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#講義録・指圧応用実技 2024.6.26 〜2年生の指圧を受けて感じたこと〜

前回の記事では、形のない徒手療法は【受けてこそ気づくものがある】と書きました。そこで今回は学生(2年生)の指圧を受けた記録としてnoteを綴っておきます。

施術を受ける勇気

かれこれ20年以上、指圧という手技療法に関わっています。
その間に、学生の施術を受けたのは専任教員をしていた頃の卒業実技試験以来だと記憶しています。

2年生を対象にした授業では、前期のうちに学生の指圧を受けてフィードバックすることを旨としています。
3年間で学ぶ徒手療法の折り返し地点、残り1年半はどんなことを身につけたらいいのか検証するために。

例え話を一つ。
お酒の席でずーっとビールを飲んでいる人がいるとします。
かたや、ビールで乾杯して2杯目は焼酎の水割り、次にウイスキーのロック、最後に赤ワインを飲んだとすると、いわゆるチャンポンした状態になります。
酒量が増えれば悪酔いするし、いろんな種類のアルコールを見境いなく飲めば二日酔いになるのは想像に難くないでしょう。

授業とはいえ何人もの施術を受けるのも、それに似ています。
一人ひとりの施術が問題なのではありません。
おなじ指圧でも手が違えば入る刺激は異なります。お酒をチャンポンしているのと同じ、それが身体にとっては予想以上の負担となってしまうと感じます。
そういう意味で、何人もの施術を一度に受けるのは勇気のいることと考えられます。

基準があいまいな徒手療法は何をもって評価したらよいか

マッサージはEBMになりえるか

エビデンスがあることは医療の通念となっています。
EBM=「根拠に基づいた医療」です。マッサージは厚生労働省の免許を取得して業として行われるのだが、果たしてそれはEBMとなりうるのでしょうか。

同業者に聞いてみても「否」という返事が返ってきます。
施術師一人ひとりの手が違うので、標準化できないことが大きな理由です。

エビデンスがあるとは再現性があることを意味しています。
カレーのレシピであれば、この材料を揃えてこのように仕込んで、この手順で煮込めば美味しいカレーができるというもの。
Aさんが作ってもBさんが作ってもおなじ味のカレーになるはずです。エビデンスは秘伝のレシピに似ています。

鍼はWHOによって取穴が定められていて、道具としての鍼があるため臨床的なデータも客観的に取ることができます。
その証拠に、鍼を打つ医師は探せば見つかります。しかし、マッサージや指圧をしている医師を見たことがありません。

私のクライアントの医師に、指圧やマッサージはエビデンスに欠けることを話したら(仕方ないですね…)という返事が返ってきました。
言い換えると、百人百様なのがマッサージを始めとする徒手療法だと考えています。

それでも基準は必要

何かを伝える時には、言葉が必要になります。
授業の一環として学生の指圧を受けるときに基準としていたのは、次の4つの項目。どれも数値化しづらく、受け手の主観による評価であることに変わりはないことを断っておきます。

・圧加減
・垂直圧
・四指の支え
・持続(または持続圧)

しかし、その基準がまったく役に立たないのかといえば、そうではありません。

身をもって施術を受けて学び、業として行ってきたことを次の世代に伝える過程では、経験と感覚を頼りに指導していくことになります。
そこには秘伝のレシピと呼べるものがあります。

これら4つの項目が一定のレベルでできているのか、または改善すべき課題があるのかを見極めるために、一人ずつ学生の施術を受けてみました。

持ち時間は1人5分。
その間にうつ伏せで大腿後面と下腿後面を指圧してもらいます。
ハムストリングスと腓腹筋、ヒラメ筋がある箇所です。

受けてみて初めてわかること

フィードバックの実際

1人5分の待ち時間でできること、伝えられることは限られているけれども、それでも成長につながるフィードバックをすることはできます。

たしかに押し方は一人一人違います。
道具を使わない徒手療法では、自分自身の体を道具として使うからです。
指圧で使うのは親指だけではありません。体幹はもとより、足腰も安定させて押圧します。

身長や体格のほかにこれまでの運動歴もじつは手技の習得に関係があると考えています。
体の使い方のクセが、有利に働くこともあれば不利になってしまうケースもあるからです。

Aさんへのフィードバック
・押すときに皮膚面に垂直ではなく斜め上に突き上げる圧方向を感じます。
これは、押そうとする気持ちが強いため手に力が入り、押し始めるタイミングが早いことが原因と考えられます。体幹を意識した体重移動の練習をする必要があります。

Bさんへのフィードバック
・圧加減はちょうどよく、垂直に押圧することもできています。
欲を言えば、ふくらはぎのような筒状の部位を押すときは四指の支えを意識して施術部位を捉えるようにするとさらに安定して押せるようになります。

Cさんへのフィードバック
・圧加減、垂直圧、四指の支えともに安定しています。おなじ圧で繰り返し施術できる、再現性のあるレベルです。

…このような感じで口頭ではあるけれど、一人ひとりにコメントを返しています。

Cさんのレベルまで到達していれば、その先は圧を変化させて受け手の部位に合わせた刺激を入れる技術を伝えたいと思っています。
その変化が受け手の治癒を引き起こすことにつながるのです。

フィードバックのまとめ

うつ伏せで受けていて、わかることがあるんですか?と聞かれそうですが、違いがわかるからこそ修正すべき動きや姿勢を伝えることができると言えます。

圧刺激 = 圧の強さ加減
垂直圧 = 圧の入り方
四指の支え = 手の安定感
持続圧 = リズム

このように置き換えるとわかりやすいでしょう。
学生の施術を受けて、すぐにその場でフィードバックして伝えています。
その際には、できていることと修正すべき提案の2つをセットにして話をします。

今回、指圧を受けてみて感じたことは、次のようなまとめになります。

・垂直に押すことは比較的、多くの学生ができていました
・圧加減は人それぞれなので、ムリに一定にそろえる必要はありません。ただし、自分のなかで3段階の刺激量(軽め、普通、強め)を持っておくとよいでしょう
・クラスの約半分、15人くらいは四指の支えがまだ不十分と感じました
・持続圧は、そもそも授業で話してこなかったのでリズム感に欠けていました

伝えたことは、やはり伝わっていました。
そして講師として何を伝えてこなかったのか、学生の指圧を受けて気付くことができました。

その点は学生の今後の伸びしろになると思っているし、自分が伝える工夫をしてこなかったことは言葉だけ伝えてもできるようにならない、という結論でした。

床での指圧のすすめ

もう一つ、印象的だったことがあります。
授業で使っているベッドは治療用のものだが、幅がある代わりに少し低めにできていて高さ調節はできないタイプのものです。
小柄な女性は背伸びしてもうまく押せないため、受け手が寝ているベッドの上に乗って(床にヨガマットを敷いて施術するように)練習をしていました。

彼女の施術を受けたとき、やはりベッドの上に乗って施術を受けたのですが、小柄な女性にも関わらず安定した圧が感じられました。
体幹が安定する分、ムダな腕の力も入っていません。

巷ではベッドでの施術=両足で立ったまま押したり揉んだりしているのですが、床で行う指圧はベッドでの施術についても教育上のメリットが大きいことを記しておきます。
早いうちに床での指圧に慣れてしまえば、ベッドでの施術で腰を痛めることもなくなると感じています。

physical, mental, spiritual and social well-beingに生きるお手伝いをしています。2020.3に独立開業しました。家族を大切にし、一人ひとりが生き生きと人生を楽しめる社会が訪れるといいなと思いながら綴っています。