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#8_『xx市場』、ほんとうに見えてますか?

2020年、市場調査等のためにインドを訪れた。複数の都市を訪れて、私の「インド市場」に対する解像度の低さを実感した。事前に日本でインドを調査していて、(無意識にではあるが)ある程度インドのことを「見えている」つもりになっていたのだ。

分かりやすいところでいえば、宗教について。
信仰する宗教の割合をみると、ヒンドゥー教徒はインド全体の8割だ。

インドの宗教

しかし実際にインドに行くと、地域によってこの構造は全く異なっている。ほとんどがイスラム教徒という地域も多くある。

また企業の競争環境についても、売上順にプレイヤーを並べてみても、実態が理解できていることにはならない。
現地でヒアリングをしてみると、聞き馴染みのないプレイヤーのサービスが、特定のエリアで多くの人に使われているということがしばしばあった。

日本では「インドは難しい国だ」という言い回しが定型表現になりつつある。
インドは世界で2番目に人口が多い上に、まだまだ経済成長の可能性を残しているため、海外展開を考える多くの企業が「インド市場」へ熱い視線を向けている一方で、多くの企業が検討の末に参入を断念している。
この難しさの背景には何があるのだろうか?

様々な要因の一つに、日本からインド市場を覗き込む「ピント」が合っていないことがあるのではないか。

「インドは13億人が暮らす大きなマーケットだ」という捉え方は間違ってはいない。ただこれは、「EUは4億人を抱える大きなマーケットだ」という捉え方と大差ない。

インドの多様性を表すことわざがある。

「15マイル歩けば方言が変わり、25マイル歩けばカレーの味が変わる。100マイル歩けば言葉が変わる」

日本の約10倍の国土を持つインドには29の州がある。22の指定言語と2,000もの方言がある上に、話し言葉が同じでも違う文字を使う地域もある。
実際に、訪れた数都市だけでも、食習慣、宗教、人種、所得水準、商習慣や流通など、大きな違いがあった。

これをまとめて「インド市場」と括ってみても、ほんとうのインドは見えてこないだろう。これは参入を断念する「あるあるパターン」の一つだ。
例えば、ある商材の海外展開を検討する際に、インドがその商材の世界有数の消費地であることが分かる。
ただし実態は、インド全土に点在するごく一部の消費をかき集めた数字に過ぎない上に、各地に強力な地場ブランドが存在しており、現実的にアプローチできるのはごく一部の層に限られる、といったパターンだ。

海外市場をみる際には、見たいものに合わせてレンズを付け替えてみる必要がある。参入検討の初期段階では魅力的に見えていた市場が、レンズを付け替えてみるとさほど魅力的でないことはよくある。インドはそのギャップが大きい故、「インド市場は難しい」といわれることが多いのだろう。

これから海外市場を覗き込もうとしている段階では、そのレンズが本当に正しく「市場」を映しているか、常に複眼的な視点を持っておく必要がある。また、検討が進み熱量が下がり始めているのであれば、それは市場がきちんと「見えてきた」ということでもある。必要以上に落ち込む必要はなく、健全な検討を踏んでいる証なのだと思う。

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