不審者が階段をUターンした話

夜9時半ごろ用事があって部屋を出てカギを閉めていると、道の方から自転車を倒したかのような音が聞こえた。音のした方を見ると背の高い人が見えた。音のした原因はわからなかったが、こちらのドアの音に気付いたのかその人はこっちを眺めていた。あんまりジロジロ見るものでもないし、背の高さから、真下の部屋の馴れ馴れしくて野良猫にエサをやっているであろうジジイかと思ったのでそれ以上見ることはしなかった。だが、相手はずっとこちらを見ていた。
階段を降りると、男はこちら向かって歩いてきていた。やたらとこっちを見てくる。暗いし目が悪いのでとりあえず気のない挨拶をしたら相手も小さな声で返してきた。腹が出ておりオレンジのパーカーにネックウォーマーで口元を隠した、青年とオジサンの間ぐらいの背の高い男。下の部屋のジジイではなかった。そう思うと、ジジイでもないのにのそのそとゆっくり動いているのが不気味に思えた。

挨拶をしてすれ違った男は階段を上がっていった。

俺は車に乗り込んで、階段とは逆方向に走り出す。気味の悪い男がどの階や部屋に向かっているのか見えるはずもないのだが、ルームミラーとサイドミラーを見てみると、男は階段を下りて、挨拶をする前あたりの位置にいた。挨拶をしてから1分も経っていない。引き返したのだろうが、あの動きでは2階にすらたどり着いていないだろう。

住民がゆっくりゆっくり歩きながら部屋へ帰ろうとして、階段の途中で何か思い直して引き返し再び外へのそのそと歩いていく。そういう可能性もゼロではないだろうが、年寄りでもないオッサンがそうしていたと信じるのはあまりに楽観的過ぎるだろう。
仮に外へと引き返していなくても気味が悪かったし、やたらと見られていた事も含めて、仮に住民であったとしても不審者だ。

やたら馴れ馴れしい背の高いジジイと、嘘つきの自称真下の部屋の中村、のそのそ歩き見つめ引き返す腹の出た橙パーカー。
この周辺は不審者しかいないのか。

俺は用事を済ませて帰宅したが、当然そこに橙パーカーの姿はなかった。

#隣人 #不審者 #トラブル


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