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[短編小説] 金の切れ目が縁の切れ目

「なあ、10万貸して?」
当時、付き合っていた彼からの突然の申し出だった。
「えっ」
「・・・・・」
お金貸してって、何のために?どうして?そんなにお金に困ってるの?
頭の中ではいろんな疑問が一気に駆け巡っていた。
でも、口からついて出てきたのは
「いいよ。ちゃんと返してね。」
なんとなく余裕を見せたくて、聞きたいことも聞かずに貸してしまった。器の小さい女と思われたくなかった。
28歳、結婚を意識し始めていた時期のこと。

10万円って、1人暮らしの女性にとってはかなりの大金。当時のアパートは、家賃が月5万円だったから、家賃2ヶ月分。

お金貸してから1週間、2週間、1ヶ月が経った。その間も彼は、私の元へ来て何事もなかったかのように一緒に過ごしている。でも、いい加減返して欲しくて口を開こうとするが躊躇ってしまう。
ようやく決心をして口を開いた。
「あ、あのさ、この間貸した10万円なんだけど….」
「10万円?」
彼は一瞬、戸惑ったような返事をして少し考えると「ああ」
「ごめん、ちょっとまだ余裕がなくてさ。来週、給与が振り込まれたら返すからもう少し待って」

次の週、彼はウチに来なかった。

その次の週には、何事もなくやって来て帰っていった。
しっかり「お金返して」と言えない自分が悪いのかと思ったり、いやいやお金借りてるんだから彼が自分から言い出すべきでしょとか1人ぐるぐる悩んでた。

そして、ついに「もう、10万円貸してから半年経つよ!いつ返してくれるの?」
「まだ、余裕がないんだってもう少し待ってよ」
「もう少しって、ずっと待ってるよ!一体、何に使ったお金なの?」
「…….」
「ねえ。ねえってば!」
「っうるせえな!けちくせえな。」
プツンッ
「うるさいじゃないよ!ちゃんと返してよ。お金のことはきちんとしたいし、私だってそんなに余裕ないんだよ。」
「はあっ….。そんなに細かい奴だとは思わなかったわ。別れよ。」
「えっ」
彼は突然立ち上がると玄関に向かっていった。私は呆然とその背中を見送っていた。
部屋が暗くなり、電気をつけなきゃと立とうとする。
足が痺れて動けない。涙が出てくる。
私の10万円……


あれから数年。
あの時の彼とは一度も連絡をとっていない。お金も帰って来ていない。
悔しい思いはあるけど、縁が切れてよかったと思う。

あの日、最後に思ったことは彼とのことよりお金のことだった。すでに私の中では、お金にだらしない男への愛情はなくなり借金をきちんと返してくれる方が重要だった。
高い、勉強代になった・・・

でも、今は私自身もお金のことをきちんとするようになった。
家計管理、人生設計、貯蓄、投資・・・・考えることは山ほどある。それが楽しい!!
豊かな人生にしよう。

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