っているだけのような気がするんですけど…本当に目的地に近づいてるんですか?」
「やぁ!僕、ミスターソースマン!目的地って何のことだい?」
「ぇ…。あなたがマモリ亭を知っているからついておいでって言ったんじゃないですか。」
「あぁ!そうだった!ついておいで!」
それからしばらくたった…。結果はさっきと変わらなかった。
「あっあの!」
「なんだい?」
「本当に目的地に近づいてるんですか?」
「目的地って?」
「!!あぁ!もう!一人で行きます!ここまでの案内ありがとうございます。」
「マの森のマは真っ直ぐのマ。」
「え?」
「マの森のマは迷いのマ。マの森のマは魔物のマ。」
「それってどういう?」
「そのままの意味だよ。少年。この森は獣たちを避けることさえできれば心の迷いを無くせば真っ直ぐ進むだけで外に出られる。」
「急にどうしたんですか?ソースマンさん。」
「すまなかった少年。君が本当にマモリ亭に行ってもいい人間か試したんだ。私のお気に入りの店だったからね。」
「それで、結果は?」
「合格だ。僕のおちゃらけに怒りはしたが、悪態や危害を加えることなく、しっかりとお礼はしてくれた。ついてきなさい。今度は本当に連れて行ってあげよう。」
「あの…ちなみに不合格だったらどうなっていたんですか?」
「あぁ。僕のWOLで君の体液全てをソースにしていたよ。」
危なかった…。
心は今度こそマモリ亭に連れて行ってもらえた。
「ここまでありがとうございます。さぁ!一緒に入りましょう!何かお礼を…。」
「いや、いいよ。僕はミスターソースマン!このマモリ亭の案内役であり!マモリ亭の店の雰囲気を守りてぇ!だだ、それだけ!じゃあね少年!」
「わかりました。またどこかで!…さて、入るとするか!」
カランカラン!
「いらっしゃい!マの森亭…略してマモリ亭にようこそ!」
「あの、ドルーワさんからこの肉を届けてこいと頼まれた心です。」
「おぉ。君が!よく、ここまで肉を残して生きてこれたねえ。」
「えぇ。実はミスターソースマンさんに助けてもらったんです。」
「!!…それは本当かい?」
「はい。確かにミスターソースマンさんにここまで連れてきてもらいました。」
「…そうか。…あいつまだ…。」
「?どうかしたんですか?」
「あっ。あぁ。まぁとりあえずこれでも食べなさい。この店のおススメ
庭取りのソテー究極のソースがけだ。」
「庭取り?究極のソース?」
「あぁ。獣人の鶏との差別化のためにな。そう呼ぶときがあるんだ。奴らの縄張り…つまり、奴らの庭ではすべてのものが取られるって意味らしい。
で、そのなんでも食べる奴らの胃液や体液はこの世のソースの中で一二を争う究極のソースらしいんだ。…ミスターソースマンが昔、言っていた。」
「へぇ―。そうなんですか!うん!確かにうまいです。」
「…実はな少年…そのミスターソースマンって野郎は今から十年前にそのソースになったんだ。ほれ、見てみろ…あれがあいつの遺品だ。」
店主が指さした方にはぐちゃぐちゃになったミスターソースマンバッチがあった。確かにあの人の物だ。
「ブッ!ゲホッゲホッ!じゃっじゃあ僕が出会ったのって…」
「…たぶんな。」
「でっでも、なんで僕の前に出てきたんですか?」
「さぁな。奴は昔、自分の夢は究極のソースの中で死にたいって言っててな。その夢はかなっているはずなんだけどな。」
「もしかして、まだ、究極のソースを食べてないからじゃないですか?」
「!!あぁ!確かにあいつ、まだ食べてなかったな。…そうか。これからはそれをお供えしておくか。ありがとな!少年!今日はもうゆっくり休め!寝床は寝心地よくしておいた!」
「はい!ありがとうございます!」
こうやって、心の修行一日目は幕を閉じた。
一方その頃…
「あぁ。痛ててぇ。まさか、あんな小僧にやられるとはなぁ」
「あら、どこに行こうというのかしら?侵入者さん。」
「あぁ。まさか、本来のターゲットに見つかるとはねぇ。」
「まさか、鶏の分際で私を殺そうとしていたのかしら。」
ヒュンッ!キン!
「あ?なんか言ったか?どうも鶏だから三言話すと忘れっぽくてな。」
「あら、ホントね。まだ、二言しか話してないわよ。」
「あっ。本当だ。恰好つかねぇなぁ。あ~痛てて。」
「あんた名前は?あと、だれの指示で来たの?」
「それは言えないなぁ。と言いたいところだが、名前くらいは言っておこう。俺はトーケンコーって者だ。」
「あぁ。時の犬ね。」
「犬じゃなくて鶏なんですけど…。」
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