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秋期限定栗きんとん事件 感想

 また読みました、小市民シリーズ。

 上下巻あるのでゆっくり読もうと思っていたんですが、上巻は3日で、下巻は6時間くらいで読み終わってしまいました。

 長編なので続きが気になってしょうがない。

 上巻を読み終わって、仕事の休み時間に下巻を買いに自転車に乗りました。それくらい面白い。

 夏期限定で袂を分かった常悟朗と小佐内さんはそれぞれ別の人と付き合うようになり、これまでは常悟朗の一人称で進んでいた物語はサブ主人公の瓜野くんの視点も交えながら進みます。

 この瓜野くんが小佐内さんの新しい?恋人で、新聞部に所属している一年生。

 彼のことをどうも好きになれない読者が多いようで、感想の多くに好意的でないことが書かれていました。

 私は好きですけどね、あの若々しいひたむきさ。

 瓜野くんは新聞部員として学外の事件、今回は連続放火事件を独自に追いかけるのですが、それがどれもこれも空回りしているのがまた可哀想で、かわいらしくて好きですね。

 私は狼としての小佐内さんをあまり快く思っていないので、そこの差が出ているような気もします。

 ミステリとしては割とわかりやすい展開で放火犯が誰かという点については勘のいいひとなら思いつくだろうと思います。

 ただ、そこに至るまでの後詰めや動機なんかはなかなか難しいのでじっくり考えてみることをおすすめします。私には手に余る難しさでした。

 その辺は各自で読んでいただきたいのでこれ以上は開示しないこととします。

 秋期限定で特筆すべきは小佐内さんが暗躍しているのがわかるのに、小佐内さんの視点では一切描かれないことです。

 先に書いたとおり、常悟朗と瓜野くんの2視点で進むので小佐内さんの描写は瓜野くんからの情報しかありません。

 瓜野くんは常悟朗のような狐ではないので、どうにも察しが悪くて小佐内さんの掌の上でころころしているばかり。

 そこがかわいらしくはあるのですが、中盤くらいで不満に思う読者がいるだろうと思います。

 それでも最後には、ちっとも交わっていなかった常悟朗と小佐内さんが異常とも言えるほどの信頼感で行動していたことがわかり、嬉しくなると同時にちょっとおぞましさすら感じました。

 恋人や依存ではない「互恵関係」ってもうちょっとドライな感じなのかと思っていたのですが、思った以上にぬぷぬぷしていたような。

 いや、ある意味ドライな関係性だからこそ余計な人間的な感情がなく図りやすいのかもしれませんが。

 そんな近すぎる二人の間で右往左往する瓜野くんはメタ的に見れば、二人の関係を描写するためだけに配置された舞台装置に過ぎないと受け取ることもできて、やっぱりちょっとかわいそう。

 彼は学校新聞のヒーローになりたかっただけで、ちょっと間違った方向の正義感が暴走しただけなのに、ここまでメタクソにされて……

 ちょっかいを出した相手があの狼だったのが運の尽きではあるので言ってみれば事故みたいなものなんでしょうが。

 もう二度と出番はなさそうですが、瓜野くんのその後を描いたスピンオフとかあれば私は応援したいです。

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