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仏教と芸能の香港 ジャッキー・チェンも歌う『般若心経』。 お経は暗くてつまらないか? 仏教ポップスへのいざない 4

< 一部内容を訂正・追加しました。 令和6=2024年6月15日 >

はじめに

「香港」という言葉からあなたは何をイメージしますか? 
 
→ 中国共産党により切り崩されている自由で民主的だった中国人社会。
→ ブルース・リー、ジャッキー・チェン他多数のスターを生んだ芸能大国。
→ 金融、貿易、商業で有名だった東アジアの代表的経済先進地域。
 
いずれも間違いではないですが、日本人が知らないもう一つの側面、
それは、
→ 共産化された中国”本土”よりずっと本来的な「仏教」を良く保存し、繁栄させている社会
 そして
 仏教界・芸能界ともに日本が遠く及ばない 「仏教ポップス 」( 佛教流行歌曲 )が普及している社会
 です。
 
 本日は、その香港仏教ポップスのごく一部をご紹介したいと思います。
(※ この文章は、令和6=2024年6月16日 應善寺門徒会で発表する予定の手元原稿から発展したものです。実際の発表内容はこの文章と異なる可能性もあります。
また、本サイトは「宗教法人應善寺」の公式サイトではありません)
  
 

香港の代表的仏教ポップス紹介

 

歌手: 譚詠麟[たんえいりん、アラン・タム]、成龍[ジャッキー・チェン]、李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]を含む多数の著名な歌手たち
 曲(経): 『般若心経』
 『香港群星 合唱心經』(香港オールスター『心経』合唱)

< 梅艷芳、譚詠麟、郭富城、劉德華、張學友、鍾鎮濤、李樂詩、黎明、草蜢、趙學而。

単独でパーツを担当した歌手の中国名を登場順で紹介。英名は省略。成龍は合唱で参加              令和6=2024年6月15日 追加 >

 一人でも会場を満員にできる、日本なら「紅白歌合戦」級の大物歌手が次々と登場してマイクをリレーする信じ難いコンサートです。

 開催推定2000年代。背後に「921」の横断幕が見えることから、「9月21日 国際平和デー」の仏教系チャリティー・コンサートと推量。  
< ↓
 開催1999年10月3日、会場「紅館」(正式名称「紅磡[こうかん]香港体育館」、英名「Hong Kong Coliseum=香港コロシアム」。背後に「香港演藝界9·21傳心傳意大行動」(香港芸能界伝心伝意大行動)の横断幕が見えることから、1999年9月21日台湾発生の「921大地震」の仏教系チャリティー・コンサートと判明。
https://www.facebook.com/8090cantopop/posts/1210764072268767/
https://www.bilibili.com/video/BV17k4y127tx/
                   令和6=2024年6月15日 訂正 >

 ライブ録画のため画質と音声が今一つなのが、玉に瑕[きず]。
 
 以下でも紹介する、李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]は、2分10秒あたりに登場、
「 無罣礙故[モウ クワー(ンコ)イ ク]、
  無有恐怖[モウ ヤウ ホン ポウ]、
  遠離顛倒夢想[[ユィン レイ ディン ドウ モン セン]、
  究竟涅槃[カウ キン ニッ プン] 」
の部分を歌います。
 

歌手: 彭羚[ほうれい。キャス・パン。女性]、許志安[きょしあん、アンディー・ホイ。男性]、李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]による デユエット + 1 のスタイル
曲(経): 『般若心経』(広東語)
『心經 (粵)』 

 こちらは、よい環境で録音したようで、音声が綺麗です。
 彭羚[ほうれい、キャス・パン。女性]許志安[きょしあん、アンディー・ホイ。男性]は、上記『香港群星 合唱心經』では歌っていないものの、歌唱力は彼らに勝るとも劣りません。こういう歌手たちが「群星」に入っていないことに、逆に、香港歌壇の層の厚さを感じます。
 李樂詩[りがくし、ジョイス・リー。女性]は、ここでは3人目、1分06秒あたりに登場、
 「 不生不滅[パッ サン パッ ミー]
   不垢不浄[パッ カウ パッ ツィン]
   不増不減[パッ ツァン パッ カム]、、」
 以降を他の二人とともに歌います。

 歌詞(経文)の字幕や、歌手たちの顔写真が無いのが、残念。
 歌のレベルの高さに比べて、再生回数2347回、いいね18回、と極端に数値が低いのも残念(2024年6月10日2時39分アクセス)。
 
 
 

歌手: 王菲[おうひ。フェイ・ウォン](女性)

曲(経): 『般若心経』(北京語)

https://www.bing.com/videos/riverview/relatedvideo?q=王菲 心経&mid=500AEBA22B211333DA82500AEBA22B211333DA82&FORM=VIRE

 王菲はフェイ・ウォンという名のもと、恐らく日本で最も知られた中華圏の女性歌手でしょう。また、敬虔な仏教徒歌手として、中華圏では有名であり、「王菲居士」とも呼ばれています。

 王菲と張智霖[チョン・チーラム](男性)の『般若心経』(広東語)デユエットは、以前、私のブログで紹介しましたので
お経は、暗くて、つまらないか? 仏教ポップスへのいざない|白井千彰 (note.com)
今回は、広東語版とは別の作曲者による、ソロの北京語の『般若心経』を紹介いたします。
 ステージ上で軽く百人は超えるであろう僧侶たちの中に立ち、合掌したまま、緩やかにその澄んだ美声を聞かせます。中国大陸陝西[せんせい]省の「法門寺」で行なったコンサートのようです。

 (※ 『般若心経』の現代日本語訳については以下のサイト等をご覧ください。
『般若心経』を現代語訳するとこうなる - 存在が存在することの意味を説くお経 - - 禅の視点 - life - (zen-essay.com)
https://true-buddhism.com/sutra/heartsutra/heartsutrazenbun/ )
 
 

歌手: 鄺美雲[こうびうん。キャリー・クウォン]
曲(経): 『大悲咒』(別名:『十一面觀音咒』、『藏傳大悲咒』)

 https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=hdiqBFyfKIM

  これまで紹介してきた歌手たち同様、鄺美雲[こうびうん。キャリー・クウォン]も中高年になってから、仏教ポップスにシフトした人で、2005年には、『禪美雲聲』(禅美雲声)という仏教音楽(と彼女のかつてのポップスを合わせた)CDアルバムを出しています。若い頃には「ミス香港」にもなった人ですが、ちゃんとした歌唱力も持ち、ただの美人ではありません。
 
 『大悲咒[だいひじゅ]』(正しくは『十一面観音咒[じゅ]』。別名:『蔵伝大悲咒』)は、日本であまり知られていないですが、香港を含む中華圏では、『般若心経』と並び、いや、それを上回り、多くの作曲家・編曲家、歌手によって楽曲化されています。
 この歌の歌詞(経文)は、古代インド語「サンスクリット」の発音を漢字で写しただけなので、いくら漢字とにらめっこしても、意味は分かりません。
 大意は、ひたすら観音菩薩と大日如来の名をとなえ、たたえるものです。

 今回、歌詞(経文)は解説しませんが、歌の中にしばしば「ナモ」という語が聞かれることにはご注意ください。これは、「南無阿弥陀佛」の「南無[なも]」と同じです。
 ネット上では複数の人が鄺美雲の『大悲咒』を載せ、それぞれ色々な動画を付けていますが、個人的に、このチベット仏画の画像が気にいっているので、これを選びました。21分56秒もありますが、正味は3分40秒ほどで、あとは繰り返しです。
 
 

歌手: 林憶蓮[りんおくれん。サンディ・ラム]
曲: 極樂願文 Brief Amitabha Aspiration Prayer (ごくらくがんもん)

  林憶蓮[りんおくれん。サンディ・ラム]は、香港歌謡界をリードしてきた実力派女性歌手です。そして、「憶蓮」という名にも表れているように、敬虔な仏教徒(それもおそらく浄土教系の)でもあります。
 林憶蓮と許志安(アンディ・ホイ。きょしあん。男性)のデユエット『阿彌陀佛心咒[あみだぶつしんじゅ]』は、以前紹介したことがあるので
お経は、暗くて、つまらないか? 仏教ポップスへのいざない|白井千彰 (note.com)
ここでは、ソロの別の曲『極楽願文』を紹介します。
 編曲の倫永亮[りんえいりょう]は香港のスターたちに数多くの楽曲を提供し、香港の歌壇をリードしてきた編曲家ですが、中高年になってからは、仏教音楽にその才能を振るうようになりました。CD『樂行佛國』(楽行仏国)はそんな彼の仏教音楽アルバムで、その中に、「阿弥陀仏心咒」もこの「極楽願文」も入っています。

 「極楽願文」は林憶蓮が歌うチベット語の歌です。
 漢民族がみなチベット人を馬鹿にしているかというと決してそんなことはなく、特に香港、台北、上海あたりの漢民族仏教徒が、チベットを佛教の本場・上方[かみがた]と見なして尊崇しているらしいことは、こういう仏教ポップスを調べていて、しばしば体感されることです。(この感覚は、東京の人間が - 大阪、名古屋、広島等、他の都会には別段意識がないのに対して - 京都、奈良、比叡山、出雲大社、古墳等となると、急に頭が上がらなくなる感覚と似ていると思います)。
 

結び 

 さて、本当にざっとですが、香港の仏教ポップスについてごく一部を見てきました。
  
 今回、紹介してきた歌手たちは、世代的に私(1960年生まれ)に近く、みな若い頃スターとして売れていた人たちです。
 天安門事件(1989年)を含む3年間、中国大陸に滞在していた若き日の私は、それまでの毛沢東や人民解放軍を賛美する泥臭い中華人民共和国のプロパガンダ歌謡が中国語の歌と思いこんでおりましたから、香港や台湾の垢ぬけた中国語ポップスを聞いた時には本当に新鮮な衝撃を受けたものです。

 その後、日常の忙しさにかまけ、必ずしも中華ポップスをフォローしてこず、仏教の本を読んだり、寺を訪問していたりしていた私が、40代になって近隣アジア各国の寺社を観光していた時、往年の香港のかっこいいお兄さん・綺麗なお姉さんだった歌手たちが、今や素敵なおじさん・おばさんとなり、後半生のライフ・ワークのように、仏教の経典や念仏をポップス化したものを熱唱していることを知ったのでした。

 今後は、『般若心経』や『大悲咒』等、各楽曲(経典)について、もっと詳しく歌詞(経文)を解説した記事を書いていきたいと存じます。
 
 令和6=2024年6月10日
(仏教ポップスにこよなく理解を示してくれていた母・白井耀子の四十九日を終えて)

↑ 写真: 香港 萬佛寺(万仏寺)の五百羅漢像 


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