近所の爺に声をかけられ戦慄した話

仕事から帰宅して車を降りると、背の高いジジイが車の前を横切った。何度か目にしたことがあるジジイだった。人の顔を覚えるのが苦手だが、恐らくは挨拶を交わしたこともあるだろう。いくつかの荷物を手に持ち車を降り、階段へと向かうとジジイがこちらを見ながら待っていた。
「お兄さん僕の真上やんね?」
「ん、どこすか?」
2か月ほど前に訪ねてきた、俺の真下の部屋番号を言っていた中村のことが思い浮かぶ。中村は背の低い中肉のオドオドしたオッサンだったし、このジジイとは明らかに違う。
「xxx。」
「ああーせやねえ」
聞くと確かに、俺の真下の部屋はこのジジイの部屋だったし、中村も同じ部屋番号を言っていた。
ジジイは笑いながら愛想よく話し出す。
「あのね、クレームやないんやけどね、たまにダカダカダカダカって聞こえてくるんだけど、あれドラムとかやってんの?」
いやぁー。気のない返事をする。頭には音ゲーが思い浮かぶ。
「僕ね、ギターやってたから。ドラムもなんとなくわかるの。でもドラムにしてはテンポが全然違うなーって。ゲームかな。」
ですかねぇー。気のない返事をする。頭にはBMSが思い浮かぶ。
「ちょっと心当たりないか気にしてみますわ笑 てかxxx号室やんね?」
話を切り上げ、部屋番号を改めて確認すると、ジジイはそうだよ?と言いながら部屋のドアを開けてみせた。
「どうしたの?」
「いやね、こないだ真下の人が僕の部屋に来てね。違う人やったから。」
「僕ね、x年ここ住んでるから、それより前の人かもね。」
ドアを開けてみせたこのジジイは間違いなくxxx号室の住民だろう。ではxxx号室の中村と名乗っていたオッサンは一体何なのか。5年以上前に住んでいた人間が、その部屋番号を名乗りながら真上の部屋を訪ねるか?しかも、下にある自転車の持ち主を探すために。
腕を組み真剣な表情で小さく唸る俺を見て、ジジイは聞いてきた。
「なんて言ってたの?」
『下の赤い自転車の持ち主ですか?』『持ち主が誰か知ってますか?』そう聞かれたと答える。
「ああーあの自転車はお兄さんの1個奥の部屋のお姉さんのだよ」
「なんで知ってんの笑」
「僕いろんな人と喋るから笑」
なるほど、と笑って返した。中村の謎は全くもって解決しなかったが、この馴れ馴れしいジジイとこれ以上中村についても世間話も話すつもりもなかったし特に言葉を発さずにいると、少しの間の後にジジイは愛想よくお疲れ様ですと仕事終わりの挨拶をして俺たちは別れた。

中村の苗字はどうか知らないが、少なくとも真下の部屋を自称していたことは明確に嘘だとわかった。
中村は奥の部屋のお姉さんを探して俺の部屋を訪ねたのか。
それとも、俺の部屋が目当てだったが俺が出てきたのが想定外で、思い付きで赤い自転車の事を口走ったのか……。
いずれにせよ非常に気味が悪い。

その後、ジジイは見かけると声をかけてくるようになった。流星群らしいが見えない、方角はこっちか、と聞かれたときにはそうなんや知らないと笑いながら足を止めずまっすぐ部屋に帰った。
別の日には、俺の車のダッシュボードに置いている会社の駐車証明のようなものを見たらしく、その会社知ってるけどいい会社やんと声をかけてきた。中村もだがこっちはこっちで結構気味が悪かった。

#不審者 #隣人 #トラブル

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