溺愛したりない。(試し読み2)

 あのあとのことは、よく覚えてない。
 彼が散らばったプリントを拾ってくれて、それを渡してくれて・・・・・・何か言いたげな獅夜さんから逃げるように、職員室に向かった。
 今でも、あれは夢だったのかなと思うけど・・・・・・はっきりと覚えている唇の感触。
 翌日、獅夜さんはいつも通り学校には来なかったし、あれ以来会ってはいないけど・・・・・・できることならこのまま会いたくない。
 というか、獅夜さんはどうして私なんかにキ・・・・・・キスを、したんだろう・・・・・・。
 考えれば考えるほど、わからなかった。
 彼みたいな魅力的な人が、私にあんなことをした理由が。
「はぁ~、獅夜くん来てくれないかなぁ」
    隣の女の子たちは、引き続き獅夜くんの話で盛り上がっている。
「あたしたちの目の保養なのに~」
「でも、いても近づけないじゃん! 獅夜くん女嫌いって有名だし!」
    え・・・・・・?
 女嫌い・・・・・・?
「声かけたら睨まれるらしいよ?女子は近づけただけで殺されるって」
    ぶ、物騒っ・・・・・・。
 というか、そんなはずは・・・・・・だって、半径10メートルどころか、私に・・・・・・。
 思い出すだけで、恥ずかしくて顔が熱くなる。
「獅夜くんの彼女になりたくてみんな必死だけど、全く相手にされないんだって。この前なんて川端さんの告白ガン無視したらしい」
 川端さんとは、校内のマドンナと言われ、モデル活動もしている超絶美少女だ。
 そんな相手からの告白を、無視・・・・・・?
 どうしよう・・・・・・ますます獅夜さんのことがわからなくなってきた・・・・・・。
 もしかして、趣味が変な人だとか・・・・・・?
 それなら、私にあんなことをしたのも納得だ。
「難攻不落すぎるよね・・・・・・」
「クールだし、何考えてるかわからないし・・・・・・」「でも、そこがかっこいいよね」
「「「だよね~」」」
    楽しそうに、盛り上がっている女の子たち。
 本当に、イケメンだったから・・・・・・女の子たちがここまで騒ぐのも無理はない。
 ・・・・・・と、とにかく、あの日の出来事は忘れよう・・・・・・。
 本当に夢だったかもしれないし・・・・・・考えても仕方ないっ・・・・・・。
 記憶を抹消しようと思った時だった。
「おーい、委員長いるか~?」
    担任の先生が教室に入ってきて、名前を呼ばれた。
「は、はいっ・・・・・・!」
 なんだろう・・・・・・?
 急いで立ち上がって、先生の元に走る。
 委員長をしていることもあって、先生に頼みごとをされることは多いけど・・・・・・HRが始まる前にわざわざ教室まで来るなんて、何かあったのかな・・・・・・?
 私が何かしでかしたとか・・・・・・。
「悪いな、急に呼んで」
「い、いえ」
    先生は、私を教室の中から連れ出して、人目につきにくい廊下の影へ移動した。
「実はな、頼みがあるんだ」
    頼み・・・・・・悪い話じゃないみたいで、よかった・・・・・・。
 そう、安心したのもつかの間だった。
「今日の放課後から、獅夜の補習を見てやってくれないか?」
「・・・・・・え?」
    獅夜さんの、補習・・・・・・?
 わ、私が・・・・・・!?


読んで頂きありがとうございました。
次回は続きを書きます。

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