治療院のリアルな会話【患者さんからの質問に答えていてハッとした話】
【手軽にできると思って始めたら、いつの間にか沼】
施術を終えたあとのお客さんとの会話で出てきた言葉。
私自身も深く納得したので、ちょっと紐解いていきます。
同業のお客さんがきた!
さかのぼること2週間前、治療院の公式LINEに1通の予約メッセージが届いた。
そこには「風邪を引いたので予約をリスケしてほしい」とある。
相手の希望する日にちはちょうど空き枠があったので日時変更OKの返事をしてからの来院となった。
はじめまして(初診)のお客さんが来るときは、いつもよりちょっとだけソワソワする。なにせうちの治療院は入口がわかりづらい(笑)
看板をちゃんと出せよ!とコンサルに言われそうだが、お構いなしに今までやってきた。今回のお客さんも時間に遅れることなくお越しいただけたので、よしとしよう。
ドアを開けて入ってきた男性は身長が高く、一見元気な様子。
あいさつを済ませたあとで、その彼は「◯◯療法に興味があって来ました」と述べた。
そっか、どんな手技をしているか知りたくて来たのか…
そういうお客さんはリピートしないんだよな。と心のなかでつぶやく。
その◯◯療法は、私もセミナーをお手伝いしているので、そちらの案内をしたら施術に入ろう…と考えていた。
そのあとに続けてこう言った。
「10年くらい野口整体をやってます」
いきなりの言葉にテンションが上がる。
野口整体と言えば昭和を代表する徒手療法家、野口晴哉先生のこと。浪越徳治郎と野口晴哉は昭和の2大巨頭としてリスペクトしている。
かたや浪越氏は指圧を世界に広めた功績があり、野口氏は体に対する造詣を数々の著作に表している。
野口氏の代表的な著作は「風邪の効用」
そのあとの話が盛り上がらないわけがない。
施術しながらのリアルな会話
「ちぇっ、同業が来たのか」というようなちっさな考えはいつの間にか消え去り、「せっかくなので手技のことをいろいろと話して情報交換しよう」くらいの勢いになっている自分がいた。
ひと通りのカウンセリングのあとで姿勢をチェックするために写真を撮る。うちの強みはお客さんの姿勢から特徴を分析して、そこから施術方針を立てていくところにある。
「体が楽になりましたね」だけで終わるのではなく、「こことここがこのように変化しました」と必ず付け加えることで、お客さんは納得して次の予約を入れてくれるからだ。
もちろん、姿勢チェックをすることで経過を観察して次の施術方針を立てるのにも役に立つ。一石二鳥なのだ。
「お客さんって、どこがどう変わったかわかんないもんですね」と、その彼は言う。その通りなのだ。
そもそもの(リラクゼーションではなく)治療院に来る理由としては、この痛みをなんとかしてください、なのだ。
痛くないことを求めてやってくる。痛みは自覚症状なので、よしあしの価値基準はお客さんのほうが握ることになる。
施術する立場としては、本人も気がついていないことを指摘して本来の体に気づいてもらい、本来あるべき姿勢に近づけていきたい。
そのためには客観視できるモノサシが必要であり、そのためのコミュニケーションツールとしての姿勢チェックなのだ。
施術する側の価値基準をきちんと明示することで、そこに共感してくださるお客様が自然とファンになり、通ってくださる。
インスタでよく見るビフォーアフターには、そういう深い意味があると私は思っている。もちろん、そうでない人もいるし、過度なビフォーアフターは景表法に引っかかる。広告に載せるのはグレーゾーンぎりぎりであるのは間違いない。
施術中は、いま行っている施術は何を目的にしているのか。
どのような考えで刺激を入れているのか。それを解剖学の言葉に基づいて説明していく。
ちょっとだけ補足すると、そのような説明をするのは男性のお客さんの場合が多い。女性にはまたちがう話し方が必要であり、これは男女の脳の仕組みの違いによるものだ。
質問された答えを反芻して自分でビックリした
ひと通りの施術を終えると、もう一度姿勢のチェックを行う。
施術前と比較をするために。そして写真を見ながら、お客さんに説明をする。
最近の傾向では、男女問わず多くの方が肋骨まわりがのっぺりとして動きづらくなっている。これでは呼吸も浅くてスッキリしないに違いない。
事実、施術で肋骨を動かす操作をしている最中に「息が吸いやすくなってきました」という言葉を何度も聞いている。
それだけ、まだ感染症(Covid-19)の爪痕が残っているのだ。
今日のお客さんも主訴は腰痛とアレルギー性の肌荒れだったのだが、施術を終えてみると呼吸がとても楽になっていることに気がついた。
息を吸いやすくなると体に十分な酸素が巡るので、基礎代謝を上げるにはとてもよい。
そういう意味では猫背や巻き肩の人は呼吸が浅いため、代謝が十分でない可能性がある。
うちでは必ず、最後に「ほかに聞きたいことはありますか」という問いを投げかける。するとそのお客さんは言った。
「先生の治療は、手技をどんなふうに組み合わせていますか?」
この質問が無意識に自分が行っていることを明文化するきっかけになった。
「今日の施術は筋膜へのアプローチが4割、骨格調整が4割、循環器への働きかけが2割です」
「そしてそれは、相手によって割合を変えています」
いろんな手技ができることをどうとらえるか。
手技を学んだ師匠の前では「この道ひと筋でがんばってます!」というほうが聞こえはいいだろう。私自身もその点については負い目を感じてきたことがある。
しかし、目の前で悩みを抱えているお客さんにとって、それはどうでもいいことに過ぎない。健康を取り戻すのにふさわしい施術が一番、なのだ。
そしてなぜ、いろいろな施術を組み合わせているのかという理由を伝えた。
「施術を生業としていると、どうしても相手を自分の型にはめたくなる」
しかしそれは、対人支援という立場ではあってはならないこと。
相手の可能性を狭めてはならないのだと痛感している。同業の彼も、まったく同じ意見のようで深くうなずいて黙り込んでしまった。
しばらくの沈黙のあと、彼は言った。
「この仕事って手軽にできると思って始めたら、いつの間にか沼ですよね」と。
至極、名言。
沼にはまりつつ、自分がどこまで中庸でいられるか。そんな修行の道を歩いているんだということを再確認できるお客さんとの会話だった。
後日談)
このことがきっかけで、こちらの記事を書きました。ご一緒にどうぞ。
physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。