本屋で、定点観測したい

最近、カレンダーの予定が埋まっていないことが、楽しくて、楽しくて、仕方がない。むしろ、予定がある日の朝は、少し構えてしまうようになった、くらいだ。

カレンダーにみっちりと予定が詰まっていた日々が、ずいぶんと長く、続いた。月ごと・週ごとに、予定とやるべきことを、整理する。そして、ほぼ毎日、1日の時間とその日の予定の差分から、やることの優先順位づけ。予定と自分の生の折り合いをつけるための、習慣みたいなものだった。

たくさん予定と過ごす日々は、笑いあり、涙あり、モヤモヤあり。自分だけでは気づかなかったことに、気づく。揺らぎながらも、進み続けること。これは本当に、必要な時間だったので、その選択をした自分、そしてその中で出会って全てに、感謝している。

だけど、多くの予定があると、生活の大半が、自分の手によって管理される。休みがある日は、時間的に余裕があっても、精神的な余裕を保てず、1日中、だらだらと過ごすことが多くなる。または、誰かと会うなど、決められた時間を過ごす。とにかく「偶然な何か」が入り込む隙間は、あんまりなかった。

まあ、山あり谷あり、色んな日を乗り越えてきた3年間だったが、今は、なんといっても、休学中である。カレンダーも白の部分の方が、断然、多くなった。

急に誘われた予定も、アンテナが動けば、すぐに駆けつけられるし、ふと見ていたアニメが面白くなってきたら、そのまま朝まで続きを見れる。あと、暑くなってきたら、すぐ湯船に飛ぶこむことも、できてしまうのだ!

上へ上へ、前へ前へと進むばかりではなく、立ち止まって、自分の心に耳を傾ける。そして、自分のペースで、「よし、来たぞ」と思ったら、進み始める。その時の気分は、自分の内側から、何かが満ちてくる感じ。外に、多くを、求めない。忘れかけていた色んなことを、思い出す。

決して、忙しいことへのアンチテーゼではない。ただ、全てに目的を持たなくても、いい、というだけだ。流れに身を任せて、ぷかぷかと浮いてみる。偏った資本主義社会とその反対の社会の間の中で、自分の生を大切することと進んでいくことが共生するには。というのは、この半年くらいで、よく考えるテーマのひとつだ。

今日は、思ったよりも予定が早く終わり、時間ができた。「さて、今から、何をしようか。せっかく出てきたのに、家に帰るのも、もったいないしな・・・」そう思いながら、バス停に向かうと、ちょうど一本のバスがやってきた。それは、街の中心部にある大きな本屋まで向かうバスだった。よし、乗ってみよう。私は、何も考えず、バスに飛び乗った。

まだ5月の頭だというのに、北九州の日中の日差しは、ギラギラと肌を照りつける。そんな中で、辿り着いた本屋。入った瞬間、ひやっと涼しい風が、肌にふれる。皐月の温度に溶けかけていた身体は、やさしく、ほぐれていく。

携帯の通知を、そっとオフする。そして、時間を気にせず、好きなだけ、広い本屋の中を、隅から隅まで、ぐるぐる回り始める。

普段だったら通らない場所も、通ってみる。場違いな気がして、少し肩身の狭い思いをする。この世界は、知らないことだらけだ。自分の考えなんて、たまたま、この時代に生まれ、この国に生まれ、ここまでの偶然が重なって生まれたもので。人類の歴史と、情報に溢れる今の社会の中では、ほんの、ほんの、一部なんだろう。本屋は、自分の世界を大きく広げてくれるものだけではなく、自分の小ささに、気づかせてくれる場所でもある。

興味がない所は、スっと飛ばす。目に入った所は、足を止め、本をじっくり眺める。そして、特に気になった一冊を手に取って、パラパラとめくってみる。また、本屋を一周したら、さっきの場所へと戻る。それを、飽きるまで繰り返す。

ああ、なんというか、心地がよい。興味がある本が、ここ3年間だけでも、随分と変わったことに、気づく。

大学1年生の時は、100人以上の大きな組織に入っていたので、まずは、そこで紹介された本を片っ端から読んだ。チームビルディング、伝える力、習慣化、思考整理の仕方・・・自己啓発やビジネスの本ばかりだった。

今は、どうだ。目に止まるものは、詩集やエッセイ集、小説などばかりだ。あんだけお世話になった自己啓発やビジネスの本のコーナーに行くと、どうしても今は、少しばかり、息苦しささえ、感じてしまう。

目に留まるワードに注目してみるのも、また面白い。深呼吸、旅、生、山、海、暇、時間・・・。今の自分が、何を求めているかも、よく分かる。

本屋で、定点観測をしたいな。ふと、そう思った。「本屋」という場を通して、いまの自分にも、出会う。自分の頭は、思ったよりも、自分を知らなかったりする。

こうやって書いている今、私の部屋には、色んな本が共存している。自分の中の多様性にも、また気づく。

次は、どんな本に、目が留まるかな。
私の定点観測は、これからも、続いていく。

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