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バルコニーの手すり高さの違法性②

「アパホテル大阪肥後橋駅前」について、建築専門誌(日経アーキテクチュア_2023.03.16)の記事が出て、より明確になったことを深堀りしていきます。

前回、一般紙(毎日新聞)をもとに考察したnoteはこちらです。


◆今回の記事で明確になったこと

①.問題となっているバルコニーは、大阪市の「高層建築物等に係る防災指導基準」にもとづいていること

②.一時避難場所(避難者が一時的に安全に待機できる場所)として設けられたこと
③.裁判の争点は、バルコニーの転落防止措置が十分だったかどうか(「工作物責任は無過失責任である」


①.問題となっているバルコニーは、大阪市の「高層建築物等に係る防災指導基準」に基づいていること

まず、「建築基準法」「高層建築物等に係る防災指導基準」は分けて考えないといけません。

それぞれ違うものだと認識した上で、それぞれ「法律」「指導基準」であることを理解します。

「法律」は守らないといけませんし、罰則があります。それでは「指導基準」とは何か?

実際の「高層建築物等に係る防災指導基準」から重要な文言を抜粋します。

https://www.city.osaka.lg.jp/shobo/cmsfiles/contents/0000213/213007/3-1.pdf

第7 指導上の留意事項
 ・・なお、本指導基準 に基づく指導は、行政指導の一環として、あくまで建築主等の任意の協力のもとに行うものであることに留意されたい。

つまり、問題となっているバルコニーは、任意の協力のもとに設置したものである事がわかります。


②.一時避難場所(避難者が一時的に安全に待機できる場所)として設けられたこと

今回のバルコニーが「高層建築物等に係る防災指導基準」により、任意の協力のもとに設置したことが分かりました。
次に、一時避難場所として設けられたことについて考えます。

現在、「建築基準法」には一時避難所という概念はありません。火災時にはすぐに1階(避難階)に逃げましょう。というスタンスで定められた法律です。

それでは、一時避難場所とは何か?
話の流れから分かると思いますが、「高層建築物等に係る防災指導基準」に明記されています。

「建築基準法」にはない一時避難場所という概念。
これはおそらく、高層建築物からすぐに逃げることは難しいため、法制度まではしなくとも、指導基準として定められたものと思われます。

高層建築物の需要は大都市に集中することから、指導基準も大都市に限られます。(田舎では指導基準を定める必要性がありません)

インターネットで検索した限りですが、定められているのは以下のような大都市の建築行政庁です。(消防庁の指導は除く、検索上位のもの)
・仙台市:高層建築物防災設備指導基準
・大阪市:高層建築物等に係る防災指導基準(大阪府内建築行政連絡協議会の「高層建築物等の防災措置に関する要綱」(平成12年6月1日制定))
・川崎市:高層建築物の指導指針

話が間延びしましたが、調べた限り、一時避難場所という言葉が記載されているのは、大阪市:高層建築物等に係る防災指導基準だけでした。

つまり、一時避難場所については大阪府という限られたエリアで運用されている指導基準であることが分かります。


③.裁判の争点は、バルコニーの転落防止措置が十分だったかどうか(「工作物責任は無過失責任である」)

①②から、今回のバルコニーは任意の協力のもと設置した一時避難場所であることが分かりました。
別の言い方をすれば、「建築基準法」においては、設置しなくてもよかったバルコニーです。

そのバルコニーについて、東京地裁は以下の通り、「建築基準法」違反していると判決を下しました。

「バルコニーの柵については、(1)建基法施行令126条1項が、廊下や階段などの避難施設に避難上の支障などがないよう求めた建基法35条の委任を受けた規定であること、(2)同施行令の5章2節「廊下、避難階段及び出入口」ではバルコニーを直通階段に代わる役割を果たし得るものと位置付けていることに言及。「避難のために設置されたバルコニーも126条1項の対象であると解するのが相当」とし、同項と建基法35条に違反していたと判断した。」

これらはどう解釈すればいいのか。

判決文である「工作物責任は無過失責任である」とは何か。
工作物責任とは、土地の工作物の瑕疵によって他人に損害を与えた場合に、工作物の占有者・所有者が負う賠償責任のことです。
無過失責任とは、損害の発生について故意・過失がなくても損害賠償を負うことです。

この判決文は「確認申請に過失はない」ということなのか。

今回はここまでです。

◆引き続き裁判を見届けます

つらつらと書いてきましたが、引き続き司法の判断を見届けていきます。


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