Hina

【my favorite】本・旅・ネーデルラント絵画・スロベニア・ワイン 【my place】Slovenia(Ljubljana)・Belgium(Ghent)・Japan

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【my favorite】本・旅・ネーデルラント絵画・スロベニア・ワイン 【my place】Slovenia(Ljubljana)・Belgium(Ghent)・Japan

マガジン

  • 映画雑記🎞

    社会のリアリティを描く作品📹を主に取り上げています。Netflixがメインで、AmazonPrimeは時々課金。

  • ジブン日記

    日々。

  • 襖の向こう、日々。

    実家の和菓子屋を飛び出して、今日から箱根で仲居になる人のお話。初めての土地、初めての仕事、どうなるんだ。

最近の記事

夏の夜ももうすぐそこまで、と。

もう、建て直してからしばらくして貫禄の出てきた家屋の扉をひく。がらがらざらざらと、手の指先4箇所をふるわせる整った長方形をした木枠。茶道のお稽古が終わり、ホッと先生の家を出たなりのことだった。 じーーーっ。 びーーーっ。 耳慣れない——というよりはむしろ、久しぶりに鼓膜を震わせるような波。扉を開けて、少しなまあたたかい香りが鼻を掠めるような心地、それと同時にきこえる振動。もちろん、虫の声ではないかというのは心のうちでわかっているのだが、それで納得のできないつっかえを感じる

    • 【映画🎞】未来の終着点、「死」へ向かっていくこと【映画『メッセージ』評】

       音律不たしかな響きが仄暗い底を這うように流れ、それに続くように吐き出されるあぶくのような旋律が寄るべなくさまよう。それらはわれわれの現実空間までもを不穏な空気に浸してゆく。世界各地十二箇所に突如あらわれた「殻」とよばれる未知の飛行物体は、黒の漆を奥まで染み込ませたように無彩色な姿をしていた。その「殻」の中に存在する未確認生物ヘプタポッドたちと会うために、軍から要請を受けた言語学者ルイーズと物理学者イアンを含む数名が内部へと足を踏み入れる。「殻」のなかに潜った途端、平生の重力

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      • 【映画🎞】2つを分かつその線の上に立って【『ブラック・クランズマン』評】

         檜皮色のマッチ箱を横へ向かうように交互に積み重ねたような建物は期待に包まれた若者たちで覆われている。入口近くに来ると、外壁から張り出した庇からの発光が中へと繋がる扉の赤銅に反射して周囲を薄く照らしていた。扉とすれ違って中へ入り込む瞬刻、濃い錆の匂いが感覚器官のそばを通り過ぎてゆく。中に入るとすぐに人びとの熱気を十分にこもらせた空気がしっとりと肌に吸いついた。少なくとも確認できるあたりではみな溶け込むように同じ肌の色を纏うと思われる人々の集会は、コロラドスプリングスの黒人学生

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        • 【映画🎞】原題Just Mercy、終わらない闘い【『黒い司法 0%からの奇跡』評】

           鈍く光るちいさな鼠色の輪の連鎖、それは二本の足が交互に追いかけあう間を抗うようにゆれている。つい先ほどチョークで塗りつぶしたのかと思われるような変な白さをもつ部屋に若い受刑者が連れられてくる。硬く冷たく、やけに澄んだ音が真四角の部屋中に響き渡る。彼はその部屋にただひとりきりでいるわけではない––––看守らしき大柄な人物と同じくらいの若さの弁護士がともに立ち会っている。それでも、その金属の擦れる残酷なほどに軽く鳴る音は深く突き落とされたような彼の孤独を画面越しに訴えてくる。

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        • 夏の夜ももうすぐそこまで、と。

        • 【映画🎞】未来の終着点、「死」へ向かっていくこと【映画『メッセージ』評】

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        • 【映画🎞】2つを分かつその線の上に立って【『ブラック・クランズマン』評】

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          3本
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        • ジブン日記
          7本
        • 襖の向こう、日々。
          9本

        記事

          朝に夜を記憶する——清里にて

           まだきっと、誰も目を覚ましていない沈黙の濤声を聴く。はるかの遠くで浅緋色が足音を立てずに東の空にゆるやかにひろがり、目の奥までじんわりとあたたかな明るみが入り込んでくるのをじっと感覚する。そのやわらかな光体をそっとからだの中に閉じ込めてしまいたいという衝動に駆られて、わたしはまぶたを閉じた。  そのままひっそりと、時が足をとめる気持ちがしてくる。そうしているうちにゆっくりと朝のふかさをひとりじめしている幸福に包みこまれる。この安らぎのうちにからだが内側から伸びてゆくのを感じ

          朝に夜を記憶する——清里にて

          ささやかに時代に逆行するーー獅子文六『ある結婚式』評

           『ある結婚式』は1963年、高度経済成長期、東京オリンピック誘致に湧き上がる時期に獅子文六によって書かれたものである。元来ずっと媒酌人を断り続けていた「私」は新劇女優の大先輩Tの頼みだけは断りきれず、結婚するTの息子とその相手のために小さな結婚式をとりしきることとなった。自宅の日本間で繰り広げられるささやかな結婚式の風景だけを切り取ると心温まる作品であるのだが、以下ではこの中に隠された社会的潮流に逆行する文脈について考えたい。  本作が発表された3年前、1960年は俳優の石

          ささやかに時代に逆行するーー獅子文六『ある結婚式』評

          牡丹雪は案外積もらない

          大きな四角い窓で区切られた藍鼠の空から 雲をちぎったような雪がこちらに向かって流れてくる。 遠くに見える道の先まで覆い尽くすみたいに漂っている。 大きく軽やかなその雪片は漂い尽くした後、窓に当たっては溶けてゆく。 積もると見せかけて消えてゆくのが北陸の牡丹雪だ。 小学生の頃、錆びかけた古いガスストーブのある居間の記憶。 時折ジジジッと唸りながら、線香花火の落ちる間際の緋色の火球みたいな色でぼうっとひかるそれは部屋の左端に確かに居場所をもっていた。 おばあちゃんはいつもその

          牡丹雪は案外積もらない

          溶け込む福面の”日常”

          2月の風、細く張り詰めた無数の糸さながら 空気を濃く沈んだ灰色のコンクリートと水平に刺して、 急ぎ足の人影をすり抜けて編まれてゆく。 東京の冬、太陽がまだ真上に登りきらない中途な時間、 空気の走りが細胞のひと部屋ひと部屋をトンと叩いて去ってゆく。 縫うように触れてゆく肌にあたるそれが心地よい。 思わず口と鼻を覆うために両耳に紐をかけて充てがった布を その表面が乾いた冷たい右手ですっと下に引き降ろす。 肌にさわさわと触るその化学繊維は いつからかしごく論なく人の顔を覆った。

          溶け込む福面の”日常”

          時をかける少女/残された絵画と”生きること”について

          受け身のbe born 生まれる=be born(受動) つまり、生まれることは受動的なものであるはずなのに、 わたしたちは死からは逃れられない。 これを聞くと、勝手に生まれたのに死からは逃れられない、 勝手に始まって勝手に終わらされる感覚も相まって、 その理不尽さから、”どうせ死ぬのに・・・”と思ってしまいたくなる。 A:死という絶対的なもの =これは自明の真理で対抗するしかない B:死ぬまでは生きている =これもまた自明の真理 ならば、よく生きるとは何か。 これ

          時をかける少女/残された絵画と”生きること”について

          クウェート②〜イギリス生まれの音楽クリエイターとお散歩〜

          Couch Surfingしてみる ”Couch Surfing” 一人旅にはもう欠かせないツールだ。 宿泊費が無料というのはもちろん嬉しいが、Couch Surfingの魅力はそれを超えて 「ローカルを知れる」「語学力を磨ける」「異文化交流ができる」などの魅力がある。 それこそ、クウェートという未知の国に足を踏み入れたわたしにとって、 ローカルで知り合いをつくって話を聞くことほど、必要なことはない。 早速クウェートで人を探すも結構見つかりづらい。 それでもひとり、現

          クウェート②〜イギリス生まれの音楽クリエイターとお散歩〜

          クウェート①〜ちょっぴり埃っぽい街〜

          日本と”クウェート”の意外な関係 ”クウェート” そう聞くとどんなイメージを思い描くだろうか。 ”危なそう、気をつけて行ってきなよ〜” わたしのベルギーの友人は口々にそう言っていた。 正直、行くまでは何も知らなかったけれど、 なんとなくイラクも近くて少し危なっかしいのかも と思ってはいたものの行ってみないとわからない。 そうおもって、いくことに決めた。 そんなイラクとの関係は1990年のクウェート侵攻を機に断絶していたが、 2010年以降は外交使節の交換が行われるなど

          クウェート①〜ちょっぴり埃っぽい街〜

          モロッコ⑤〜やっと着いた砂漠で、念願のアラビアンナイト〜

          砂漠の街、徘徊。 やっと辿り着いた。 ここまでハプニング続きですでに5日間くらいモロッコに滞在してるんじゃないか、って気分になってくるけど実質2日目だ。 フェズについて早々客引きに会うし、砂漠ではバスが寒いし、降りた後も迎えに来ない、などなど、よくここまで辿り着いたなと痛感する。 と、同時にモロッコの優しいお姉さんとおじちゃんの顔も浮かぶ。 そうこうしてるうちにホテルから夕方前に砂漠に向かうツアーの予約に誘われた。 そうそう、これに行きたかったの、そう思いながら予約を

          モロッコ⑤〜やっと着いた砂漠で、念願のアラビアンナイト〜

          モロッコ④〜砂漠で迷子になりかけてヒーローに会う〜

          バス到着と砂漠でひとりぼっち? バスで眠っていると着いたらしい、メルズーガ。 隣のおじちゃんがわたしの右肩をトントンと叩き、 ジェスチャーで教えてくれている。 そうだ、おじちゃんもここの人だっけか。 そうおもって一緒にバスをおりるけれど真夜中におりたったのは おじちゃんと私、数人の観光客らしき人たち、 そして最後に残ったバスの運転手くらいだった。 つまりここはこのバスの最終地点だったらしい。 外はバスの中よりも冷えている。 空気は透明でまっすぐで張り詰めている。 美しい

          モロッコ④〜砂漠で迷子になりかけてヒーローに会う〜

          モロッコにて③〜夜行バスと砂漠、時々〜

          フェズからメルズーガへ メルズーガの出発時刻は20:30の1便だけ。 フェズの迷宮で騙されかけたのは夕刻で、まだまだ時間がある。そう思っていたのにここでの時間の進みは早い。まだ暗くないのに時計の針は19時と30分を指していた。旧市街からバスのでるSupratourまでは歩いていく。 はじめて足を踏み入れたアフリカ大陸の北端。 朝に到着した頃には心も体もふわふわと空中を彷徨っていておぼつかなかったけれど、すこし落ち着いてきた感覚。旧市街を離れて、街ゆく人を横目にSupara

          モロッコにて③〜夜行バスと砂漠、時々〜

          モロッコにて②〜迷宮の旧市街〜

          迷宮の旧市街と鮮やかな砂埃。 「世界一の迷宮都市」とも呼ばれる複雑に入り組んだ空間、フェズ。 イドリーズ朝の時代にフェズは王都となり、芸術や学問の中心として繁栄した。 壁も景色もどこも一緒に見えるので頭の中で地図を描こうなどとは到底思えない。城壁に囲まれたそれは簡単に抜け出せると入った旅行客を鼻で笑い飛ばす気概がある。 観光客らしく、ブー ジュルード門というフェズ最大の城門を探す。一番大きいというが全く一向に見つけられない。他のこの地をおおずれた先の人々はどう探したと

          モロッコにて②〜迷宮の旧市街〜

          モロッコにて①〜想像のアフリカ大陸〜

          想像のアフリカ大陸を探しに。 小学校の教室。 先生の卓上に置いてあった地球儀を弄びながら遠い国だと思っていた、あの頃の小さな手にすっぽりとおさまったアフリカ大陸。まるい球体をするすると指でなでるだけならすぐに辿り着いた。 その机の斜め左上の天井から吊るされた四角の電気的な信号を受け取った面に写る限りではただただ細かな砂が一面に広がっていて、ぎらりと太陽が目の奥を刺してくるような気がする。同時に浮かぶのは白と黒だけで映すにはもったいないくらいの色で塗られた街の活気と聞いた

          モロッコにて①〜想像のアフリカ大陸〜