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映画雑記🎞

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社会のリアリティを描く作品📹を主に取り上げています。Netflixがメインで、AmazonPrimeは時々課金。
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【映画🎞】未来の終着点、「死」へ向かっていくこと【映画『メッセージ』評】

 音律不たしかな響きが仄暗い底を這うように流れ、それに続くように吐き出されるあぶくのような旋律が寄るべなくさまよう。それらはわれわれの現実空間までもを不穏な空気に浸してゆく。世界各地十二箇所に突如あらわれた「殻」とよばれる未知の飛行物体は、黒の漆を奥まで染み込ませたように無彩色な姿をしていた。その「殻」の中に存在する未確認生物ヘプタポッドたちと会うために、軍から要請を受けた言語学者ルイーズと物理学者イアンを含む数名が内部へと足を踏み入れる。「殻」のなかに潜った途端、平生の重力

【映画🎞】2つを分かつその線の上に立って【『ブラック・クランズマン』評】

 檜皮色のマッチ箱を横へ向かうように交互に積み重ねたような建物は期待に包まれた若者たちで覆われている。入口近くに来ると、外壁から張り出した庇からの発光が中へと繋がる扉の赤銅に反射して周囲を薄く照らしていた。扉とすれ違って中へ入り込む瞬刻、濃い錆の匂いが感覚器官のそばを通り過ぎてゆく。中に入るとすぐに人びとの熱気を十分にこもらせた空気がしっとりと肌に吸いついた。少なくとも確認できるあたりではみな溶け込むように同じ肌の色を纏うと思われる人々の集会は、コロラドスプリングスの黒人学生

【映画🎞】原題Just Mercy、終わらない闘い【『黒い司法 0%からの奇跡』評】

 鈍く光るちいさな鼠色の輪の連鎖、それは二本の足が交互に追いかけあう間を抗うようにゆれている。つい先ほどチョークで塗りつぶしたのかと思われるような変な白さをもつ部屋に若い受刑者が連れられてくる。硬く冷たく、やけに澄んだ音が真四角の部屋中に響き渡る。彼はその部屋にただひとりきりでいるわけではない––––看守らしき大柄な人物と同じくらいの若さの弁護士がともに立ち会っている。それでも、その金属の擦れる残酷なほどに軽く鳴る音は深く突き落とされたような彼の孤独を画面越しに訴えてくる。