チェックが甘い

初めて出来た彼女との話。

彼女が初めて家に遊びに来る事に。
兎にも角にも部屋を綺麗にし、念入りに風呂に入り、身だしなみもチェックした。
嫌われたくない一心で。

“ピンポーン”

彼女が来た。
平静を装い、扉を開け、迎入れた。
普段は学校の制服姿しか見てない為、
私服姿の彼女を見て、なんとも言えない高揚感が。
しかも、ちょっとだけダサいのが良かった。

(完璧な人だと思ってたけど、そういう所あるんだー)って。

彼女とリビングで、一体何の話をしただろうか。緊張でよく覚えていない。
お互いに話題が尽き、沈黙が。
この空気感。なんだかやらしい空気感。
どうしていいか分からない空気感。
彼女は、意気地無しの僕の方を向き、ニコッと笑いかけてきた。
これは……キス出来る!
キスをしようと迫る僕。
彼女は目を閉じて、受け入れ態勢。
そして、キスをした。
それはもう夢中で。
好きという気持ちが、爆発しそうな程。
「キスはレモンの味がする」
なんて事を言うが。
僕が事前に食べていた、ミントのガムと、
彼女が事前に舐めていた、ミルク味の飴が混ざった味がした。
このまま先の展開にも進展しそうな勢い。
きっと彼女も、夢中だったに違いない。
彼女がキスをしながら、床に寝ようとした。
完全な受け入れ態勢。無防備状態。
そのまま僕も彼女に覆い被さる。
再びキスをしようとしたその時。
僕を引き寄せていた彼女の手が、
ガチッと、ロックされたかの様に、止まった。
キス寸前の僕をじっと見つめて、彼女が。

「あの……お鼻クソがクソクソしてる」

最初、何を言われたのか分からなかった。

言葉を理解し、急いで鏡を見ると、
それはまぁ大きな大きなお鼻クソが。
あんなにもチェックした筈なのに。
一体、いつ、どこから現れた。
まぁ……鼻からなんだが。
慌ててティッシュで取り、ゴミ箱へ。
慌てていたのか、ゴミ箱に一発で入らず。
余計にダサい。

彼女は床に座り、気まずそう。
雰囲気も台無し。最悪だ。

彼女に言われた言葉が、何回も何回も頭で再生された。
最初は酷く落ち込んだが、彼女の言った言葉をよくよく考えてみると、

(お鼻クソがクソクソしてるって言葉……めっちゃオモロイやん。え?何でそんな言い方したんやろ。俺を傷付けやんように、そう言ってくれたんかな?にしても、お鼻クソがクソクソって。鼻クソが付いている状態を、彼女は、クソクソしてると表現したんや。わざわざ。ていうか、丁寧に、お鼻って言ってるのに、ハッキリと、クソを付けるんや。めっちゃオモロイやん)

なんて考えてたら、笑ってしまった。
そしたら彼女も、笑った僕を見て、

「何でウチ、お鼻クソがクソクソしてるって言ったんかな?」と、爆笑し始めた。

二人して、涙が出る程笑った。
そしてまた、彼女が僕を見つめて、
「よし!もう付いてない!続きする?」
僕は鏡を改めて見直し、「うん」と、笑顔で答えた。

彼女の、僕に対してのやさしさに救われた。

#やさしさに救われて

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